コーヒー豆
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/12 02:57 UTC 版)
コーヒー豆の加工
コーヒーノキから飲料としてのコーヒーを作り出す過程で、コーヒー豆には数工程の加工が行われる。全体像を把握するにはコーヒーの項を参照。
コーヒー豆の精製
収穫されたコーヒーの果実からコーヒー豆を取り出す工程をコーヒーの精製と呼ぶ。コーヒーの精製には主に乾式(乾燥式・非水洗式)と湿式(水洗式)の二種類がある。単純作業のため、コーヒーの精製は生産地で行われる。精製をすませたコーヒー豆は生豆と呼ばれ、カビなどの発生を防ぐために水分含量が10-12%になるよう乾燥して保管され、消費地に輸出される。
乾式(乾燥式・非水洗式)
古くから行われている精製方法であり、水の便の悪い産地でも行えるという利点がある。モカやマンデリンの産地ではごく一部を除いて伝統的に乾式による精製である。ブラジルでも大部分は乾式であったがより高級品として売れるため湿式や半湿式が徐々に増えつつある、また、ロブスタ種については乾式がほとんどである。収穫した果実を乾燥場に平らに広げ天日干しを行う。乾燥に要する時間は果実の完熟度合いで異なり、完熟した黒い実では1~3日、未熟な緑色の実では2週間ほどを要する。乾燥を均一化するために、日に数度攪拌が行われる。乾燥後、外皮と果肉、内果皮などを機械的に取り除く。現在では50℃で3日程度乾燥する機械乾燥も行われている。かつての人力で選別を行う作業ではペネイラという丸い平らな網を使い、豆を空中に高く振り上げて混入物をふるい分けていた。
湿式(水洗式)
乾式に比べてコーヒー豆の見た目が整いやすく商品価値が高くなる利点がある。ブラジル以外の産地でアラビカ種に対して行われることが多い。収穫した果実はまず約1日水につけられ、そこで浮いてきた未熟果実が除去される。外皮と果肉を大まかに機械的に取り除いた後、発酵槽と呼ばれる水槽に1日から2日つけられる。この過程で、果肉と発酵槽に生息する水中微生物の持つペクチン分解酵素の働きにより種子を取り囲むペクチン層が分解される。水洗いして乾燥させた後、精製工場に出荷され、そこで内果皮を機械により取り除いてコーヒー豆とする。内果皮を取り除く前のものをパーチメントコーヒーと呼び、この状態で輸出される場合もある。なお、ロブスタ種はほとんどが乾式精製であるが日本のロブスタ種の輸入量のうち最も多いインドネシア産のWIBといわれる銘柄は湿式精製である。水洗いの過程でコーヒーの生豆の選別も行うことが多い。ウォッシュドとも呼ばれる。
その他の精製法
乾式と湿式とを組み合わせた半湿式(半水洗式)という方法がブラジルの一部の農園などで行われている。収穫後の果実を湿式と同様に水槽につけるが、発酵槽につけることなく外皮と果肉を取り除き、その後で乾式と同様の方法で乾燥する。
また特殊な精製法として、コーヒーの果実を食べた動物の糞からコーヒー豆を精製するものがある。市場に出回ることがあるものとして、インドネシアに生息するジャコウネコの糞から採れるコピ・ルアクが有名である。その他にも鳥やイタチ、トラの糞から採れたと称するものが、産地で極少量得られることがある。いずれもきわめて生産量が少ないため稀少価値から最も高価で取引されるが、コーヒー豆の品質としての評価とは必ずしも結びつくものではなく、その味についても評価は分かれる。
焙煎
精製された生のコーヒー豆は次に焙煎されて、初めて実際に我々が口にするコーヒーの香りと味を生み出す。多くの場合、この工程は消費国でなされ、ロースターと呼ばれる大手のコーヒー豆卸業者が行うほか、コーヒー豆小売りを行う販売店や喫茶店などで自家焙煎される。一部の愛好家の中には自分で生の豆を購入して自家焙煎する人もいる。
焙煎は焙煎機と呼ばれる専用の機械で行われる。ただしフライパンや焙烙、ギンナン煎りに用いる金属製の手網や、電動ポップコーンマシンなどでも焙煎することが可能である。これらの装置は加熱原理と熱源の違いによって以下のように分類される。
- 直火焙煎
- 熱風焙煎
- 遠赤外線焙煎
- マイクロ波焙煎
- 炭火焙煎 - 日本独自の手法
コーヒーが焙煎されるとき豆の温度は約200 - 300 ℃程度まで到達する。一般的な焙煎方法ではおよそ10-20分程度の加熱時間を必要とする。なお、直火方式の場合は、15 g程度ごとに1分ほどが目安である。
焙煎は職人技を要するが、家庭用焙煎機では工程のすべてを自動で行うものもある。生豆の水分量はもちろん、その日の陽気や湿度によって焙煎の所要時間は異なる。焙煎が終了した後は、余熱で焙煎が進まないように冷風を当ててすぐに焙煎豆を冷やす必要がある。
焙煎により豆のpHは低下し(酸性が強くなる)、ミディアムあたりで最低値となり、イタリアンまで煎るとpH5.7から5.8程度となる。また熱によってタンパク質が分解され、苦みのもととなるジケトピペラジンが増加する。したがって浅煎りでは酸味が強く、深煎りでは苦みが強くなる。
