M-2002 開発経緯

M-2002

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 14:38 UTC 版)

開発経緯

過去には、2001年8月にロシアを訪問した金正日が当時のプーチン大統領と共にオムスク戦車工場英語版を視察した際にT-90の購入を要求し、拒否されたことで自国で開発せざるを得なくなったという推測もあった。しかし、北朝鮮はその翌年である2002年には新型戦車の性能試験を行っていることから、要求したのはT-90に用いられている新型エンジンV-84-MSや51口径125mm滑腔砲 2A46M-2だという説もある[5]

T-72ベース説

「北朝鮮が1990年代にソビエト連邦からT-72を約300輌入手し(仮に事実だとしてもモンキーモデルのT-72Mだと思われる)、平壌を中心とした二個戦車師団に配備した」、もしくは、「北朝鮮がソ連時代にT-72のライセンス生産の許可を得て、1991年から大量生産した」、との未確認情報がある[2]。しかし北朝鮮がT-72を、ロシアから購入したり、ライセンス生産をしたという確証はない。一説には北朝鮮は、在韓米軍M1A1や韓国陸軍のK1に対抗するために、ソ連にT-72の供与を求めたが、T-72の技術が北朝鮮経由で中国に流出することを恐れたソ連に断られたとも言われている(しかし結局中国は別ルートでT-72を入手し、国産戦車開発の参考としている)。

上記に基づく推測では、オムスク視察の後、北朝鮮の第二機械工業設計局[6]でT-72を基にしたと推測される新型戦車の開発が始まったとされる。

聯合ニュース2010年8月17日付けによると、「韓国の情報当局は、北朝鮮は1990年代末まで「T-62」と「天馬号」を独自に生産し、前方地域や平壌一帯に集中配備したと把握している」とある。上記の「T-72を1990年代に入手もしくはライセンス生産」「T-72を平壌中心に配備」という説は、この聯合ニュースの報道と同じ情報の中の「T-62」と「天馬号」をT-72と錯誤したものと思われる[7]

このように北朝鮮は(戦力としては)T-72を保有していないという言説もあったが、北朝鮮映画「一生涯人民の中で」の9作目にて不鮮明ながらも写っており、少なくとも1輌のT-72を保有していたことが、2020年に判明している。イラン・イラク戦争中(1980年~1988年)にイラン軍によって鹵獲されたイラク軍の損傷したT-72(おそらく輸出型であるオブイェークト172M-E1/2)が、イランから北朝鮮に供与された可能性が高い。入手時期は1985年~1992年の間(1988年以降の可能性が高い)と推測される。

このT-72が、北朝鮮の新型戦車がT-62をベースとしつつも、その開発の参考資料になった可能性がある(類似例に、ソ連から鹵獲したT-62を参考資料に、59式戦車(=T-54A)をベースに改良して、69式戦車(=T-62そのもののコピーではない)を開発した、中国の例がある)。

設計

現在、実戦配備されている北朝鮮の新型戦車(後述のM-2020は除く)は、二種類が確認されており、角型砲塔左側操縦席の戦車は「暴風号 / 暴風虎」(天馬-215/216)、お椀型砲塔中央操縦席の戦車は「先軍号 / 先軍虎」(先軍-915)とされているが、実態は不明である。これらの新型戦車の車体はファミリー化されているようで、ミサイルの移動式発射台や自走砲にも転用されている。

車体

暴風号 / 暴風虎は、T-62の車体をわずかに延長して、それまでのT-55 - T-62のような大直径転輪から、T-72のような中直径転輪(ただしスターフィッシュ型)にすることで、転輪の数を片側5個から6個へ増やし、T-62では車体前方寄りだった砲塔を車体中央に位置させたものであるとする説もある。それが推測される理由はT-64戦車以後のソビエト製戦車では操縦席が中央に移動したが、北朝鮮の新型戦車は依然として左側に設置されている事にある[4]

成型炸薬弾対策に前部フェンダーは角張っており、車体側面にはサイドスカートが装備され、車体前方下部にはゴム板も装備している。砲塔もT-72と大きく形状が異なり、85式戦車に似た、前面に楔形の増加装甲を取り付けた、面構成の角型(溶接?)砲塔である[4]。砲塔の前面や側面や後面の角度は垂直ではなく傾斜している。また、砲塔と車体の表面に爆発反応装甲(ERA)を追加で装備する可能性もある。車長席はT-62と同じく砲塔左側にある(T-72は砲塔右側)。砲塔側面には左右それぞれ4連装発煙弾発射機を備えている。

武装

主武装は、T-62に搭載されている115mm滑腔砲2A20、もしくは、T-72に搭載されている125mm滑腔砲2A26/2A46/2A46Mまたはその改良型と考えられており[4] [8]「、主砲基部にT-62(天馬号/天馬虎)よりも若干大きな箱型のレーザー測距儀とされるを装備する。9M119 レフレークス対戦車ミサイルの運用能力があるかは不明(砲塔上面に対戦車ミサイル発射機を備えていることから、砲自体には、砲発射対戦車ミサイルの運用能力は無い、もしくは、制限されている可能性が高い)。角型砲塔の新型戦車の主砲砲身にサーマルスリーブは装着されておらず、お椀型砲塔の新型戦車には装着されている。

