ルーゴン・マッカール叢書 影響

ルーゴン・マッカール叢書

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/18 08:27 UTC 版)

影響

当時、ロシア文学と共に世界の文学シーンを主導していたフランスにおける自然主義の勃興は、当然のように世界中に影響を与えることとなった。

作品集

エミール・ゾラの項も参照。(※10冊は、論創社「ルーゴン=マッカール叢書」小田光雄、他に伊藤桂子訳が3冊)。映画化された作品も多い。

『ルーゴン家の誕生』"La Fortune des Rougon", 1870年/伊藤桂子訳(論創社、2003年)
南仏の架空の町プラッサンを舞台に、ナポレオン派と共和派の争いを、少年シルヴェールの悲恋を絡めて描く。
「ルーゴン・マッカール家」の第三世代まで、顔見せ興行的な面があるので必読の書である。
獲物の分け前"La Curée", 1871年/伊藤桂子訳(論創社、2004年)/中井敦子訳(ちくま文庫、2004年)
ルーゴン家の三男、アリスティド(サッカール)が、パリの再開発に伴う土地の投機に狂奔する[3]
『パリの胃袋』"Le Ventre de Paris", 1873年/朝比奈弘治訳(藤原書店、2003年)
パリの市場を舞台に、ギニアから脱走してきた青年フロランは監督官として働き者との評判を取るが、やがて周囲に疑われるようになり、フロランの義妹リザ(マッカールの娘)の密告で共和主義者として逮捕される。
『プラッサンの征服』"La Conquête de Plassans", 1874年※
プラッサンにやってきたフォージャ神父は、ムーレ家の支配からはじまり、プラッサン全体の支配を確立するが、発狂したムーレが自宅に放火し、フォージャ一家を焼き殺してしまう。
『ムーレ神父のあやまち』"La Faute de l'Abbé Mouret", 1875年/清水正和倉智恒夫訳(藤原書店、2003年)
狂信的な神父セルジュ・ムーレはパラドゥーで野性的な少女アルビーヌと出会い、愛し合うようになるが、セルジュは信仰に悩み、やがてアルビーヌは死んでゆく。
『ウージェーヌ・ルーゴン閣下』"Son Excellence Eugène Rougon ", 1876年※
政治家ウージェーヌの活動を通し、フランス第二帝政の内幕とボナパルティスムの実態を明らかにした政治内幕小説。
居酒屋"L'Assommoir", 1876年/古賀照一訳(新潮文庫、改版2006年)[4]
ゾラ最大の出世作で、最も重版した作品(日本語訳の数も「ナナ」と並び多い)。パリに出てきた洗濯女ジェルヴェーズ・マッカールが死にものぐるいで働き、自分の店を持つまでになるが、夫クーポーとジェルヴェーズとの生活にジェルヴェーズの前恋人ランチエがころがり込んでくると経済的に苦しくなる。やがてジェルヴェーズは、自分の店を他人に売り渡す。夫クーポーが酒に溺れ発狂して死んでしまい、さらに娘のナナが家出を繰り返し放蕩生活を送るようになると、ジェルヴェーズ自身も酒に溺れるようになり、破滅し、売春婦になろうとするがうまくいかず、飢え死にする。この続編が『ナナ』である。自然主義文学の特徴として人間の醜悪な部分を描いたため、当時のフランス社会に大反響をもたらした[5]
『愛の一ページ』"Une page d'amour", 1878年/石井啓子訳(藤原書店、2003年)
息抜きの一作。エレーヌ・ムーレは医師と恋に落ちるが、娘のジャンヌはそのために嫉妬に駆られて死んでゆく。パリの情景。
ナナ"Nana", 1879年※(他に日本語訳多数)
ジェルヴェーズの娘アンナ(ナナ)が舞台女優から高級娼婦(クルチザンヌ)になり、第二帝政末期の周囲のブルジョワ・貴族を次々に破滅させてゆくが、ナナ自身も若くして疫病で亡くなる[6]
『ごった煮』"Pot-Bouille", 1882年※
プラッサンから出てきたオクターヴ・ムーレが、その周囲のブルジョワ婦人と次々に情交を重ねてゆく。当時のブルジョワの風俗を戯画的に描く[7]
ボヌール・デ・ダム百貨店"Au Bonheur des Dames", 1883年/吉田典子訳(藤原書店、2004年)/伊藤桂子訳(論創社、2002年、新版2023年)
前作の主人公オクターヴが経営する近代的百貨店ボヌール・デ・ダームが、周囲の小規模な商店街を壊滅させながら発展してゆく。ドゥニーズ・ボーデュとの恋も絡む[8]
生きる歓び"La Joie de Vivre", 1884年※/河内清訳(1974年、新版・筑摩書房『筑摩世界文学大系46 ゾラ』)
息抜きの一作。ポーリーヌ(リザの娘)が、海辺のまちで健やかに育ち、ひっそりと暮らしてゆく。当時フランスでも隆盛を誇ったショーペンハウアー哲学に対するゾラの文学的回答[9]
ジェルミナール"Germinal", 1885年※/河内清訳(1964年、中央公論社「世界の文学23 ゾラ」のち中公文庫 上下)
炭坑における労働者の悲惨な生活、その生活苦から労働者が立ち上がりストライキを起こすが、そのストライキが敗北に終わるまでを描いた大作。主人公はジェルヴェーズの息子エチエンヌ・ランティエ[10]
制作英語版』(または『作品』[11][12]"L'Œuvre", 1886年/清水正和訳(岩波文庫 全2巻、1999年)
画家クロード・ランティエは、理想の女を描こうと苦闘するが、やがて敗れて精神を病む。妻のクリスティーヌに正気にもどるよう説得され一時われに返るが、自分の描いた絵の女の前で首をつり死んでしまう。夫の自殺を目撃したクリスティーヌは、嫉妬と驚愕のあまり発狂。
『大地』"La Terre", 1887年※
軍隊を退役してきた農民ジャン・マッカールはフーアンの姪フランソワーズと結婚するが、フランソワーズは姉リーズともみ合いになり死に、それを目撃したフーアンは息子ピュトーに焼き殺され、これに絶望したジャンは農村を去りふたたび軍隊に戻る。フーアン家の財産争い。この大地の続編が「壊滅」である。
『夢(夢想)』"Le Rêve ", 1888年※
シドニーの娘アンジェリックが、貴族の息子フェリシアンと恋に落ちる。当初反対していたフェリシアンの父もやがてアンジェリックの結婚を認めるが、彼女は結婚式の最中に息を引き取る。
『獣人』"La Bête Humaine", 1890年/寺田光徳訳(藤原書店、2004年)[13]
休暇中の機関士ジャック・ランティエは、列車内での殺人を目撃する。ジャックはやがて犯人ルーボーの妻セヴリーヌと情を通じるが、彼女を衝動的に殺害する[14]
『金(かね)』"L'Argent", 1891年/野村正人訳(藤原書店、2003年)
土地投機に失敗したアリスティドは、「ユニヴァーサル銀行」を開業。バブル経済に乗って当初は破竹の勢いを示すが、やがて破綻する。
『壊滅』"La Débâcle", 1892年※
『大地』の続編。よそ者を排除する閉鎖的な農村に絶望し、ふたたび軍隊へもどった無学な農民ジャン・マッカールは、軍隊で弁護士資格を持つインテリ青年モーリスと親友になる。普仏戦争の敗北、ナポレオン三世の捕虜・廃位、第二帝政の崩壊、臨時政府の成立、フランクフルト条約の締結、パリ・コミューン(労働者によるパリ自治政府)の成立と崩壊の中で、ジャンは、ティエールが率いる臨時政府の軍隊として、モーリスはパリ・コミューン戦士として対立することになり、ついに銃剣でモーリスを殺害してしまう。ジャンは、ふたたびフランスの大地へ戻る。
『パスカル博士』"Le Docteur Pascal", 1893年※
パスカル・ルーゴンは故郷のプラッサンで一族の記録をとどめ、新しい遺伝理論の構築をはかる。彼は姪クロチルドと愛し合うが、心臓病で急死する。理論原稿はパスカルの母フェリシテが焼き払う。

