ヘイト本
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/19 10:01 UTC 版)
定義、内容
日刊SPA!によれば、「ヘイト本」は、タイトルや帯の文章が異様に長く、内容は中国と韓国(特に韓国)への批判や嫌悪が中心である[1]。
「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」の岩下結は「ヘイト本は形として韓国や中国の政府批判であるかもしれない。でもその背景には人種的偏見があり、多くは『韓国人、中国人とはこういうやつらだ』という言い方になっている。ヘイトスピーチの温床をこうした本が、かなり広げている」「負の感情をあおるタイトルは『冷静な議論ではない』と自ら宣言しているようなもの。建設的な批判をしたいなら、そうした体裁を取るべきではない」と主張している[2]。また、ころから代表の木瀬貴吉は「タイトルでこそ決まります。タイトルのみで決まると言い切っていいです」と主張している[3]。
宮城佑輔によると、「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」は「排外的装い」を持った近年の出版物を「ヘイト本」と総称して問題視しているといい、「ヘイト本」の源流として山野車輪の『マンガ嫌韓流』といった著作が挙げられるという[4]。
永江朗によれば、「中国や韓国、および同国にルーツをもつ人々への憎悪をあおる本。嫌中嫌韓本、反中嫌韓本」を「ヘイト本」とも言うといい[5]、「差別を助長し、少数者への攻撃を扇動する、憎悪に満ちた本」で「嫌韓反中本」と呼ばれることもある[6]。
大泉実成らによる「さらば、ヘイト本! 嫌韓反中本ブームの裏側」(ころから)では「ヘイト本」を「よその国を十把ひとからげにし、他民族を嘲笑したり、民族差別や排外主義を煽る本」「人種的差別撤廃条約の第4条(b項)にあたる人種差別を助長し及び扇動する宣伝活動にあたる書籍」と定義している[7]。岩下結は「ヘイト本」という呼称について、「ヘイトスピーチと後述の嫌韓・嫌中本ブームが一続きのものとして認知されるようになってきた」と主張している[2]。
木瀬貴吉、木村元彦、清水檀らは「事実を捻じ曲げた上で差別を扇動するようなあからさまなヘイトは減る」が「一見、学術的に裏付けられたようで実はナショナリズムを煽る、いわば『綺麗なヘイト』は増えるのではないか」と危機感を募らせた[8]。
一方で木瀬貴吉は「嫌韓本」や「ヘイト本」について「だれもが納得する基準はありません」とも書いている[9]。
定義への異論・反論
山野車輪は「『反差別』団体を自称する一部の反社会的な人たちは、韓国を批判する者に対して『レイシスト』『ヘイトスピーチ』などとレッテルを貼ったり、韓国を批判する本を『ヘイト本』などと一方的に決めつけて、書店に対して店頭から撤去するように抗議したり、さらには図書館にまで圧力をかけようとするなど、思想警察気取りで言論封殺活動に勤しんでいるのです。」と述べた[10]。
宮城佑輔は、行動保守らへの批判者は東アジア3か国(中国、韓国、北朝鮮)に対する批判的著作群を「ヘイト本」と呼称しているが、こういった安易なラベリングは多様な保守メディア内の差異を捨象しかねない、と述べている[11]。
ケント・ギルバートは「私が2017年に出版した(ギルバート 2019)は、ジャーナリストの青木理氏に『究極のヘイト本』というお褒めの言葉をいただきました。部分的でしょうけれども読んでいただいて、すごく嬉しかったですね。おかげでその後、また売れました。」[12]。「左派の人々は、日本に対する誹謗中傷には沈黙し、中国や韓国・北朝鮮に対する批判は、何でもかんでも『ヘイト』と言うんです。自分たちが一般国民に今まで隠していた、知られたくない事実が暴かれると『ヘイト』だと言う。」[13]と述べた。
ジャーナリストの石橋毅史はマイケル・ムーアの「アホでマヌケなアメリカ白人」について、「著者がアメリカ人ということもあるが」と条件を付けた上で、「差別的だという批判が挙がった記憶はないし、僕自身はそうは思わない」とヘイト本との評価に否定的見解を示した[14]。その一方でタイトルについて「アメリカ白人」を「朝鮮民族」とか「中国人」に変えた場合は、「著者が朝鮮民族又は中国人か否か」という条件を付けることなしに日本が中韓を植民地や占領地としていた等の歴史的経緯から「ヘイトのにおいがする。そして、実際にそうなるだろう」とヘイト本との評価になりうる見解を示した[14]。
- ^ a b “「ヘイト本」はどうして生まれたのか? 嫌韓中本の異例のヒットから考える”. 日刊SPA!. 扶桑社 (2017年9月16日). 2021年4月30日閲覧。
- ^ a b “時代の正体〈43〉ヘイト本(上)”. 神奈川新聞. (2014年11月23日)
- ^ “【前編】『Will』花田紀凱編集長×ころから代表・木瀬貴吉氏の公開討論 ヘイト本かどうかはタイトルで決まるのか?”. 月に吠える通信 (2015年5月27日). 2021年4月30日閲覧。
- ^ 宮城佑輔「日本における排外主義運動とその中国・韓国・北朝鮮観-新旧保守メディアの比較から」『アジア研究』第62巻第2号、アジア政経学会、2016年、18-36頁、doi:10.11479/asianstudies.62.2_18、ISSN 0044-9237、NAID 130005152822。 p.18 より
- ^ 永江朗▼嫌韓反中本「本と文芸」『現代用語の基礎知識 2019』自由国民社、2019年1月1日発行、雑誌 69949-64、ISBN 978-4-426-10137-4、785頁。
- ^ 永江朗 201, p. 28.
