娘達の回復された記憶
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/21 00:07 UTC 版)
「解離性同一性障害」の記事における「娘達の回復された記憶」の解説
催眠により回復された記憶の信頼性が取りざたされる背景には、1980年以降の悪魔的儀式虐待の「生存者」物語から始まる一連の騒動がある。発端のひとつは1980年の『ミシェルは覚えている』という本である。ミシェルは催眠により、自分が悪魔崇拝者集団による黒魔術儀式で性的虐待(Satanic-Ritual Abuse)を受けていたことを思い出した。そうして始まったモラル・パニックが「保育園などでの性的虐待の可能性に対する社会的恐怖」現象である。同種の告発は相当数に登ったが客観的な証拠は何もなかった。この悪魔的儀式虐待の妄想による告訴で有名なものに映画「誘導尋問」のモチーフともなったマクマーティン保育園裁判(1984から1990年)がある。 もうひとつは1981年のジュディス・ハーマン (Herman,J.L.) の著書『父-娘 近親姦』、に始まる記憶回復療法である。その療法家により書かれた1988年の『生きる勇気と癒す力』は近親姦を思い出す運動のバイブルともされるが、その出版以降、女性が思い出した記憶をもとに親を訴える事態が多発する。こちらも悪魔的儀式虐待の妄想がらみで事実無根のものも多く含まれていた。有名なものは1988年のポール・イングラム冤罪事件である。悪魔的儀式ではないが、1990年の「20年前の殺人事件の目撃者」アイリーンの事件も有名である。この当時、一部のセラピストは広告に「近親姦と幼児虐待、それを思い出すことこそ癒しへの第一歩」と掲げ、さらにその訴訟を成功報酬で請け負う弁護士も多くいたという。ただしこうした騒動はそうした怪しげなセラピスト、カウンセラー達だけによって引き起こされたわけではない。実際1987年の国際多重人格および解離研究学会 (ISSMP&D) の大会では悪魔的儀式虐待(SRA)に関して11本もの論文が発表されている。 1991年のアメリカ心理学協会会員に対するアンケート調査では、悪魔的儀式虐待(SRA)を受けたと主張する患者(DIDに限らない)を経験したものが回答者の30%にも登り、その二次アンケートでは、回答者の93%が患者の主張は真実だと信じていたという。前述の北米統計はその真っ最中のものであり、アンケート調査の中にそうしたノイズがどれぐらい含まれているのかは不明である。パトナムは様々な議論や批判を意識し、国立精神衛生研究所という公的な立場で極力公正な調査を心がけているが前述の統計報告の中でこう述べている。 「調査対象となった治療者は無作為に選ばれたわけではない。彼らは以前から多重人格に興味をもっていた治療者である。こうした治療者たちが外来患者にもたらした影響は明確には測定できない。」 北米でのDIDの事例を元に、コリン・ロス(Ross,C.A.)は1989年に四経路論を発表したが、ロス自身の経験によると、感覚的に半分が児童虐待経路、残りはネグレクト経路、虚偽性経路、医原性経路が1/3ずつという。医原性経路とはロス(Ross,C.A.)によれば「カリスマ的な治療者によって破壊的カルト宗教の洗脳と同様の過程がなされた場合に生じる」という。一部の治療者は「洗脳と同様の」「治療」をしていたということになる。
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