海外直接投資の意義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 07:32 UTC 版)
金利・配当収入等を目的とした間接投資と異なり、海外直接投資は経営の実質的な部分が国境を越えて動くため、両国の経済に与える意味が大きい。具体的には、 製造業や流通業などのグリーンフィールドでの投資は、雇用創出効果が大きい。 現地への技術移転が期待できる(特に先進国から開発途上国への投資の場合)。 外国の進んだ経営手法が直接投資を通じて流入する。日本においても、「カテゴリー・キラー」といわれるアメリカの大手流通産業が1990年代以降日本に進出したことが、日本の流通業界の経営に大きな影響を与えた。また、ルノーが日産自動車を買収し、カルロス・ゴーン社長が日産の建て直しを成功させた。 製造業の直接投資により、それまで輸入していた製品を国内で製造できるようになり、さらに輸出産業に発展できれば、経常収支の改善が期待できる。 経済学者の原田泰、大和総研は「新興国が投資主導型成長を持続させるため、外資(外国企業・銀行・投資家)が果たしてきた役割は軽視できない。例えば、生産拠点の移転に伴う先進国企業による直接投資である」と指摘している。 経済学者の円居総一は「高い投資は高い貯蓄を生むという結果から、東アジア・かつての日本の高成長の源泉は、高貯蓄が高い投資を実現させたとする見解があり、誤解を生んできた。国内の貯蓄が不足する発展途上国の経済が、国外からの資本借り入れで成長してきた事実、例えば東アジアが国外からの資本借り入れを国内の輸出産業の育成に充て、輸出主導で経済を発展させたという事実からそれは明らかである」と指摘している。 これらのように、直接投資を受け入れることによるメリットは大きいため、日本を含む主要国は、政策として直接投資の受入を積極的に行っている。つまり、対内直接投資が資本自給率を下げ、通商政策に悪影響する問題が無視されている。現に、わが国で「国際収支統計」と「対外及び対内直接投資状況」に大別されていた直接投資に関する統計は、後者が平成16年度分をもって廃止され、「国際収支統計」に統合された。 さすがに対外直接投資は国内産業の空洞化を促進すると考えられることが多く、政策的に促進する国は少ない。日本では、1980年から1990年にかけて欧米諸国との貿易摩擦が激しかった時代に、政治的な配慮もあり、官民を上げて欧米への製造業の直接投資を推進していた。2014年現在、アメリカの自動車メーカーの業績が不振であるのに、日本に対する批判が起こらないのは、日本のメーカーがアメリカでの現地生産を定着させていることが要因のひとつと考えられている。 対外直接投資は、その国で生まれ出されたはずの生産・雇用を生み出さないという意味で、生産・雇用の減少をもたらす。経済学者の岩田規久男は「対外直接投資の増加は、日本の未熟練労働者の賃金を抑制する要因となる」と指摘している。 経済学者の松原聡は「日本の金融機関が資金不足によって、アジアの国々などに融資できなくなると、アジアの国々の経済は悪化する」と指摘している。
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