欧州懐疑主義 欧州議会における懐疑論

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欧州懐疑主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/12 07:49 UTC 版)

欧州議会における懐疑論

欧州議会においても懐疑派が議席を有して会派を結成している。2004年、イギリス、ポーランド、デンマーク、スウェーデン出身の計37名の欧州議会議員はかつての民主主義と多様性のヨーロッパに由来する新会派「独立と民主主義」を結成した。新会派の主たる目的は欧州憲法条約の破棄と欧州統合のさらなる進展の反対である。会派内の一部の議員団、とりわけイギリス独立党はイギリスの完全な欧州連合脱退を主張している。

2009年では右派系の欧州保守改革グループ自由と民主主義のヨーロッパ、左派系の欧州統一左派や欧州緑グループ・欧州自由連盟もまた懐疑的な立場にある。

各国での懐疑論

イギリス

イギリスにおける、欧州懐疑論は、欧州連合(当時は欧州経済共同体)の発足以来の大きな政治課題となっており、イギリスが欧州連合に加わった今もなおその風潮は減退していない。

元来「欧州懐疑(Euroskeptic)」という用語は、欧州連合に対する賛成・反対という議論で用いられてきたものである。国家や議会の独立性といった欧州連合に対する批判を重視すべきだという立場にある欧州懐疑派では、聞こえの良い「汎ヨーロッパ主義」の反義語として「欧州懐疑主義」は消極的な印象があり、欧州統合を唱えるものにとって修辞的に有利であるという意見がある。

レトリックな点での不利を回避するために、「欧州現実主義」という言葉が代わりに作り上げられた。しかし、近年では欧州現実主義という言葉は欧州懐疑主義よりも緩やかな意味合いを指すようになり、 欧州現実主義では欧州連合からの離脱や完全な解体は必ずしも必要ではなく、むしろある程度の機構の修正で済ませようという考え方を表すものとなった。

ほかに同義語として「欧州批判主義」や侮蔑的に表すものとして「欧州嫌悪主義」といった言葉が見受けられることがある。また単純な形容詞として「反欧州連合(反EU)」という言葉も使われるが、ほとんどの場合においてこれは類義語とみなされておらず、イギリスの欧州懐疑派はイギリスの欧州連合脱退を模索しているのではなく、組織の大幅な改革を推し進めようとしているのである。

欧州懐疑派の多くは自らの反対の立場を示すものとして汎ヨーロッパ主義という言葉を用いることには反対している。欧州懐疑派は自らの汎民主主義的イデオロギーのほうが連邦主義の者よりも汎ヨーロッパ的であるという立場を崩していない。欧州懐疑派では自らの反対の立場にあるものを「欧州愛好主義」などと呼称し、その理念を欧州連合支持、連邦主義、統合主義、欧州中央主義としている。

またイギリスの欧州懐疑派はメートル法化に反対しており、これを欧州連合による押し付けと考えている。

2015年イギリス総選挙ではイギリス国民のEUへの反発を背景にEU離脱を唱えるイギリス独立党が1議席しか獲得こそしなかったものの得票を伸ばした。過半数を獲得した保守党デーヴィッド・キャメロン政権はEUからの離脱を問う国民投票を2016年6月24日に実施した。投票の結果、有効票の約52%が離脱に投じられた[3]

2021年、イギリスは完全なブレグジットを遂行し、欧州連合を去った。

オーストリア

極右とも評される右翼ポピュリズム政党のオーストリア自由党は、1989年から欧州懐疑論の立場を表明し、1994年のEU加盟や1998年のユーロ導入にも反対していた。

フランス

第二次大戦後、ゴーリスト(ド・ゴール主義者)とフランス共産党は欧州統合の動きに対して一貫して抵抗してきた。

1978年、当時の大統領ヴァレリー・ジスカール・デスタンのライバルであったジャック・シラクは、著書「コシャンの呼び声(Appel de Cochin)」において、汎ユーロ主義者のデスタンが結成したフランス民主連合を「外国人の党」と評している。

