協力ゲームと非協力ゲーム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 17:01 UTC 版)
「ゲーム理論」の記事における「協力ゲームと非協力ゲーム」の解説
詳細は「協力ゲーム」および「非協力ゲーム」を参照 ゲーム理論は、複数のプレイヤーが拘束力のある合意を結ぶ状況を扱う協力ゲーム理論(英: cooperative game theory)と個々のプレイヤーが独立に行動する状況を扱う非協力ゲーム理論(英: noncooperative game theory)とに分けられる。両者の区別は以下の表によって要約される。 協力ゲームと非協力ゲーム協力ゲーム非協力ゲームゲームの前提プレイヤー間で拘束力のある合意が可能 プレイヤー間で拘束力のある合意が不可能 分析対象の単位複数のプレイヤーから成る提携 個々のプレイヤーによる行動 表現形式提携形ゲーム、戦略形ゲーム 展開形ゲーム、戦略形ゲーム 解の概念安定集合、コア、交渉集合、仁、シャープレー値、カーネルなど ナッシュ均衡、支配戦略均衡、被支配戦略逐次排除均衡、サブゲーム完全均衡、進化的に安定な戦略など 協力ゲームと非協力ゲームの区別はジョン・ナッシュが1951年に発表した「非協力ゲーム」という論文の中で初めて定義された。ナッシュの定義によれば、協力ゲームにおいてプレイヤー間のコミュニケーションが可能でありその結果生じた合意が拘束力を持つのに対して、非協力ゲームにおいてはプレイヤーがコミュニケーションをとることが出来ず合意は拘束力を持たない。このように当初はプレイヤー間のコミュニケーションと拘束力のある合意(英: enforceable agreement)の有無によって協力ゲームと非協力ゲームとが区別されていたが、非協力ゲームの研究が進展するにつれてこのような区別は不十分なものとなった。すなわち、1970年代に非協力ゲームを「展開形」で表現する理論が発達したことによって、非協力ゲームにおけるプレイヤー間のコミュニケーションが情報集合として記述・考察できるようになったため、コミュニケーションの有無が協力ゲーム・非協力ゲームの定義にとって重要ではなくなったのである。したがって、協力ゲームと非協力ゲームの区別で重要なのは拘束力のある合意が可能であるか否かであり、ジョン・ハルサニとラインハルト・ゼルテンによる「非協力ゲームはその展開形表現の中に明示的に記述されているものを除いてはプレイヤー間で拘束力のある合意が可能でないゲームである。協力ゲームは展開形表現の中に記述されていなくてもプレイヤー間の拘束力のある合意が可能なゲームである。」という定義が一般的に受け入れられるようになった。 ただし、現実の相互依存的な戦略的状況そのものが協力ゲームと非協力ゲームとに分類可能な訳ではない。国際政治における国家間の相互依存関係を想起すれば容易に理解できるように、現実社会の多くの状況においてそれぞれの枠組みによる分析可能性が混在している。また、「協力ゲームがプレイヤー間の協力や協調関係を分析し、非協力ゲームがプレイヤー間の対立や競争を分析する」という理解がしばしばなされるが誤りであり、両者の違いは分析対象の単位がプレイヤーの提携レベルか個々のプレイヤーレベルかの違いである。 このように両者の区別は決して明確ではなく、非協力ゲームの理論を用いて協力ゲームの問題を説明しようとする一群の研究(ナッシュ・プログラム)も存在する。プレイヤー間の協力が実現するまでの交渉プロセスを展開形ゲームとして記述することによって非協力ゲームとして分析することが可能であり、非協力ゲームの枠組みを用いて協力の問題を分析することによって、単に協力の結果としてどのような状態が実現するかだけでなく協力が成立するためにどのような条件が必要か等といった問題も考察される。このような意味において非協力ゲーム理論は協力ゲーム理論の基礎であるということができる。 ただし、1980年代における非協力ゲーム理論の急激な進歩に伴って、協力ゲーム理論の経済分析における重要性は大きく低下し、「協力ゲームなど無意味だ」と主張する経済学者まで現れたと言われている。
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