バテイラ 名称

バテイラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/23 14:25 UTC 版)

名称

標準和名は形が馬の蹄に似ていることによる。江戸期の名称を引き継いだもので、江戸末期の貝類図譜である武蔵石寿著『目八譜』(第6巻)の種番号122~126には他書から引用した名称も含め次のような異称も載せられている。

  • 百二十二番[1] 馬蹄螺・馬貝・馬ノ爪貝・舩貝・爪貝(以上は『怡顔齋介品』より)、ホウセウカヒ(加州能州方言)
  • 百二十四番[2] 唐人笠(馬蹄螺ノ巻留礒草付タル者)
  • 百二十六番[3] 一文字 [やや赤紫になった死殻]

属名 Omphaliusギリシア語: Oμφαλός(omphalos:へそ)に由来し、属のタイプである "Trochus rusticus" = コシダカガンガラの目立つ臍孔に因む。種名の pfeifferi は記載者 Dunker と同じドイツの貝類学者プファイファー( L.Pfeiffer )への献名である。 pfeifferi を二度書くのは承名亜種(複数ある亜種のなかで最初に記載されたもの:基亜種とも言う)であることを厳密に示すためで、単に Omphalius pfeifferi と書いても誤りというわけではない。

通称

類似種とともに、シッタカ(尻高)、しったか貝、サンカクミナ(三角蜷)、カジメダマ、カジメッタマなどと呼ばれることがある。尻高とは殻の"尻"(殻頂)が高いことを指す。

分類

亜種

北海道南部から九州までの日本海沿岸および朝鮮半島南部に分布するものは、亜種オオコシダカガンガラ O. p. carpenteri (Dunker, 1882) として区別されている。一般にバテイラよりも高い円錐形になる傾向があり、殻底に明瞭な螺肋を数本廻らすこと、螺層の斜肋も太く強いことで区別できる。こちらもシッタカ、サンカクミナなどと呼ばれ市場に出回ることがある。韓国名は바다방석고둥もしくは팽이고둥

主に日本の研究者らがバテイラを置くコシダカガンガラ属 Omphalius は、クボガイ属 Chlorostoma などともに Tegula 属(タイプ種はヘビカワターバン英語版)の亜属として扱われることも多い。海産生物のデータベースWoRMS[2]や英語版ウィキペディアではバテイラを Tegula 属に置き、コシダカガンガラ属 Omphalius にはコシダカガンガラ1種のみを置いている。

広義の Tegula 属は古くから21世紀初頭まではニシキウズ科に分類されており、Tegula をタイプ属とするクボガイ亜科 Tegulinae Kuroda, Habe et Oyama, 1971[5]自体もニシキウズ科の亜科として1971年に創設された。しかし2008年に公表された論文[6]では、3種類の遺伝子(18S rRNA、28S rRNA、COI )を用いたニシキウズ上科の分子系統解析の結果から、クボガイ亜科はサラサバテイ属 Tectus などと共に、ニシキウズ科ではなくリュウテン科(サザエ科)に編入すべきであるとされた。更に2012年にはより多くの分子情報に基づきクボガイ亜科を独立のクボガイ科とする論文が発表され[1]、海産生物のデータベースWoRMSなどもこれを採用しており、本項もそれに従っている。

古腹足類 Vetigastropoda は目とする場合、亜綱とする場合、階級を与えずに単にクレード(単系統群)とする場合があるが、これもWoRMSに従い亜綱とした。

類似種

コシダカガンガラ属 Omphalius
 (コシダカガンガラ
クボガイ属 Chlorostoma
 (クマノコガイ
Tectus 属 (サラサバテイ)

潮間帯の岩礁には円錐形で殻底が平たい類似種が複数あるが、日本産の類似種とは次のように区別される。

コシダカガンガラ属 Omphalius
臍孔周辺(臍孔は閉じていることもある)は白色で、緑やオレンジ色を帯びることはない。クボガイ属と共に Tegula 属の亜属とされることもある。
  • バテイラ - 上記を参照。
  • オオコシダカガンガラ- バテイラの日本海側亜種。上記を参照。
  • ヒメクボガイ - 小型で周縁も輪郭も丸みを帯び、殻表の斜肋は日本産のこの仲間では最も細かい。クボガイの小型個体に似るが、臍孔(臍孔は閉じていることもある)周辺に緑や橙色が全く出ないことで区別できる。
  • コシダカガンガラ - 名前に反し殻はさほど高くなく、ときに低平。周縁から殻底にかけては丸みを帯び、色はくすんだ灰色~灰紫色。殻表の斜肋は太い。概形はクボガイによく似て、同じ場所に見られるが、臍孔周辺が無彩色なので区別できる。
  • ヒラガンガラ - コシダカガンガラの東北地方~北海道に分布する亜種とされ、より低平で殻表の斜肋は弱くなる傾向があるが、コシダカガンガラとは明確に区別ができない場合もある。
クボガイ属 Chlorostoma
臍孔周辺(臍孔は閉じていることもある)は必ず多少なりとも緑色やオレンジ色を帯びる。周縁は殆ど角張らない。タイプ種は Trochus argyrostomus =ヤマタカクボガイで、属名は「緑色の殻口」の意。コシダカガンガラ属に極く近縁で、ともに Tegula 属の亜属とされることもある。クボガイヘソアキクボガイクマノコガイ などがある。
その他の属
ギンタカハマなどの Tectus 属、ニシキウズなどの Trochus 属といった貝類もバテイラによく似た円錐形で、沿岸岩礁に見られるが、殻には緑色や紅色などの不規則な斑紋が多く黒くは見えない。また縫合や周縁に沿って小さな突起が並ぶものが多く、両属ともに臍孔はない。しかし Trochus 属は一見臍孔のように見える偽臍孔をもつ。バテイラより大型になる種類がいる。

  1. ^ a b Williams, Suzanne T. (2012). “Advances in molecular systematics of the vetigastropod superfamily Trochoidea”. Zoological Scripta 41 (6): 571-595. doi:10.1111/j.1463-6409.2012.00552.x. 
  2. ^ a b Citation: Bouchet, P. (2013). Omphalius Philippi, 1847. Accessed through: World Register of Marine Species at http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=413471 on 2014-01-21
  3. ^ a b 堀川・山川, 1982
  4. ^ a b 山川, 1996
  5. ^ 生物学御研究所編, 1971. 『相模湾産貝類』 (解説:黒田徳米波部忠重大山桂) 丸善
  6. ^ Suzanne T. Williams, Satoshi Karube & Tomowo Ozawa, 2008. Molecular systematics of Vetigastropoda : Trochidae, turbinidae and trochoidea redefined Zoologica Scripta vol. 37 no. 5, pp 483 - 506 doi:10.1111/j.1463-6409.2008.00341.x


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