アナフィラキシー 症状と対処

アナフィラキシー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/03 07:00 UTC 版)

症状と対処

症状・症候には個人差があり、同一患者でも発症毎に異なる場合がある[4]。アナフィラキシーの症状は、IgEと他のアナフィラトキシンの反応が関与する。これらの物質は肥満細胞からヒスタミンや他の媒介物質(メディエーター)を遊離(脱顆粒)させ、さらにヒスタミンは細動脈の血管拡張や肺の細気管支の収縮、気管支痙攣(気管の収縮)を引き起こす。

ヒスタミンや他のメディエーターは身体の別器官の組織で遊離されるが、これらが(血流等を介して他の部位に運ばれ)気管収縮とこれに伴う喘鳴や呼吸困難、そして胃腸症状(腹痛、さしこみ、嘔吐、下痢など)を引き起こす。ヒスタミンは血管拡張(これに伴う血圧低下)と血流から組織への体液漏出(これに伴う血流量低下)を引き起こし、これらが影響してショック症状を呈する。体液が肺胞に漏出することもあり、これが肺水腫を引き起こす。

アナフィラキシーで見られる症状には多尿、呼吸困難(呼吸促迫)、低血圧、脳炎、失神、意識不明、蕁麻疹、紅潮、流涙(血管性浮腫やストレスによる)、嘔吐、掻痒、下痢、腹痛、不安、血管性の浮腫(口唇、顔面、首、咽喉の腫脹)などがある。悪寒や戦慄などはアナフィラキシーショックの前駆症状である場合がある[5]

致死的反応となる呼吸停止・心停止までの中央値は、薬物 - 5分、ハチ - 15分、食物 - 30分 との報告がある[4]

アナフィラキシーへの対応

アナフィラキシーの症状は非常に多彩で、全身にあらゆる症状が出現する可能性があり、またアナフィラキシー患者の90%に皮膚症状があり、粘膜・呼吸器・消化器症状が現れる傾向がある[6]。アナフィラキシーやアナフィラキシー様反応は、呼吸困難、急激な血圧低下、心停止、意識消失などの症状が現れることがあるため並行して対処が必要となる[7]

アナフィラキシー反応またはアナフィラキシー様反応の発現に対しては、アドレナリン(エピネフリン)の投与、気道確保、酸素投与などが行われる[7]。(アドレナリンの項も参照)。

アナフィラキシーへの対応のため学校などでは予めマニュアルが定められ、例えば群馬県の「アレルギー疾患用学校生活管理指導表 群馬県版」では発症の状態観察により、軽症・中等症では患者の安静と内服薬の服用などで対処、重症まで進行するようであれば緊急要請として通報し、救急車を呼び、またエピペン携行薬を所持している場合は躊躇せず速やかに使用するように定められている[6]。また、県教育委員会の配布による食物アレルギー、アナフィラキシー対応の手引に従うように指導されている[6]

  1. 軽症 - 各症状はいずれも部分的で軽く、症状の進行に注意を払いつつ、安静にして経過を観察、誤食事用の抗ヒスタミン薬などの処方薬があれば内服させる。
  2. 中等症 - 全身性の皮膚・粘膜・呼吸器・消化器症状が出現。抗ヒスタミン薬、ステロイド薬を内服させ、医療機関を受診する必要がある。
  3. 重症 - 全身性の皮膚・粘膜・呼吸器・消化器症状が増悪し、プレショック・ショック状態などに陥り意識がなくなる。119番に通報し、救急車を要請して、緊急に医療機関を受診する必要があり、エピペン(自己注射剤)があれば、速やかに使用する。

アナフィラキシーショック

アナフィラキシーショックの機序は主にI型アレルギー反応の一つである。外来抗原に対する過剰な免疫応答が原因で、好塩基球表面のIgEがアレルゲンと結合して血小板凝固因子が全身に放出され、毛細血管拡張を引き起こすためにショックに陥る。

