ネグス
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ネグス(英語: Negus、ゲエズ語: ንጉሥ・nəgueś [ゲエズ語]、アムハラ語: ነጋሲ・negus [アムハラ語])は、エチオピア・セム諸語とエチオピア貴族と宮廷の諸称号で「王」を意味する用語である[1]。通常この称号は、1974年以前のエチオピアにおいて、ネグサ・ナガストつまり「諸王の王」から、地域の支配者に与えられた[2]。従ってネグスは、「諸王の王」のもとの「王」という関係となる。イスラームの伝統では、ネグスはAl-Najashi(النجاشي)として知られている。
歴史
ネグスはエチオピア・セム諸語の三語根ngś(「支配する」という意味)に由来する名詞である。称号のネグスは古代ギリシア語ではバシレウス(ギリシア語: βασιλεύς)へ翻訳されており、バシレウスという表記はアクスムの貨幣に多く見られる。その称号は聖書やその他の文学作品において一貫して「王」や「皇帝」と翻訳されていた。
この称号は、少なくともアクスム王国時代初期には成立していた。もっとも早い時期の同時代史料は、エチオピアで出土したアクスム王国のブロンズ製奉納品の刻文で、gdr/ngs/'ksmと刻まれており(アクスムの王GDR)、紀元200年頃のものとされている(柘植1994)。更に後世になると、最重要の諸州(諸王国)の知事に授けられる名誉称号として利用された。その諸州とは、ゴジャム、ベゲムデル、ウォロ、ティグレの各州や、海岸沿いの王国である。海沿いの王国ではバフリー・ネガシ(海の王)という称号が使われており、現在の中央エチオピアの支配者の称号だった。軍事称号である「Meridazmatch」は、当初はショアの支配者たちによりサーレ・セラシエ(在位1813-47年)の時代まで使われた。サーレ・セラシエと彼の子孫たちはこの称号を王号としても採用した[3][4]。
語源
エチオピア・セム諸語群のマリク(m-l-k)が発展するにつれ、その起源となる王を意味するセム系言語の三語根が、壊れた複数形「ʾämlak/ʔamlāk」の表記で「神」を意味する一般用語へと発展した。これと並行してセム系言語で「支配者」や「領主」を意味するn-g-sが王を意味するようになっていった。アッタル神に言及している古代アラム語の碑文では、彼の名前は𐡍𐡂𐡔(ngš)という称号を冠しており、古代北アラビア語の支配者を意味する𐪌𐪔𐪆(ngś)に対応している[5]。
ポピュラーカルチャー
第80回スクリップ・スナショナル・スペリング・ビーでは、出場者のアンドリュー・レイ(Andrew Lay)が、視聴者が驚くような反応を引き出す用語として「negus」のスペルを書くことを要求され、人気ビデオのスニペット集にもくわえられた。ケンドリック・ラマーの2015年の曲「i」でもこの用語が登場し、Nワードと「negus」を比較して描いている。
参考文献
- 柘植洋一『「アクスム(エチオピア北部)の遺跡について」』金沢大学、1994年。
関連項目
脚注
- ^ Haile Selassie, Western Education, and Political Revolution in Ethiopia. Cambria Press. ISBN 9781621969143
- ^ Negus. Amharic nəgus, from Geez nĕgūša nagašt king of kings. First Known Use: 1594 Merriam Webster dictionary
- ^ Mussie Tesfagiorgis G. Ph.D. (29 October 2010). Eritrea. ABC-CLIO. pp. 34–35. ISBN 978-1-59884-232-6
- ^ Alemseged Abbay (1998). Identity Jilted, Or, Re-imagining Identity?: The Divergent Paths of the Eritrean and Tigrayan Nationalist Struggles. The Red Sea Press. p. 202. ISBN 978-1-56902-072-2
- ^ Lipiński, Edward (2000). The Aramaeans: Their Ancient History, Culture, Religion. Orientalia Lovaniensia analecta. 100. Leuven, Belgium: Peeters Publishers. ISBN 978-9-042-90859-8
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