平板動物とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > デジタル大辞泉 > 平板動物の意味・解説 

へいばん‐どうぶつ【平板動物】


センモウヒラムシ

(平板動物 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/25 23:41 UTC 版)

センモウヒラムシ
センモウヒラムシ Trichoplax adhaerens
分類
: 動物界 Animalia
: 平板動物門 Placozoa
Grell, 1971
: 平板動物綱 Tricoplacia
: 平板動物目 Tricoplaciformes
: 平板動物科 Trichoplacidae
: Trichoplax
: センモウヒラムシ T. adhaerens
学名
Trichoplax adhaerens
F.E. von Schultze, 1883

センモウヒラムシ (Trichoplax adhaerens) は、単純な風船あるいは煎餅に似た形の海産動物である。軟体性であり、直径は約0.5mm。巨大なアメーバのような見かけだが、多細胞であり、裏表の区別がある。板形動物門[1](または平板動物門板状動物門 Placozoa)唯一の種(すなわち単型)に分類されてきたが、近年、新たな属・種も提唱されている。

発見の歴史

1883年オーストリアシェルツェ英語版によって海水水槽中から発見された。学名である T. adhaerens は、ガラスピペットや顕微鏡のスライドガラスを含む基盤に付着する(adhere)性質から命名された。これを中生動物とする説がある一方で、同様の動物を観察したStiasnyは、同じ水槽にEleutheria属のクラゲが出現したことに注目し、これを刺胞動物の幼生であるプラヌラの変形したものだと断定した。それ以降は記録がなかったため、種の存在自体が疑問視され、あるいは刺胞動物として決着済みとの文章も一人歩きする状態が続いていた。しかし、1960年代に再発見され、培養に成功したことにより詳細な研究が進んだ。この結果、他の動物群には属さないことが明らかになり、1971年、新たに設けられた平板動物門(Placozoa)に分類された。

センモウヒラムシはかなり広域に分布しているにもかかわらず、その構造の単純さから形態学的には区別できず、長らく単型種と見なされてきた。しかし近年の分子系統学的研究により、異なる地域の個体間のゲノムに属レベルでの多様性が見いだされている。2017年には遺伝的種概念に基づいて新属新種の Hoilungia hongkongensis が提唱され、2019年には他の板形動物と形態の全く異なる Polyplacotoma mediterranea も報告されている。Eitel&Schierwater は2010年に、板形動物門が100を超える隠蔽種を含みうることも示唆している[2][3]

形態的特徴

センモウヒラムシは、器官と大部分の組織を欠いている。神経系も存在しないのだが、神経系を備えた種から進化したことを示唆する証拠もある。背と腹の区別があり、3層に分かれた2000-3000個の細胞から構成されている。背側表面は、1本の繊毛を持ち扁平な「扁平上皮細胞」からなる。腹側表面は、1本の繊毛を持ち柱状の「柱状上皮細胞」および、繊毛を持たない「腺細胞」からなる。腺細胞は消化酵素を分泌していると考えられる。これら2層の間には体液で満たされ、「間充織細胞」がある。

かつては無胚葉であると考えられていたが、その後の研究で二胚葉であると考えられるようになってきている。また、近年の分子生物学的な研究では、刺胞動物有櫛動物(いずれも二胚葉の動物群)との類縁関係が指摘されている。DNA量は約1010ドルトン、小型の原生生物と同程度で、全動物中最も少ない。

生態

水深2-3mの海中にガラス板を沈めておくことで、そこに付着したセンモウヒラムシを容易に採集することができる。体表の繊毛によって移動が可能である。単細胞生物や藻類を食物としている。これらの食物を「腺細胞」から分泌された消化酵素で分解し、体表の細胞で養分を直接吸収している。エサを採るために一時的に体の一部を伸ばすことが観察されている。

