新型の雁木(相居飛車ツノ銀雁木など)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/31 19:20 UTC 版)
「雁木囲い」の記事における「新型の雁木(相居飛車ツノ銀雁木など)」の解説
2010年代後半のコンピューター将棋の興隆に伴う矢倉の急速な退潮と期を合わせ、プロ棋士の間でも二枚銀雁木囲いの再評価がされ、新しい指し方が模索されるようになった。また、雁木のバリエーションとして二枚銀ではない似たような囲いが考案された。一方あるいは双方が雁木を志向する序盤戦は、プロ棋士の実戦でも2017年以降に急速に増加しており、矢倉戦・角換わり・相掛かり・横歩取りなどと並ぶ大戦法(戦型)の一つとして確立されたと見る向きもある。これらの2010年代以降の新たな展開を総称して「新型雁木」などと呼ぶ。 新型雁木が矢倉に代わって流行した理由として、コンピューター将棋の影響で序盤での桂跳ねが増加したことを前提として、以下のような分析がなされている。 増田康宏は、左銀が邪魔で左桂を使う含みが無い矢倉に対し、雁木は陣形の発展性があり、さらに中央へのバランスの良さに優れているとしている。 渡辺明は週刊誌の連載コラムで、将棋ソフトの影響で桂馬の早跳ねが増えたため、先手の右桂が▲3七桂 - ▲4五桂と進んだ場合に矢倉だと△3三銀に当たるが、雁木は△4三銀のために当たらないのが大きいと分析している。 相居飛車の従来の戦型(矢倉戦・角換わり・相掛かり・横歩取り)は、先手後手双方の盤上の合意に基づいて戦型選択がなされるのが普通だったが、雁木は様々な局面から一方の意思だけで強引に雁木戦型に持ち込むことができる。そのため、旧型雁木が主戦場としていた矢倉戦型だけでなく、例えば、先手が角換わりを目指した場面で後手が角道を閉じて雁木にしたり、後手が横歩取りを目指した場面で先手が角道を閉じて雁木にしたりと先後を問わず様々な場面で新型雁木が活用されている。 新型雁木は、旧型雁木と比べて決まった形はなく、様々な構えが採用されている。特に、旧型雁木と大きく異なるものとして、ツノ銀雁木がある。ツノ銀雁木は、右銀を5七ではなく、4七に置いたものである。この金銀の形自体は左美濃にあるとおり、最古とされる1607年(慶長12年)の棋譜でも先手の陣形でみることができるが、その一局は特段雁木のルーツというわけではない。 相居飛車ツノ銀雁木 ツノ銀にするメリットとしては、 玉を左右どの位置に置いても安定する(右玉の含みがある)こと 相手の桂馬が跳ねてきても左銀はもちろん右銀にも当たらないこと 5七に銀がいないので引き角から角を活用するのが容易なこと などが挙げられる。 ツノ銀の構えを構築した後は右銀を5六に上がって腰掛け銀にするなどの構想がある。ツノ銀雁木以外にも、右銀を活用して棒銀や早繰り銀にするなど多様な雁木が考案されている。 また、新型雁木に特徴的な手として、相手の飛車先を受けるための▲7七角がある。旧型雁木では、相手が矢倉囲いだった場合に、▲7七角に対して、△3一角から△8六歩と角交換を挑まれ、居角の攻めが難しくなるので損だという考えから、相手の飛車先は受けずに切らせるのが基本とされていた。しかし、新型雁木では、金が二段目に位置する雁木は角の打ち込みに強いという強みを活かして、角交換を歓迎する。 この他、雁木の弱点とされていた7筋・8筋を早繰り銀などで狙われた場合には、角を6八に引いてから7七金と上がって補強するなど、様々な新手法が編み出されている。
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