なお、焙煎の工程で豆からは残っていた薄皮(銀皮、シルバースキン)が剥がれ落ち、そのくず(廃棄物)はチャフと呼ばれる[6]。チャフの量は店舗では1日に数十グラムだが、大量に加工する工場ではチャフの量も大量になるため堆肥化する取り組みも行われている[6]。
ブレンド
コーヒー豆はその消費目的に応じて数種類混合されることがある。これをブレンドと呼ぶ。ブレンドされたコーヒーはブレンドコーヒーと呼ばれ、これに対して一種類の焙煎豆のみからなるコーヒーをストレートコーヒーと呼ぶ。ブレンドは通常、焙煎の後かつ粉砕の前で、焙煎された数種類の豆を混合することで行われることが多い。これは産地・産年・品種・粒重・含水率などが違う生豆を混ぜてから同一の加熱条件で焙煎すると、焙煎の仕上がり状態にばらつきが生じるためであり、またそれぞれのコーヒー豆の特徴を生かすために、焙煎の程度を変えるなどする必要があるためである。場合によっては焙煎する前にブレンドしたり、粉砕した後の粉同士で行うこともある。
ブレンドは、複数の違った持ち味を持つコーヒーを混ぜることで、ストレートコーヒー単品だけではなし得ない味を、提供者側の意図にあわせて作り上げるための工程である。しかしながらその法則には定まったものがあるわけではなく、各ロースターが独自に考案したブレンドのレシピに従って行われる。インスタントコーヒーなど工業的生産の場では、香味等の品質を保つため8つ以上のタイプの豆が混合される。
粉砕
焙煎されたコーヒー豆は、抽出される前に顆粒状ないし粉状に小さく挽かれる。この工程を「コーヒーの粉砕」という。粉砕にはコーヒーミルあるいはグラインダーと呼ばれる器具あるいは機械を用いるが、場合によっては乳鉢や石臼などが用いられることもある。コーヒーは焙煎された豆のままで販売される場合と工場で粉砕された後で販売される場合があるが、粉砕されると表面積の増加から空気酸化による品質低下が早まると言われているため、家庭用のコーヒーミルで抽出直前に挽いている人も多い。
粉砕されたコーヒーは粉の大きさに応じて、細挽き、中挽き、粗挽きと呼ばれる。大きさの目安としては、粗挽きでザラメ糖大と言われる。ただしこの区分はあくまで相対的なもので、定まった規格があるわけではなく、店舗やコーヒーミルの違いによって実際の大きさは異なる。これらの挽き具合は、そのコーヒーがどのように抽出されるか、またどのような味にすることを望むかによって調整される。例えばエスプレッソではほとんど微粉に近い粉状になるよう極細挽きにして用いられる。
その他の加工技術
この他コーヒー豆に対して行われる加工技術には、デカフェを製造するための脱カフェイン処理などが挙げられる。この処理は生豆の段階で行われることが多い。詳細はデカフェを参照。
- ^ このため、全日本コーヒー協会は1983年に、10月1日を「コーヒーの日」とすることを提唱している。
- ^ 名護珈琲
- ^ 東洋経済オンライン「世界のコーヒー会社が、中国で熾烈な豆争奪戦」
- ^ “Food and Agricultural Organization of United Nations: Economic and Social Department: The Statistical Division”. Faostat.fao.org (2012年2月23日). 2012年6月7日閲覧。
- ^ “Total production of exporting countries”. International Coffee Organization (2012年4月26日). 2012年12月24日閲覧。
- ^ a b c d “外食産業を対象としたヒアリング調査結果”. グリーン購入ネットワーク. 2020年12月19日閲覧。
- ^ https://www.theice.com/productguide/ProductDetails.shtml?specId=15
- ^ http://www.tge.or.jp/japanese/introduction/intro_coffee.shtml 東京穀物商品取引所
- ^ http://www.fairtrade-jp.org/ フェアトレード・ラベル・ジャパン
- ^ a b c 世界のコーヒー(生産量、消費量、在庫量、輸出量、輸入量、価格の推移)
- ^ “コーヒー豆研究所-コーヒーサブスク・定期便”. コーヒー豆研究所 (2023年9月2日). 2023年9月3日閲覧。
- ^ “コーヒー豆を購入するメリット”. 山口的おいしいコーヒーブログ (2023年10月14日). 2023年10月15日閲覧。
コーヒー豆と同じ種類の言葉
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