全体が2つに分かれる分裂によって無性生殖する。また、背面から多細胞の小塊を作りだす出芽も行なう。さらに、1個体当たり1個か2個の大きな卵細胞を生じることが知られていることから、受精によって有性生殖することができると考えられているが、卵と精子を作り出すための、特別な生殖組織は備えていない。

脚注

  1. ^ 日本分類学会連合
  2. ^ Eitel, Michael; Francis, Warren R.; Osigus, Hans-Jürgen; Krebs, Stefan; Vargas, Sergio; Blum, Helmut; Williams, Gray A.; Schierwater, Bernd et al. (2017-10-13). “A taxogenomics approach uncovers a new genus in the phylum Placozoa” (英語). bioRxiv: 202119. doi:10.1101/202119. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/202119v2. 
  3. ^ Osigus, Hans-Jürgen; Rolfes, Sarah; Herzog, Rebecca; Kamm, Kai; Schierwater, Bernd (2019-03-04). “Polyplacotoma mediterranea is a new ramified placozoan species”. Current Biology 29 (5): R148–R149. doi:10.1016/j.cub.2019.01.068. ISSN 0960-9822. PMID 30836080. https://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(19)30097-1. 

参考文献

  • 白山義久(編)『無脊椎動物の多様性と系統 : 節足動物を除く』裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ 5〉、2000年11月。ISBN 4-7853-5828-9 
  • 鈴木寶「トリコプラックス(Placozoa)について」『動物と自然』第10巻第5号、ニューサイエンス社、1980年、4-8頁。 

関連項目

外部リンク


平板動物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/31 02:25 UTC 版)

中生動物」の記事における「平板動物」の解説

詳細は「センモウヒラムシ」を参照 センモウヒラムシ Trichoplax adhaerensおよびトレプトプラクス Treptoplax reptansはともに板状多細胞動物で、それぞれ1種記載されているが、Tre. reptans は最初の発見から再発見されず、その存在疑問視されている。センモウヒラムシTri. adhaerensは世界各地暖海沿岸から報告があり、日本では白浜沖縄発見されているが、この種がコスモポリタンであるかは疑問である。現在は平板動物門置かれるセンモウヒラムシ Tri. adhaerens は1883年Franz Eilhard Schulzeによりオーストリアグラーツ海水水槽中に発見され、トレプトプラクス Tre. reptansは1895年Francesco Saverio Monticelliによりナポリ臨海実験所海水水槽中に発見された。センモウヒラムシ以前ヒドロクラゲ Eleutheria krohni Krumbach, 1907 のプラヌラ幼生とされ、トレプトプラクスはヒドロクラゲ Eleutheria claparedei Hartlaub, 1889のプラヌラ幼生とされた経緯がある。このような形態類似や18SrDNAの塩基配列比較から、2003年キャバリエ=スミスChaoにより刺胞動物との類縁推測されたが、同年EnderとSchierwaterによりセンモウヒラムシ刺胞動物についてミトコンドリア16SrRNA二次構造比較され刺胞動物との関連否定された。1971年、Grellによりこれらは平板動物門 Placozoa Grell, 1971とされ、現在もそう扱われる長らく平板動物はセンモウヒラムシのみの1属1種とされてきたが、2017年Hoilungia hongkongensisが、2019年Polyplacotoma mediterraneaが記載された。 体には背腹の区別認められるが、左右の区別認められない背側の上細胞には油滴を含む細胞がある。背側腹側の上皮の間には筋繊維をもつ間充織細胞みられる。Grell &Ruthmann (1991)によればこの間充織細胞間充織細胞同士または背腹の上皮とシナプス結合様の接着様式連絡し合い、(他の後生動物では神経細胞が担う)細胞間の情報伝達や(他の後生動物では筋細胞が担う)収縮機能兼ねた働きをもつ。

※この「平板動物」の解説は、「中生動物」の解説の一部です。
「平板動物」を含む「中生動物」の記事については、「中生動物」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「平板動物」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「平板動物」の関連用語

平板動物のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



平板動物のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのセンモウヒラムシ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの中生動物 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS