厳密な構成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/23 06:17 UTC 版)
自然数の全体 N は減法について閉じていないが、上ではそれを補完するものとして負整数を導入し、整数の全体 Z を構成した。それと本質的には変わらないが、よく知られる方法としてここでは、減法を陽に持ち出さずに、自然数の加法と乗法のみから同値関係や商集合といった道具を使って、整数が厳密に構成できることを記しておく。なお、以下の構成では、自然数には 0 を含まないとする。 まず、直積集合 N2 = N × N = {(a, b) | a, b は自然数} を考える。N2 に同値関係 ∼ を (a, b) ∼ (c, d) ⇔ a + d = b + c と定義することができる。ここで、N2 を同値関係 ∼ で類別した集合(商集合)N2/∼ を考える。これは、互いに同値なもの全体の集合(同値類)を元とするような集合であり、直観的には互いに同値であるようなものを同一視する操作である。(a, b) ∈ N2 の属する同値類を [a, b] ∈ N2/R と表すことにする。つまり、[a, b] は [a, b] = {(c, d) ∈ N2 | (a, b) ∼ (c, d)} となる集合である。同値類を [a, b] のように表すとき、(a, b) をこの同値類の代表元と呼ぶ。代表元は同値なものでありさえすれば、他のものに取り替えることができる。商集合 N2/∼ に加法 + と乗法 × を [a, b] + [c, d] = [a + c, b + d] [a, b] × [c, d] = [ac + bd, ad + bc] と定義すると、これらは代表元の取り方によらずに、同値類同士の演算としてうまく定義されていることが確かめられる。 このとき、[a, b] + [m, m] = [a + m, b + m] = [a, b] であるから、R = {(m, m) | m ∈ N} は N2/∼ の加法に関する単位元である。 また、自然数 m に対して [m + 1, 1] を対応させる写像は単射で、 [m + 1, 1] + [n + 1, 1] = [m + n + 2, 2] = [(m + n) + 1, 1], [m + 1, 1] × [n + 1, 1] = [(m + 1)(n + 1) + 1, (m + 1) + (n + 1)] = [mn + 1, 1] を満たす(準同型)から、 N は N2/∼ に演算まで込めて埋め込める。 記号の濫用ではあるが、自然数 m を埋め込んだ先と同一視して m = [m + 1, 1] と書くことにし、これを(正の)整数 m と呼ぶ。 同様の埋め込みは、自然数 m に対して [1, m + 1] を対応させることでも得られるが、和と積は [1, m + 1] + [1, n + 1] = [1, (m + n) + 1], [1, m + 1] × [1, n + 1] = [1 + (m + 1)(n + 1), (m + 1) + (n + 1)] = [mn + 1, 1] となる。自然数 m に対し、新たな記号 −m を [1, m + 1] を表すものとして導入し、これを負整数 −m と呼ぶ。 負整数同士の積が正整数になっていることが確認できる。 このとき、m + (−m) = [m + 1, 1] + [1, m + 1] = [m + 2, m + 2] = R だから、負整数 −m = [1, m + 1] は N2/∼ においてはちょうど、正整数 m = [m + 1, 1] の加法に関する逆元になっている。 R をあらためて 0 と書くことにして、N2/∼ = {m, 0, −m | m ∈ N} を整数全体の集合と呼び、改めて Z と書くことにしよう。 このようにして整数の全体 Z が厳密に定義されたが、なお定義に従えば Z において結合法則や分配法則などの環の公理が満たされることが証明できる。
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