- ^ さらば、ヘイト本! 嫌韓反中本ブームの裏側(ころから)はじめに P3
- ^ “「綺麗なヘイト」増加に危機感”. 週刊金曜日 ONLINE. (2015年6月15日) 2021年4月29日閲覧。
- ^ “「嫌韓・ヘイト本」ブームを終わらせるのは誰?”. 版元ドットコム. (2014年5月7日)
- ^ 山野車輪『嫌韓道 <ベスト新書 474>』KKベストセラーズ、二〇一五年五月二〇日 初版第一刷発行、ISBN 978-4-584-12474-1、6頁。
- ^ 宮城 2016, p. 19.
- ^ 北村晴男, ケント・ギルバート『page=149 日弁連という病』育鵬社 : 扶桑社,扶桑社 (発売)、2019年。ISBN 9784594083007。 NCID BC05740647。全国書誌番号:23302256 。
- ^ ギルバート 2019, p. 149-150.
- ^ a b 石橋毅史 (2020年2月20日). “韓国の書店で「日本ヘイト本」を探してみた結果”. PRESIDENT Online 2021年4月29日閲覧。
- ^ 私は本屋が好きでした──あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏 永江朗 太郎次郎社エディタス ヘイト本を「ヘイト本」とよぶのは適切か P28-P29
- ^ 書店と民主主義: 言論のアリーナのために 福嶋 聡 P6
- ^ 小笠原博毅, 福嶋聡『パンデミック下の書店と教室 : 考える場所のために』新泉社、2020年、46頁。ISBN 9784787720009。 NCID BC04120680。全国書誌番号:23468999 。
- ^ 二村知子 (2020年2月17日). “あふれるヘイト本、出版業界の「理不尽な仕組み」に声を上げた書店のその後”. www.businessinsider.jp. 2021年4月22日閲覧。
- ^ “「学習能力がない」図書館の"ヘイト本"排除を主張し始めたしばき隊に、図書館協会もあきれ顔”. 2020年11月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年7月23日閲覧。
- ^ 山野 (2015)、6~7頁。
- ^ 昼間たかし「政治屋に売りとばされた『表現の自由』の末路」『紙の爆弾』2020年9月号、089頁。
- ^ a b 新潮社が「新潮45」を休刊 LGBT表現巡り謝罪 2018年9月25日 日本経済新聞
- ^ 杉田水脈氏への批判は「見当外れ」 新潮45が掲載へ 高久潤 朝日新聞
- ^ 新潮45休刊「組織ぐるみ擁護に怒り」新潮社前でデモ 毎日新聞
- ^ 新潮社の看板に「あのヘイト本、」Yonda?とラクガキ 安藤健二 ハフポスト
- ^ 「あのヘイト本、Yonda?」 新潮社の看板に落書き 朝日新聞
- ^ 新潮社看板に「あのヘイト本、Yonda?」 「落書きの神髄」「器物損壊」評価は二分: J-CAST ニュース
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2020年4月25日). “香港の反中派「銅鑼湾書店」 台湾で営業再開”. 産経ニュース. 産経新聞社. 2021年4月22日閲覧。
- ^ 日本語未翻訳の香港、台湾の関連本。反中本。
- ^ 香港、台湾で売られる本とは(反中本から独自の本土歴史の本まで)
- ^ 香港の書店株主に懲役10年 禁書扱い違法情報提供罪
- ^ 中国で「禁書」土産の大人気 税関で没収追いつかず 香港の書店関係者失踪 習指導部は販売元へ圧力で対応
- ^ [香港的沉淪歷程:自甘墮落 - 立場新聞20210504閲覧]
- ^ 余杰:醬缸中的蛆蟲 不是醜陋 而是卑賤 上報 20210504閲覧
- ^ 'China influence' book proves divisive in Australia debate
- ^ The Soul of the Chinese People
- ^ 見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか クライブ・ハミルトン まえがき P16-P17
- ^ 見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか クライブ・ハミルトン 補論 「日本は目に見えぬ侵略」にどう対処するか P342-P345
- ^ China 2049 マイケル・ピルズベリー (著), 森本 敏 (解説), 野中 香方子 (翻訳) 日経BP
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