(擬)二次元構造におけるポーラロン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:15 UTC 版)
「ポーラロン」の記事における「(擬)二次元構造におけるポーラロン」の解説
二次元電子ガスに対する関心の高まりを受けて、二次元におけるポーラロンの性質に関する研究も盛んに行われた。2Dポーラロン系をシンプルにモデル化すると、平面に閉じ込められた一つの電子と、周囲の3D媒質の中のLOフォノン、およびそれらの間のフレーリッヒ相互作用で表すことができる。そのような2Dポーラロンに対しては3Dで成り立っていた表式は適用できない。弱結合領域にある2Dポーラロンについて、自己エネルギーと質量の近似式はそれぞれ以下のように変わる。 Δ E ℏ ω ≈ − π 2 α − 0.06397 α 2 {\displaystyle {\frac {\Delta E}{\hbar \omega }}\approx -{\frac {\pi }{2}}\alpha \ -0.06397\alpha ^{2}} ( 4 ) {\displaystyle (4)\,} m ∗ m ≈ 1 + π 8 α + 0.1272348 α 2 {\displaystyle {\frac {m^{*}}{m}}\approx 1+{\frac {\pi }{8}}\alpha \ +0.1272348\alpha ^{2}} ( 5 ) {\displaystyle (5)\,} 2Dと3Dのポーラロンの物性を関係づけるシンプルなスケーリング関係がいくつか存在することが分かっている。以下にその一例を示す。 m 2 D ∗ ( α ) m 2 D = m 3 D ∗ ( 3 4 π α ) m 3 D {\displaystyle {\frac {m_{\mathrm {2D} }^{*}(\alpha )}{m_{\mathrm {2D} }}}={\frac {m_{\mathrm {3D} }^{*}({\frac {3}{4}}\pi \alpha )}{m_{\mathrm {3D} }}}} , ( 6 ) {\displaystyle (6)\,} ここで m 2 D ∗ {\displaystyle m_{\mathrm {2D} }^{*}} および m 3 D ∗ {\displaystyle m_{\mathrm {3D} }^{*}} はそれぞれ2Dおよび3Dのポーラロン質量、 m 2 D {\displaystyle m_{\mathrm {2D} }} および m 3 D {\displaystyle m_{\mathrm {3D} }} は電子のバンド質量である。 フレーリッヒ・ポーラロンを平面に閉じ込めると、実効的な電子-格子結合は強められる。しかし、この効果は多体効果による遮蔽で相殺される傾向がある。 2D系でもサイクロトロン共鳴はポーラロン効果を研究する有効な手段である。ほかに考慮すべき2D特有の効果もいくつかあるが(電子バンドが非放物型となること、多体効果、閉じ込めポテンシャルの性質など)、ポーラロン効果はサイクロトロン質量にはっきり表れる。 興味深い2D系の例として、液体ヘリウム膜に置かれた電子がある。この系の電子は液体ヘリウムのリプロン(量子化された表面波)と結合し、「リプロニック・ポーラロン」(ripplopolaron)を形成する。その有効結合定数は比較的大きく、パラメータの値によっては自己束縛が起きることもある。長波長においてリプロン分散が音響的になることが自己束縛の重要な要因である。 GaAs/AlxGa1-xAsの量子井戸や超格子では、ポーラロン効果により、弱磁場においては浅いドナーのエネルギーが低下し、強磁場においては共鳴分裂が起きる。D0中心やD−中心などの浅いドナーをポーラロン系として取り扱うと(「束縛されたポーラロン」)、そのエネルギースペクトルは、文献に見られる中で最も完全で詳細なポーラロンのスペクトロスコピーを与える[訳語疑問点]。 十分に電子密度が高いGaAs/AlAs量子井戸では、サイクロトロン共鳴スペクトルにおいて、GaAsのLOフォノン振動数ではなく、横光学フォノン(TOフォノン、transverse optical phonon)振動数の近傍で反交差が観察されている。この現象はポーラロン理論の枠組みで説明される。 光学特性以外にも多くのポーラロン物性が研究されている。自己束縛、ポーラロン輸送、磁気フォノン共鳴などはその例である。
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