福島県民健康調査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/10 05:59 UTC 版)
山下はがんの発生について、2011年10月の京都大学原子炉実験所(現・京都大学複合原子力科学研究所)教授山名元との対談で、「今の子どもたちががんになるとしたら、5年後から10年後です。それまでに、つまりいまから3~4年のうちに起るがんは平時のベースラインになるわけです。将来、ベースラインを超えるレベルで発がんが出てくれば、そこに放射能の影響を読み取ることができます」と主張している。そして、健康調査を「たばこや酒などの放射線以外の発がんリスクも含めて、県全体で地域に密着した健康管理を行う事により、『日本一の長寿県』つまり『世界一』を目指し」、「長寿県というのは、発生確率が下がるというのではなく、早期診断によって治療効率が上がるということ」 であるという。 日本甲状腺学会理事長である山下は、2012年1月16日に福島県立医科大学鈴木眞一教授と共同で日本甲状腺学会の会員に宛てたメールで福島県「県民健康管理調査」に関し、「異常所見を認めなかった方だけでなく、5mm以下の結節や20mm以下の嚢胞を有する所見者は、細胞診などの精査や治療の対象とならないものと判定しています。先生方にも、この結果に対して、保護者の皆様から問い合わせやご相談が少なからずあろうかと存じます。どうか、次回の検査を受けるまでの間に自覚症状等が出現しない限り、追加検査は必要がないことをご理解いただき、十分にご説明いただきたく存じます」と、調査結果への対処方法を連絡している。 会津若松市に避難したある母親が市内の5病院に電話をかけたが断られたケースで、この文書の影響を指摘する声もあり、甲状腺学会所属医師の一人は「この文書に従うと、医師は診療を拒否してはいけないという医師法に反してしまう」と話している。検査を実施している福島県立医科大学は、基本原則としてエコー画像やカルテを本人に見せてはいない。医師の所見やエコー画像を見るには、県の条例に基づき情報公開請求が必要となっている。 2012年8月の毎日新聞のインタビューで、「小さながんも見つかるだろうが、甲状腺がんは通常でも一定の頻度で発症する。結論の方向性が出るのは10年以上後になる。県民と我々が対立関係になってはいけない。日本という国が崩壊しないよう導きたい。チェルノブイリ事故後、ウクライナでは健康影響を巡る訴訟が多発し、補償費用が国家予算を圧迫した。そうなった時の最終的な被害者は国民だ」と話している。 その後、毎日新聞の報道により、福島県が検討委の約1週間前か当日の直前に非公開の準備会を開催しており、9月11日の第8回検討委の直前に開催された準備会では、甲状腺がんが原発事故との因果関係があるとは思われないという質疑応答も決めていたことが明らかになった。 2013年2月13日に福島市で開かれた県民健康管理調査の検討委員会で山下は記者会見で検討委員会から退く意向を示し、「判断は県に預けている。(福島県立医科大学副学長と福島県検討委座長)両方の立場を兼ねているが、私がこの場にとどまるのは不適切だ」と述べた。 東日本大震災から2周年の3月11日、米国の米国放射線防護・測定審議会 (NCRP) の第49回年次総会で『福島原子力発電所事故と包括的健康リスク管理』と題する講演を行ったが、講演で用いた資料には被験者本人にも容易には公開しないエコー写真が多数含まれていた。 2013年12月31日時点では、一次検査の受診者約27万人のうち1796名が二次検査対象者で、甲状腺結節の細胞診検査を受けた中の75名が悪性ないし悪性疑いとされ、小児甲状腺癌と確定したのは33名であったが、山下はそれまで検査をしていなかった人に幅広く検査を行うと、無症状で無自覚な病気や正常とは異なる検査結果が高い頻度で見つかるというスクリーニング効果だと説明した。その一方で、チェルノブイリ原発事故の調査で山下らは甲状腺がん多発に対してスクリーニング効果を否定している。 2015年、福島県立医大が県民健康管理センターの中に設置している外部専門家会議「甲状腺検査専門委員会・診断基準等検討部会」の議事概要によれば、山下が座長を務め、実質的な甲状腺検査の審議の場となっていると報じられた。 2016年 県民健康調査の検討委員会は12月27日、原発事故と甲状腺がんの因果関係を調査する専門家による第三者機関の設置を県側に提案した。
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