EUによって移民政策の決定権が国家から抜き取られたとして国民戦線(現・国民連合)等が批判していた。

共産党や社会党の一部派閥は、欧州憲法条約は「超自由主義的」市場政策を不可逆的なものにするとして反対し、EUが自由経済自由貿易、行政サービスや社会保障の解体、反民主的なまでのテクノクラシーと金権政治をもたらすと批判している。

EUからの離脱を掲げる政党の筆頭としては人民共和連合がある。

中東欧

ポーランドにおいて落書きされた欧州連合の標識(2003年)

中欧の新しい加盟国では欧州懐疑論者の中で欧州連合の官僚制社会主義者の風潮は成熟した西欧諸国の経済には適しているかもしれないが、いまだ脆弱な旧共産圏では経済に予期せぬ停滞を招く可能性があるという議論があがっている。新規加盟国の政府が欧州連合の求める要件に法令を整備するため、既存の加盟国がそのような法令を採択していない場合でも、財政拠出を実施しようとするときにこのような考え方が大きく取り沙汰される。汎ヨーロッパ主義者は、規制による負担は加盟後の経済成長で適合できるようになるものであり、欧州連合内では新規加盟国が経済成長率を改善することができるとしている。

このほかに、新規加盟国が非加盟の隣国との国境において、欧州連合の水準での管理を実施しなければならないという必要性が問題視されている。たとえばポーランドとウクライナの国境地帯で大きな影響が起こっている。欧州連合の査証制度導入により、隣国との国境を越えた通商が大幅に減少し、ポーランドの最貧地域では零細企業の多くが倒産した。このことから一部では、ポーランドの欧州連合加盟はウクライナに対する背信行為であり、結局のところロシアの影響圏に押し込むことになりかねないのである。経済学者の多くは、利益は平等に配分されないものの、1国単位の規模で見ると欧州連合域内での移動や開業の自由が与えられることによってこのような不利益は相殺されるとしている。

また欧州連合に対する批判として、東欧地域での近年の民族国家主義の隆興を防ぐことができないというものがあり、その例としてコソボが挙げられる。欧州連合は西欧諸国で機能するモデルを、東欧における異なる生活実態をまったく考慮せずに当てはめようとして非難され、このようなアプローチによって解決どころか問題がこじれるという主張がなされることがある。

ルーマニアスロバキアクロアチアの一部では、ハンガリー民族統一主義者東欧地域において欧州連合によって造られた新たな基盤を手に入れたという主張がある。ハンガリーの政治家は近隣諸国の内政問題に自分たちが関与することが欧州連合の規則により可能になったというのである。非難の対象となった最たる例として、ハンガリーが民族的少数の権利の正当な概念を、周辺地域におけるさまざまな形態の報復主義的行為を促進するために適用しようとしたことが挙げられる。ハンガリーは民族の概念を再定義する内容の身分法を修正し、経済的、社会的、文化的特恵を受ける対象を近隣諸国に所在するハンガリーの民族に拡大することでこの考え方を後押ししている。なおこの近隣諸国とされているルーマニア、スロバキア、クロアチア、ウクライナは2001年にこの法律に反対している。欧州評議会の機関である法による民主主義のための欧州委員会(ヴェニス委員会)がルーマニアにより招集され、ハンガリーの行動を批判している。


  1. ^ 反ユーロ新党、議席ゼロでも存在感 欧州政治の波乱要因に日本経済新聞、2013年9月27日。2014年2月1日閲覧)
  2. ^ [オーストリア下院選「反ユーロ」極右が躍進 与党辛勝 http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM30014_Q3A930C1EB1000/](日本経済新聞、2013年9月30日。2014年2月1日閲覧)
  3. ^ 英国民投票:EU離脱へ、金融市場大荒れ キャメロン首相「辞任の意向」(ロイター 2016年6月24日 2016年6月24日閲覧。)
  4. ^ David R. Reagan, Europe In Bible Prophecy
  5. ^ The Christian Institute, European Threat to Religious Freedom
  6. ^ B.A. Robinson, DO "GOD" AND "CHRISTIANITY" HAVE A PLACE IN THE EUROPEAN UNION CONSTITUTION? Ontario Consultants on Religious Tolerance 2003年5月29日


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