隣接代数 (順序理論)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/02/06 14:14 UTC 版)
定義
- [a, b] = {x : a ≤ x ≤ b}
が有限集合であるような半順序集合である。
隣接代数の元は、空でない各区間 [a, b] に対して(係数環とする単位的可換環に値を取る)スカラー f(a, b) を対応させる関数である。この台集合上で、元ごとの和とスカラー倍が定義でき、また隣接代数の「積」は以下の畳み込みで定義する[4]。
隣接代数が有限次元であることと、それを定める半順序集合が有限であることは同値である。
関連する概念
隣接代数は群代数に類する概念である。実際、(群および半順序集合を特別な種類の圏と見做すというのと同じ意味で)群代数および隣接代数は圏代数の特別の場合になっている。
特別な元
- デルタ函数
- 隣接代数は乗法単位元をもち、それは以下で定義されるデルタ函数である。
- ゼータ函数
- 隣接代数の「ゼータ関数」とは、すべての区間 [a, b] に対し、ζ(a,b) = 1 となるような定数関数である。ζ を掛けることは積分に相当する。
- メビウス函数
- ζ は隣接代数において(上で定義した畳み込みに対して)可逆であることを示すことができる。(一般に、隣接代数の元 h が可逆であるための必要十分条件は任意の x に対して h(x,x) が可逆であることである。)ゼータ関数の乗法逆元は、メビウス関数 μ(a, b) である。メビウス関数の値は常に、係数環の単位元 1 の整数倍である。
- メビウス関数は次のように帰納的に定義することもできる:
- μ を掛けることは微分に相当し、それはメビウス反転とも呼ばれる。
例
- 正整数全体の成す集合 N に整除関係 ⊰ で順序を入れた半順序集合の接合代数におけるメビウス関数は a が b を割り切る (a ⊰ b) ような任意の (a, b) に対して
μ(a,b) = μ(b⁄a)で与えられる。ただし右辺の μ は、19世紀に数論に導入された古典的なメビウス関数である。メビウス反転はメビウスの反転公式として与えられる。
- 適当な集合 E の有限部分集合全体の成す集合 Pfin(E)(これは幾何学的には超立方体 2E)に包含関係 ⊆ で順序を入れた半順序集合の接合代数におけるメビウス関数は S ⊆ T なる E の有限部分集合の任意の対に対して
μ(S,T) = (−1)|T ∖ S|で与えられる。このときのメビウス反転は包含と切除の原理と呼ばれるものである[5]。
- 自然数全体の成す集合 N に通常の大小関係 ≤ で順序を入れた半順序集合(これは幾何学的には離散数直線)の接合代数において、メビウス関数は
で与えられる。このメビウス関数に関する反転は後退差分作用素と呼ばれる。
- 「数列の畳み込み」が「形式的冪級数の積」に対応するものであったことに注意しよう。するとこのメビウス関数は形式的冪級数 1 − z の係数列 (1, −1, 0, 0, 0, …) に対応し、ゼータ関数が逆数函数 (1 − z)−1 の級数展開の係数列 (1, 1, 1, 1, …) に対応する。同様に、この隣接代数におけるデルタ関数は形式的冪級数としての 1 に対応する。
- 上の3つの例は適当な多重集合 E の有限部分多重集合全体に包含関係で順序を入れた半順序集合の場合に統合的に一般化できる。メビウス関数は多重集合 E の有限部分多重集合 S, T が S ⊆ T なるとき
S ∖ T が集合でない真の多重集合(重複元を持つ)ならば μ(S,T) = 0,S ∖ T が集合(重複元を持たない)ならば μ(S,T) = (−1)|T ∖ S|として与えられる。
- 最初の正整数と整除性の例は、この一般化された設定において整数をその重複度を込めて考えた素因数全体の成す多重集合と見做すことで与えられる。例えば整数 12 = 22・3 は多重集合 {2,2,3} である。
- 三つ目の自然数と大小関係の例は、与えられた自然数に対し「属する元が 1 でその重複度が与えられた自然数に等しい」ような多重集合を考えることで与えられる。例えば 3 = 1+1+1 は多重集合 {1,1,1} である。
- 二つ目の例は(真の多重集合の場合は現れないから)明らか。
- 有限 p-群 G の部分群全体の成す集合に包含関係で順序を入れた半順序集合のメビウス函数は K が H の正規部分群で H/K ≅ (Z/pZ)k なるとき
それ以外のとき 0となる。これはWeisner[6]による定理である。
- 適当な有限集合の分割全体の成す集合に、σ ≤ τ は σ が τ の細分となるときと定めた半順序集合の接合代数のメビウス函数は、σ の成分数 n, τ の成分数 r, σ ≤ τ として、また σ の成分をちょうど i 個含むような τ の成分の総数を ri として
で与えられる。
- ^ 日比 (1997), p. 34
- ^ スタンレイ (1990), p. 133
- ^ Rota 1964
- ^ Doubilet et al. (1972), p. 271
- ^ スタンレイ (1990), p. 139
- ^ Weisner (1935a),Weisner (1935b)
- ^ Peter Doubilet, Gian-Carlo Rota and Richard Stanley: On the Foundations of Combinatorics (IV): The Idea of Generating Function, Berkeley Symp. on Math. Statist. and Prob. Proc. Sixth Berkeley Symp. on Math. Statist. and Prob., Vol. 2 (Univ. of Calif. Press, 1972), 267-318, available online in open access
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- 2 隣接代数 (順序理論)の概要
- 3 オイラー標数
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