副武装として、旧ソ連の戦車と同じPKT7.62mm機関銃を主砲同軸(砲右側)に装備するが、砲塔上面右側の対空機関銃は朝鮮人民軍の他の装甲車両と同じKPV14.5mm重機関銃に強化されている。

お椀型砲塔の新型戦車は、主力戦車としては珍しく、砲塔上面左側の車長用キューポラ左側に、地対空ミサイル(ロシアの「9K38 イグラ」、射程5km)の発射機を搭載可能(画像外部リンク2参照)。これらは赤外線誘導で、本来は歩兵が携行する短距離ミサイルだが、低空を低速で飛行する対戦車ヘリコプターなどには充分な脅威となる。また、主砲防盾上部に、対戦車ミサイル「火の鳥3」の発射機2基を搭載可能。

2017年4月15日の金日成生誕105年記念日の平壌軍事パレードでは、角型砲塔の戦車にも対戦車・地対空ミサイル(どちらも連装)の搭載が確認された。一例として、対戦車ミサイルは砲塔上面左側、携行式地対空ミサイルは砲塔右側後部に突出する形で架台基部(RWS(砲塔内からの遠隔操作式)とする説がある)を増設して、位置している。砲塔上面中央の装備は、連装式の「AGS-30 30mm自動擲弾銃」とする説がある。また、別の例では、砲塔上面左側に連装式の対戦車ミサイル架1基、その後方に単装式の携帯式地対空ミサイル架1基。対戦車ミサイルはロシアの「9K111 ファゴット(AT-4 スピガット)」の北朝鮮版発展型「火の鳥3」とする説がある。

「火の鳥3」は2008年頃に開発されたもので、SACLOS方式の「9K111」を原型に、北朝鮮が独自にレーザー誘導方式に改良したものであり、直径120㎜、重量26㎏、射程は3㎞。発射筒の照準器の形状が、縦長の「9K111」と異なり、横長であることから「9K111」との区別が可能。その後、配備された「火の鳥3」は2012年に北朝鮮の閲兵式で初公開。2016年2月には、射程を倍近くの5.5㎞に延伸した改良型が試験された。この改良型はロシアの「9K133 コルネット(AT-14 スプリガン)」に匹敵する性能である(もしくは、コルネットの直接的なコピーの可能性もある)。


  1. ^ “北朝鮮が新型戦車「暴風号」初公開、旧ソ連製を改良”. 聯合ニュース. (2010年8月17日). http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2010/08/17/0300000000AJP20100817000700882.HTML 2012年6月19日閲覧。 
  2. ^ a b c 日本周辺国の兵器 - T-72戦車(暴風号)
  3. ^ 金日成とともにパルチザン抗争を行った柳京洙(後に第105戦車師団長)を記念したもの。
  4. ^ a b c d KPAJOUNAL Vol.1,No.4 - 2010/8/28閲覧
  5. ^ 李ジョンヨン:著 宮田敦司:訳『北朝鮮軍のA to Z 亡命将校が明かす朝鮮人民軍のすべて』 光人社 2009年 ISBN 9784769814436
  6. ^ Bermudez Jr., Joseph S. (2001-03-14). The Armed Forces of North Korea. I.B. Tauris. ISBN 1-86064-486-4.
  7. ^ 北朝鮮が新型戦車「暴風号」初公開、旧ソ連製を改良
  8. ^ 『「ポクプン号」(注:暴風号のこと)は「朝鮮人民軍機甲の真髄」とし、対戦車誘導弾などあらゆる種類の弾薬を撃つことができる強力な125ミリ戦車砲で武装したと記載された。価格は420万ドル(約50億ウォン)。』東亜日報2019年9月6日付記事『「ミサイルが5100万ドル」 北朝鮮がネットで兵器販売』
  9. ^ “ロシアメディア:朝鮮の神秘的戦車「暴風虎」”. 中国網. (2013年1月17日). http://japanese.china.org.cn/culture/2013-01/17/content_27714097.htm 2013年1月17日閲覧。 
  10. ^ 北朝鮮の新型戦車「先軍号」を初確認 900台戦力化
  11. ^ “中国の裏切り警戒? 北朝鮮軍が中朝国境に戦車配備”. 朝鮮日報. (2014年8月19日). https://web.archive.org/web/20140821194720/http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/08/19/2014081901071.html 
  12. ^ a b 중무기실에 전시된 북의 전차들
  13. ^ “新華社「北、ロシアの次世代主力T-95級戦車を開発中」”. 中央日報日本語版. (2009年3月18日). http://japanese.joins.com/article/738/112738.html 2013年1月25日閲覧。 





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