地下鉄等旅客車 電車の火災事故対策の移り変わり

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地下鉄等旅客車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/04 07:24 UTC 版)

電車の火災事故対策の移り変わり

日本において、最初に火災事故対策を強く意識した車両は、1927年東京地下鉄道(現・東京地下鉄銀座線)に、開業と共に導入された1000形電車である[2]。まだ木造車両が現役で幅広く活躍していた時期に、「地下鉄で最も恐れなければならないのは火災である。日本は地震国であり、したがって火災事故は起こるものと考慮されてしかるべきである。そのために、地下鉄に導入する車両は燃えない全金属製車両でなければならない。」という考え方から[2]、車体が全鋼製であるだけではなく、内装も金属を多用し可燃物を可能な限り使用しない設計とした[2]。この車両が現在にも至る、日本の全地下鉄車両の不燃性を考慮するうえでの最初の雛形になった。

1951年4月24日に発生した桜木町事故は、停電時にドアの開閉操作ができないこと、貫通扉が内開戸式で、脱出を試みる旅客の圧力で開扉出来なかったこと、三段式窓の中段が固定されていて脱出に困難を極めたこと、戦時設計で塗料を含め可燃性の材料を多く使用していたことなどの要因が重なり[3]、死者106名、負傷者93名の大惨事となった。これに伴い事故の引き金となった63系の改修工事が、日本における本格的な鉄道車両の火災対策といってよい。このため、以下の改修工事が行われた。

  • 貫通路の設置と、内開式貫通扉の撤去
  • 車内警報ブザーの新設
  • 乗客が非常時に扱えるドアコックの新設
  • 絶縁強化・防火塗料の塗布
  • 三段窓中段の可動・上昇式化

その後、木材を使用しない全金属製車体が1950年代後半から実用化されることとなった。

1956年5月7日に発生した南海高野線での火災事故を受け、運輸省(当時)が火災事故対策に乗り出し同年6月15日付けで電車の火災事故対策について(鉄運第39号)を通達し、さらに同年8月の近鉄高安工場での燃焼実験を受け、1957年1月25日付で電車の火災事故対策に関する処理方について(鉄運第5号)を通達した。この通達ではA様式・B様式の2種を定め、新製車のうち、主として地下線を運転する車両・地下線に乗り入れ運転する車両・別に指定する路線を運転する車両はA様式で、その他でも極力A様式で製造することを求めた。既存車両も更新時にはA様式またはB様式での改造をすることとした。既存車両についてはまだ木造車が中小私鉄に残っており、努力義務に近かった。その直後、1957年7月16日に発生した大阪市営地下鉄御堂筋線での火災事故により、地下鉄用旅客車においてはより厳しい基準が必要であるとのことから、1957年12月18日付で電車の火災事故対策に関する処理方の一部改正について(鉄運第136号)を通達し、A-A様式を追加した。

1968年1月27日に発生した営団日比谷線神谷町駅での東武車両の火災事故では、主回路が異常な閉回路を構成しA-A様式車両が1両全焼に至ったことから、1969年5月15日付「電車の火災事故対策について」(第鉄運81号)を通達した。これは、従来のA-A様式・A様式・B様式を基本としつつより火災対策を強化したもので、A-A基準・A基準・B基準と名称も変わり、その後国鉄分割民営化に伴う法令改正までこの基準で鉄道車両は製造されることになるが、現在この通達はすでに廃止されている。

1969年5月15日付通達の火災対策基準

A-A基準

地下線を運転する車両、地下線に乗り入れ運転する車両、別に指定する路線(懸垂鉄道・跨座式鉄道・案内軌条式鉄道)を運転する車両

全般
原則として不燃性材料使用。構造・機能上やむを得ない場合は難燃性とし、使用量を少なくするよう努める。
屋根
金属とし、架空線式の場合は難燃性の絶縁材料で覆う。
天井・内張・外板
金属。塗料も不燃性。
金属。敷物は難燃性。
断熱材
不燃性。
座席
難燃性。
日よけ・幌
難燃性。
貫通路
車両の前後端面に貫通口設置(車体と建築定規間が400 mm以上の場合は省略可)。
  • 連結面間の貫通路に渡り板・幌等の設置。
  • 貫通口および貫通路の有効幅確保(縦1800 mm幅600 mm以上)。
  • 扉設置の場合は引戸とする。
主回路
メインヒューズ・ブスヒューズは集電装置に近い位置に設置。
  • 異常な閉回路を構成しない。床下抵抗器付近の配線禁止・ダクト・防熱板による防護。
  • 電弧・電熱を発する場所に近接し焦損のおそれのある箇所は不燃性。
  • 電線被覆は難燃性。座席下部の発熱体と座席間に防熱板。
予備灯
室内灯が消灯したときに自動点灯する予備灯の設置。
通報装置
車掌から客室へ放送出来る装置・運転士と車掌が相互に会話できる装置の設置(停電時も使用可)。
戸閉装置(車掌スイッチ
停電の際にも開扉できる
ドアコックおよび標示
旅客が操作できる非常停止装置・通報装置の取り扱い方の明示。
  • みだりに車外へ出ないよう乗務員の誘導に従うよう要請文の掲示。
  • 架空線式車両の場合はドアコックの取付位置および操作方法を明示(架空線式車両以外の車両・地下線専用車両は除く)。
消火器
取り外し・取り扱いが容易。油火災および電気火災用のもので客室設置のものは有害ガスを発生しない。
その他
機器箱は不燃性。床下主要機器名の明記。

