信玄堤 研究史

信玄堤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/19 08:51 UTC 版)

研究史

「甲斐国志」に「雁行(がんこう)二差次シテ重複セリ」と表現された堤防が設けられ、ケヤキなどの樹木が植えられた
信玄堤周辺広域空中写真。画像左上方(北西側)より釜無川、御勅使川が合流し、赤坂台地西端に突き当たり、流路を南南東方向へ変える。1975年撮影の9枚を合成作成。
国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成。

信玄堤は文化11年刊『甲斐国志』以来、武田信玄関係の評伝や山梨県の自治体史等において信玄期に主導された代表的治績と位置づけられてきた。

昭和戦前期には昭和2年『中巨摩郡誌』、昭和11年『山梨県綜合郷土研究』が信玄堤に言及し、戦後に本格化した実証的武田氏研究においては、安達満が江戸期の「御本丸様書上」を用いて信玄堤築堤当初の形態復元を試み[11]柴辻俊六は信玄堤の築堤と竜王河原宿の成立過程を論じた[12]

一方で、信玄期の関与を示す直接的な史料が無いことから、笹本正治は戦国期大名権力の力量では技術的にも大規模な人足動員を必要とする治水は不可能であったとしている[13]

また、安達満は近世期の検地帳に見られる石高小字名を分析し釜無川の旧流路を分析し[14]、川﨑剛は歴史地理学の手法を用いて釜無川流域の河川関係の小字名を分析し、釜無川の旧流路分析を行った[15]

近年では、南アルプス市域の開発に際して御勅使川旧河道に関する考古学的調査が行われ、2004年に開催されたシンポジウム『信玄堤の再評価』において報告された。同シンポジウムでは御勅使川の現流路(掘切流路)は短期間に形成されたものであるが自然開削であった可能性が示され、堤防工事が自然作用による流路変更を固定化したものであるとする説も提唱されている[16]。これを踏まえて文献史学の立場からは、信玄の治績であるとする立場は維持しつつ、堤防工事は大名権力による川除衆らの技術者集団や労働力が動員され、河原宿設置や用水路開削など一定の計画性により行われたものであると評価する意見が見られる[17]

山梨県立博物館では2007年(平成19年)から共同研究「甲斐の治水・利水と景観の変化」を行い、信玄堤絵図や検地帳を分析することで堤防の形態的変遷や耕地の開発過程を検討した。


  1. ^ a b 『水の国やまなし』、p.6
  2. ^ 勝俣(2007)、p.417
  3. ^ a b c d e f 『水の国やまなし』、p.110
  4. ^ 平山(2005)、p.4
  5. ^ a b c d 『水の国やまなし』、p.111
  6. ^ a b c 平山(2005)、pp.11 - 12
  7. ^ 山梨県立博物館寄託・今沢家文書
  8. ^ a b c d e f g h 平山(2007)、p.561
  9. ^ 平山(2007)、pp.560 - 561
  10. ^ 植松又次「甲斐の石造鳥居概観」(『甲斐路』26号、1975年)
  11. ^ 安達満「初期『信玄堤』の形態について-最近の安芸・古島説を巡って-」(『日本歴史』335号、1976年)
  12. ^ 柴辻俊六「戦国期の築堤事業と河原宿の成立」(『甲斐史学』特集号、1965年)
  13. ^ 笹本正治『武田信玄-伝説的英雄像からの脱却-』(中公新書、1997年)
  14. ^ 安達満「釜無川治水の発展過程」(『近世甲斐の治水と開発』山梨日日新聞社、1993年)
  15. ^ 川﨑剛「釜無川の流路変遷について」(『武田氏研究』13号、1994年)
  16. ^ 今福利恵「御勅使川流路の変遷と地域の諸相」(信玄堤の再評価実行委員会編『信玄堤の再評価』2004年)
  17. ^ 平山優「中近世移行期甲斐における治水の発展」(信玄堤の再評価実行委員会編『信玄堤の再評価』2004年)






信玄堤と同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「信玄堤」の関連用語

信玄堤のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



信玄堤のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの信玄堤 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS