龍樹 人物同一性

龍樹

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/31 15:22 UTC 版)

人物同一性

錬金術師

インドでは仏教の僧であるよりも錬金術師・占星術師として有名で著作伝説があるが、これはこの項で触れている龍樹よりもはるか後代に出現した同名の錬金術師と混同されているためである。

  • 『ラサ゠ウパニシャッド』 - ナーガールジュナ作の錬金術の方法が記述されている。
  • 『ラサ・ラトナーカラ』、玄奘『大唐西域記』 - ナーガールジュナとサーリヴァハーナ王(引正王)の対話(不老長寿の霊薬など)。
  • 『ラサラトナ゠サムッチャヤ』(水銀の宝の集成) - 水銀学の27人の学者のなかでナーガールジュナをあげる。

密教の祖

新龍樹

大正時代の河口慧海寺本婉雅は、『八十四成就者伝』の龍樹伝が特異であることから、それに書かれた龍樹は、本来の龍樹の没後(寺本によると6世紀)の同名異人であるとした。この説では、本来の龍樹を「古龍樹 (Nāgārjuna I)」、『八十四成就者伝』の龍樹を「新龍樹 (Nāgārjuna II)」と呼び分ける。

河口は、密教経典のうち『無上瑜伽タントラ』(左道密教)が新龍樹の著作であるとしたが、これには、古龍樹の著に基づく真言密教の正当性を主張するという背景があった。

一方、寺本は、龍樹に帰せられていた密教経典の全てが新龍樹の著作であり、古龍樹は密教とは無関係であるとした。すなわち、古龍樹が中観の祖、新龍樹が密教の祖である[19]

この説に対し羽溪了諦は、2人の龍樹の伝記の骨子

は共通であることから、これらは同一人物の伝記であり、『八十四成就者伝』が異なる部分は密教の影響による潤色であるとした。また、栂尾祥雲は『八十四成就者伝』の史料的価値を否定した。

龍猛

寺本は、新古2人の龍樹に加え、古龍樹の弟子の龍猛 (Nāgāhvaya) がいたとした。龍猛は浄土教の祖であり、『入楞伽経』に記された龍樹の授記は龍猛のものであるとした[19]

現在、龍猛が別人とされるときは、密教の業績が帰せられることが多い。この点では、寺本説の龍猛ではなくむしろ新龍樹に対応する(ただし龍猛と新龍樹は別の史料に基づく人物像である)。

中村元による分類

中村元は、ナーガールジュナに帰せられる多数の著作が全て同一人によって書かれたかどうかは、大いに論議のあるところであるとしており、複数のナーガールジュナの存在も考えられるとしている[20]。中村は、以下の6人のうちの5および6は、1とは大分色彩を異にしているので別人ではないかと思われると述べている[20]

  1. 中論』などの思想を展開させた著者
  2. 仏教百科事典と呼ぶにふさわしい『大智度論』の著者
  3. 華厳経』十地品の註釈書『十住毘婆沙論』の著者
  4. 現実的問題を扱った『宝行王正論』などの著者
  5. 真言密教の学者としてのナーガールジュナ
  6. 化学(錬金術)の学者としてのナーガールジュナ

注釈

  1. ^ ナーガールジュナ…ナーガは、蛇(蛇神転じて龍)、アルジュナインド神話の『マハーバーラタ』に登場する武将から(英雄の意味もある)。
  2. ^ なお、不空訳の『三十七尊出生義』では龍樹は数百年生きたとされる[3]
  3. ^ ただし一説にこれは龍猛の出身地であり龍樹の出身地は不明[13]

出典

  1. ^ 「ふほうのはっそ【付法の八祖】」 - 大辞林 第三版
  2. ^ 「龍樹」 - ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
  3. ^ a b 「龍猛」(小野塚幾澄) - 日本大百科全書(ニッポニカ)
  4. ^ 岩波仏教辞典 第二版, p. 438.
  5. ^ 真宗新辞典, p. 213.
  6. ^ 真宗新辞典, pp. 508–509.
  7. ^ 広説佛教語大辞典 縮刷版 2010, p. 685.
  8. ^ 大正新脩大藏經テキストデータベース『淨土高僧和讃』龍樹菩薩十首 (續諸宗部 Vol.83)
  9. ^ 直勧; 吉迦夜; 曇曜; 鳩摩羅什; 真諦; 道宣; 志磐; 師錬「淨土 2巻」『八祖列全傳記纂』、秋田屋平左衞門、1680年。NCID BB20345210
  10. ^ 鳩摩羅什; 真諦『龍樹菩薩傳.婆藪槃豆法師傳』、植村藤右衛門 : 井上忠兵衛、1763年、NCID BB20589361
  11. ^ 鳩摩羅什; 真諦『馬鳴菩薩傳 ; 龍樹菩薩傳 ; 龍樹菩薩傳別本 ; 提婆菩薩傳 . 婆藪槃豆傳』、支那内學院、1932年、NCID BA87507515
  12. ^ 中村 2002, p. 19.
  13. ^ 寺本 1926, pp. 117–124.
  14. ^ 中村 2002, pp. 33–34.
  15. ^ 梅原 2006, pp. 196–197.
  16. ^ 広説佛教語大辞典 2001, p. 701.
  17. ^ 広説佛教語大辞典 2001, p. 927.
  18. ^ 「諸法實相印」 [17]
  19. ^ a b 寺本 1926, pp. 1–5.
  20. ^ a b 中村元 2005, pp. 52–53.


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