脚注


  1. ^ Bibliothèque nationale de France|BNF] Ms10290, fo285
  2. ^ Bibliothèque nationale de France|BNF] Ms10290, fo172
  3. ^ ロジェ・ヴァディム監督で同名の映画化(1966年)。
  4. ^ 他に清水徹訳(集英社版「世界文学全集」で数度、新版・ギャラリー「世界の文学7」、1990年)がある。
  5. ^ ルネ・クレマン監督で同名の映画化(1956年)。
  6. ^ ジャン・ルノワール監督で『女優ナナ』として映画化(1926年)。
  7. ^ ジュリアン・デュヴィヴィエ監督で『奥様ご用心』として映画化(1957年)。
  8. ^ アンドレ・カイヤット監督の『貴婦人たちお幸せに』として映画化(1943年)。
  9. ^ ルネ・クレマン監督でアラン・ドロン主演の映画『生きる歓び』とは無関係である。
  10. ^ クロード・ベリ監督で『ジェルミナル』として映画化(1993年)。
  11. ^ 實谷総一郎 (2018年9月22日). “ゾラ、生の美学 美術批評から『作品』へ”. 日本フランス語フランス文学会. 2020年4月14日閲覧。
  12. ^ 寺田寅彦 (1994年9月1日). “ゾラの美術批評と『作品』”. 京都大学フランス語学フランス文学研究会. 2020年4月21日閲覧。
  13. ^ 訳者による『欲望する機械 ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」』(藤原書店、2013年)がある。
  14. ^ ジャン・ルノワール監督で同名の映画化(1938年)。





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