ケイリーの定理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/21 04:15 UTC 版)
群論におけるケイリーの定理(ケイリーのていり、Cayley's theorem)とは、すべての群 G は対称群の部分群に同型であるとする定理である[1]。アーサー・ケイリーにちなんで名付けられた。より具体的には、G は対称群 Sym(G) (その元が G の集合の置換である群)の部分群と同型である。明示的に表すと
- 各 g ∈ G について定義される、x ∈ G をその左から g を掛けた gx に移す写像 ℓg : G → G は G の置換である。
- g ∈ G を ℓg に移す写像 G → Sym(G) は単射準同型なので、G から Sym(G) の部分群への同型写像を定義する。
準同型写像 G → Sym(G) は集合 G に対する G の左並進作用から生じるものとしても理解できる[2]。
G が有限のとき Sym(G) も有限である。この場合のケイリーの定理の証明は、G が n 次の有限群であれば G は標準的な対称群 Sn の部分群と同型であることから示される。しかし、G はより小さな対称群 Sm (m < n) の部分群と同型である可能性もある。例えば、位数 6 の群 G = S3 は S6 の部分群と同型であるだけでなく、(自明に)S3 の部分群とも同型である[3]。与えられた群 G が埋め込まれる最小次数対称群を見つける問題はかなり難しい[4][5]。
アルペリンとベル[6]は、「一般に有限群が対称群に埋め込まれているという事実は、有限群を研究するために使用される方法に影響を与えていない」と指摘している。
G が無限大のときは Sym(G) も無限大であるが、ケイリーの定理は依然として適用可能である。
歴史
十分に初歩的なように思えるが、当時は現代的な定義は存在せず、ケイリーが現在「群」と呼ばれているものを導入したとき、これが既に「置換群」と呼ばれている既知の群と同等であることがすぐには分からなかった。ケイリーの定理はこの 2 つを統合する。
バーンサイド[7]はこの定理をジョルダン[8]に帰属させているが、エリック・ヌメラ[9]はそれでもなお標準的な「ケイリーの定理」という名称が実際は適切であると主張している。ケイリーは1854年のオリジナルの論文[10]で定理中の対応が1対1であることを示したが、それが準同型(つまり埋め込み)であることを明示的に示すことはできなかった。しかしヌメラは、ケイリーがこの結果を当時の数学界に報告していたため、ジョルダンより16年ほど先行していたと指摘している。
この定理は後に1882年にヴァルター・ダイクによって出版され[11]、バーンサイドの本の初版ではダイクの著作とされている[12]。
背景
集合 A の置換とは A から A への全単射関数である。A のすべての置換の集合は写像の合成のもとで群をなし、A 上の対称群と呼ばれ、Sym(A) と書かれる[13]。 特に A を群 G の台集合とすると、Sym(G) と表記される対称群が生成される。
証明
g を演算 * を持つ群 G の元であるとし、 fg(x) = g * x で定義される関数 fg : G → G を考える。逆元の存在からこの関数は逆関数 fg-1 をもつ。よって g による乗算は全単射関数とみなせる。したがって fg は G の置換であり、Sym(G) の元でもある。
集合 K = {fg | g ∈ G} は G と同型な Sym(G) の部分群である。これを証明する最も早い方法は任意の g ∈ G に対して T(g) = fg となる関数 T : G → Sym(G) を考えることである。T は群準同型である。なぜなら任意の x ∈ G について
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