カシャフ川の竜とは? わかりやすく解説

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カシャフ川の竜

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/25 22:42 UTC 版)

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カシャフ川の竜[注釈 1](カシャフがわのりゅう)とは、ペルシア建国神話を伝える『シャー・ナーメ(王書)』に登場するである。

物語

カシャフ川の竜の物語は、『シャー・ナーメ』において、サームが息子ザールのためにイラン国王マヌーチェフル英語版宛に書いた手紙の中で言及される[注釈 2]

サームが治める国にあったカシャフ (: Kashaf) 川に毒竜がおり、人々を苦しめていた。竜は巨大で、火を噴いて鳥を落とし、川からは鰐を掴み出し、毒で周囲を汚染して、この世を支配したかのように振る舞っていた。サームはこの毒竜を退治する決意をする。盾、矛、弓を持ち、象ほどにも大きな馬に乗ってカシャフ川に向かい、竜と相まみえた。毒竜がサームを餌食にしようと襲いかかって来たが、サームは白ポプラの矢[注釈 3]を放った。矢は竜の口の中に命中し舌を射貫いて上顎に突き刺さったが、竜はなおもサームに迫ってくる。そこでサームが、牛頭の鎚矛でもって竜の額を打つと、その一撃で竜は倒れた。竜の体からは大河のように毒が流れ出し、脳漿が山のように溢れ出し、カシャフ川は胆汁で溢れかえったという[7][5][8]

以来、サームは「必殺のサーム」[9]「一撃のサーム」[10][11][12]の異名を取るようになった。しかしサーム自身も毒に体を蝕まれ、回復までに長くかかった[9][5]。また、竜のいた地域ではしばらくの間農作物が収穫できなかったという[9]。ロスタムの倒したドラゴンと「竜」と「龍」で漢字が違うが、英語ではどちらもdragon(ドラゴン)であるため深い意味はない。強いて言えば、ペルシャのドラゴンの見た目は東洋系のため、容姿だけで言うのなら「龍」という漢字の方が相応しいのかもしれない。これは、ロスタム、イスファンディヤール、バハラーム五世などのドラゴン退治の絵画で確認出来る。

脚注

注釈

[脚注の使い方]
  1. ^ ペルシアの神話 - 光と闇のたたかい』 p.156ではカシャフ川の恐竜、『幻獣ドラゴン』ではカシャフ川のドラゴン
  2. ^ サームはナリーマン英語版家の武将であり、イラン王フェリドゥーン(ファリードゥーン)の曾孫にあたるマヌーチェフルが王子だった頃に、フェリドゥーンから命じられて後見人を務めた人物である[1]。そして、ザールが愛するようになったカブールルーダーベ英語版姫は蛇王ザッハークの曾孫、彼女の父である王メフラーブ英語版は孫にあたる人物であった[2]。現在はイラン王であるマヌーチェフルは、ザッハークへの恨みを忘れていなかったため、サームにカブールへの攻撃を命じた。しかしザールが、父サームの前に立ちはだかって出撃を止めた[3]。カブールでは、イラン王の怒りを恐れたメフラーブ王がルーダーベ姫を処刑しようとしたが、彼女の決意も揺るがなかった[3][4]。ザールが、直接イラン王と会って結婚の許しを得たいと訴えたため、サームは息子に持たせる王宛の手紙をしたためた[5]
  3. ^ 岡田 (1982)によれば、のちにザールがマヌーチェフル王の元での武芸比べで弓矢での射的に挑んだ際、ザールが用いたのも白ポプラの矢であった[6]

出典

  1. ^ 岡田 (1982), p. 109.(IV 「老王の悲しみ」)
  2. ^ フェルドウスィー,岡田訳 (1999), p. 156.(第2部 第2章「5 賢者の薦め」)。
  3. ^ a b フェルドウスィー,岡田訳 (1999), p. 161.(第2部 第2章「6 父サームへの手紙」)。
  4. ^ 岡田 (1982), pp. 150-151.(V 2 「開かれた秘めごと」)
  5. ^ a b c 岡田 (1982), p. 156.(V 2 「父の手紙」)
  6. ^ 岡田 (1982), p. 163.(V 2 「智慧問答」)
  7. ^ フェルドウスィー,岡田訳 (1999), pp. 163-164.(第2部 第2章「7 王への嘆願」)。
  8. ^ 苑崎 (1990), pp. 101-102.
  9. ^ a b c フェルドウスィー,岡田訳 (1999), p. 164.(第2部 第2章「7 王への嘆願」)。
  10. ^ フィルドゥスィー,黒柳訳 (1969), p. 57.(ザールの巻)
  11. ^ フィルドゥスィー,黒柳訳 (1969), p. 420.(ザールの巻 注34)
  12. ^ 苑崎 (1990), p. 102.

参考文献

原典資料

二次資料

関連書籍

  • Arthur George Warner, Edmond Warner 『The Shahnama of Firdausi』 第1巻、Routledge、2013年11月5日、pp. 235, 297。(英語)



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