A基準

大都市およびその周辺の線区で長大トンネルのある区間を運転する車両(今後[いつから?]新造する車両はつとめてA-A基準によるものとする)。

屋根
金属とし、難燃性の絶縁材料で覆う。
天井・内張・外板
金属。塗料も不燃性(ただし妻面は難燃性可)。
金属。敷物は難燃性。
座席
つとめて難燃性。
貫通路
少なくとも2両間に貫通路設置。連結面間の貫通路に渡り板・幌等の設置。貫通口および貫通路の有効幅確保(幅550 mm以上)。扉設置の場合は引戸とする。
主回路
床下抵抗器付近の配線禁止・ダクト・防熱板による防護。電弧・電熱を発する場所に近接し焦損のおそれのある箇所は不燃性。電線被覆は難燃性。
予備灯
室内灯が消灯したときに自動点灯する予備灯の設置。
通報装置
車掌から客室へ放送出来る装置の設置。
ドアコックおよび標示
旅客が操作できる非常停止装置・通報装置の取り扱い方の明示。みだりに車外へ出ないよう乗務員の誘導に従うよう要請文の掲示。ドアコックの取付位置および操作方法を明示。
消火器
取り外し・取り扱いが容易。油火災および電気火災用のもので客室設置のものは有害ガスを発生しない。

B基準

A-A基準・A基準によらないもの(今後新造する車両はつとめてA基準によるものとする)

天井・外板
金属等の不燃性(ただし妻面は難燃性可)。
電弧・電熱を発する場所に近接している上部の床下面に金属等不燃性の板を張る。
貫通路
乗務員の乗車していない車両には、少なくとも2両間に貫通路設置。連結面間の貫通路に渡り板・幌等の設置。扉は開き戸式の時は開放したまま保持できる。
主回路
床下抵抗器上部に不燃性の防熱板を張る。電弧・電熱を発する場所に近接し焦損のおそれのある箇所は不燃性。電線被覆は難燃性。
予備灯
室内灯が消灯したときに自動点灯する予備灯の設置。
ドアコックおよび標示
旅客が操作できる非常停止装置・通報装置の取り扱い方の明示。取付位置および操作方法を明示。
消火器
取り外し・取り扱いが容易。油火災および電気火災用のもので客室設置のものは有害ガスを発生しない。

普通鉄道構造規則への移行

JR発足時に改訂された法体系に基づき普通鉄道構造規則で地下鉄車両と長大トンネルを走行する車両に分けて規定された。これにより1969年通達は廃止となったが、その後の技術の発展等を加味し対策が「通達」から「規則」に強化されたものといえる。

冒頭の地下鉄等旅客車の定義はこのとき定められた。

普通鉄道構造規則での地下鉄等旅客車の火災対策は以下の通り。

天井・外板・内張り
不燃性
断熱材・防音材
不燃性
床敷物・詰物
極難燃性
床板
金属製
床下面の塗装
不燃性
床下の機器箱
難燃性
貫通口・貫通路
貫通口及び貫通路をそれぞれ2個設置(最前部・最後部、機関車に接続される車両はそれぞれ1個)。サードレール式の車両で最前部・最後部となる車両は貫通口を2個・貫通路を1個設置。
ほろ
難燃性
座席
詰物は難燃性。下方に電熱器を設けている場合は保護板。

  1. ^ 技術基準省令 - e-Gov法令検索 第29条に関連する電力関係の規定であるが、以下を「長大なトンネル」としている。 国土交通省 「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準の一部改正について」 Ⅵ-2 関係9 (2004年)
    市街地の地下に設けるトンネルであって、一つのトンネルの長さが1.5 kmを超えるもの、市街地の地下以外に設けるトンネルであって、一つのトンネルの長さが2 kmを超えるもの及びトンネル内に駅を設置するトンネルであって、トンネル内の駅間距離(ホーム端間距離をいう。)又はトンネル端と最寄駅のホーム端との距離が1 kmを超えるもの。
  2. ^ a b c 東京メトロのひみつ(P30)
  3. ^ 鉄道ファン1996年1月号 ロクサン形電車とそのファミリー





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