ハチ毒Bee venom)・食物・薬物等が原因となることが多い。アナフィラキシーの症状としては全身性の蕁麻疹と以下のABCD(喉頭浮腫、喘鳴、ショック、下痢腹痛)のうちどれかがある。なお、アナフィラキシーショックは二峰性の経過をとるものがしばしばみられるので、院内で経過観察(約8時間、重症例では24時間)をしなければならない。アナフィラキシーはIgEを介して肥満細胞が脱顆粒して起こるが、IgEを介さず肥満細胞が脱顆粒を起こすアナフィラキトイド(類アナフィラキシー反応)と呼ばれる反応もある。類アナフィラキシー反応として造影剤アレルギーなどが有名である。その他、アレルゲン免疫療法[4]の副作用、ラテックスアレルギー・口腔アレルギー症候群・食物依存性運動誘発性アナフィラキシーなど、特異的なアレルギーがあり、アナフィラキシーショックを起こす場合がある。

注射剤によるアナフィラキシーではあらゆる薬剤で発症の可能性があり、特に造影剤、抗菌薬、筋弛緩薬等による発症例が多く、医療事故調査・支援センター報告書の事例の12 例においても、使用された薬剤は造影剤が4例、抗菌薬が4例(うち蛋白分解酵素阻害薬との併用1例を含む)、筋弛緩薬が2例、蛋白分解酵素阻害薬が1例、歯科用局所麻酔薬が1例であった[8]


  1. ^ a b 桑鶴良平 監修『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』ピラールプレス、2010年、15頁。 
  2. ^  『World Allergy Organization Guidelines for the Assessmentand Management of Anaphylaxis(WAO Journal2011; 4:13–37)』、 F. Estelle, R. Simons, Ledit R. F. Ardusso, M. Veatrice Bilo, Yehia M. El-Gamal, Dennis K. Ledford, Johannes Ring, Mario Sanchez-Borges, Gian Enrico Senna, Aziz Sheikh, Bernard Y. Thong, 海老澤元宏, 伊藤浩明, 岡本美孝, 塩原哲夫, 谷口正実, 永田真, 平田博国, 山口正雄, Ruby Pawankar「アナフィラキシーの評価および管理に関する世界アレルギー機構ガイドライン」『アレルギー』第62巻第11号、日本アレルギー学会、2013年、1464-1500頁、doi:10.15036/arerugi.62.1464ISSN 0021-4884NAID 110009684958 
  3. ^ Anaphylaxis”. Health. AllRefer.com (2002年1月17日). 2007年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年1月29日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g アナフィラキシーガイドライン (PDF)  2014年11月 日本アレルギー学会
  5. ^ 桑鶴良平 監修『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』ピラールプレス、2010年、25頁。 
  6. ^ a b c (PDF) 緊急時(アナフィラキシー)の対応. 群馬県. http://www.pref.gunma.jp/contents/000257107.pdf 
  7. ^ a b 桑鶴良平 監修『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』ピラールプレス、2010年、23頁。 
  8. ^ 注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析 医療事故の再発防止に向けた提言第 3 号”. 医療事故調査・支援センター一般社団法人 日本医療安全調査機構. 2019年3月8日閲覧。
  9. ^ エピペン注射液 マイラン製薬
  10. ^ β遮断薬内服中のため治療に難渋した造影剤アナフィラキシーショックによる心肺停止に対してグルカゴン投与で救命できた1例」『仙台市立病院医誌』35, 62-65, 2015.
  11. ^ 馬屋原拓, 片山智博, 松浦一義, 井上美奈子「β遮断薬内服患者のアドレナリン抵抗性アナフィラキシーショックにグルカゴンが有効であった一例」『日本集中治療医学会雑誌』第28巻第2号、日本集中治療医学会、2021年、126-127頁、doi:10.3918/jsicm.28_126ISSN 1340-7988NAID 130007993145 
  12. ^ アナフィラキシーガイドライン”. 2021年8月10日閲覧。


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