イオントラップ型量子コンピュータとは? わかりやすく解説

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イオントラップ型量子コンピュータ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/19 07:57 UTC 版)

量子コンピュータ用のチップ型イオントラップ(2011年NISTが開発)

イオントラップ型量子コンピュータ(イオントラップがたりょうしコンピュータ)は、量子情報の格納にイオントラップを利用した計算方式であり、大規模量子コンピュータの実現方法の一つ。電磁場を用いて荷電粒子(イオン)を自由空間内に閉じ込めて保持(トラップ)し、量子ビットを粒子の安定な電子的状態として格納する。一つのイオントラップで各量子ビットに対応した複数の荷電粒子をトラップでき、量子情報は各荷電粒子の集団量子化運動(クーロン力による相互作用)を介して相互に転送される。主に量子ゲートを実現する上での理由から、量子ビットの表現にイオン状態(内部スピン状態 0/1)とフォノン状態(外部運動状態 0/1)という二種類の状態表現が用いられ、必要に応じて使い分けられるという特徴がある。これらの量子状態と量子ビットの関連付け(カップリング)や、イオン状態とフォノン状態の関連付けにはレーザーが用いられる[1]。前者は初期化・回転・測定といった単一量子ビットの操作に、後者は制御NOTゲートといった多入力量子ゲートにおける量子もつれの操作に必要である。

イオントラップ型量子コンピュータは、現在知られているものの中では、量子コンピュータの基本演算を最も高い精度で行うことができる計算方式である。また、これを任意の数の量子ビットへとスケール(拡張)させるために有力視されている仕組みとして、複数のイオントラップ間で量子情報を転送する方法や、量子テレポーテーションを用いた光子接続ネットワークによる大規模な量子もつれ状態の構築、およびこれら二つのアイデアの組み合わせなどが開発されている。 これらの技術は、イオントラップ方式による汎用的な大規模量子コンピュータの実現を非常に現実的なものにしている。2018年4月現在、最大で20個のイオン間の量子もつれがこの方式で制御可能であることが分かっている[2][3][4]

パウルイオントラップ

一連のカルシウムイオン用のインスブルックの古典的な線形ポールトラップ。

量子コンピュータの研究で現在広く利用されている電気力学イオントラップは、1950年代にウォルフガング・パウルが発明した。(パウルはこの貢献により、1989年にノーベル賞受賞している[5]。)本来、荷電粒子はアーンショーの定理があるため、静電力だけでは三次元空間上に保持することができない。 しかし、無線周波数(RF)で振動する電界を印加すると同じ周波数で回転するサドル形の電位が形成されため、このRF場に適切なパラメータ(振動周波数と場の強さ)を与えることで、荷電粒子はマシュー方程式に従う鞍点上の復元力によってある範囲内に留まり、実質的にトラップしておくことが可能になる[1]

この鞍点は、ポテンシャル場上の荷電粒子のエネルギー

イオントラップ内のマグネシウムイオン

量子コンピュータの完全な機能要件は不明だが、一般に受け入れられている要件は多数あり、これらはディビチェンゾによって概説されている(→ディビチェンゾの基準英語版[1]

量子ビット

基本的に、二つの準位で構成される量子系はどれも量子ビットを表現できる。イオンの電子状態を使用して量子ビットを形成するには、たとえば以下の方法が知られている。

  1. 超微細量子ビット 2つの基底状態の超微細準位を利用
  2. 光量子ビット 基底状態レベルと励起レベルを利用

超微細量子ビットは非常に長寿命(数千から数百万年の減衰時間)であり、位相/周波数は安定している(原子周波数標準で伝統的に使用されている)[7]。光量子ビットは、論理ゲートの動作時間(マイクロ秒のオーダー)と比較し、比較的長寿命(1秒のオーダーの減衰時間)である。 どちらの量子ビットを採用するかは、研究室での課題を大きく左右する。

初期化

荷電粒子を用いた量子ビット状態は、 光ポンピングと呼ばれる過程を経ることで特定の量子ビット状態に初期化することができる。 このプロセスでは、レーザーを用い、荷電粒子をレーザーと相互作用しないエネルギー準位に減衰するような特定範囲の励起状態へとカップリングする。一度荷電粒子がこのエネルギー準位に減衰すれば、レーザーの存在下でも粒子は同じ状態に安定して留まり続ける。もしも荷電粒子が他のエネルギー準位に減衰するようであれば、その粒子を目的のエネルギー準位になるまで励起し続ける。 この初期化プロセスは多くの物理実験で標準であり、非常に高い忠実度英語版(> 99.9%)で実行できることが知られている[9]。このエネルギー準位はゼロフォノンと呼ばれ、量子ビット カテゴリ




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