IPv6
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背景と推移
IPv6が誕生した背景には、IPv4のIPアドレス枯渇問題がある[2]。
1980年代までは、米国内を中心に、Class A (/8)、Class B (/16)、Class C (/24) などの単位で各組織にIPアドレスを割り振っていた。1990年代に入り、インターネットの国際化と、参加組織の増大によって、Class BのIPv4アドレスが不足する恐れが出てきた。IPアドレスの数が有限である以上、根本的な解決策が必要となることは自明であり、その解決策として検討された最終成果がIPv6である。
しかし、新しいプロトコルであるIPv6を開発し普及させるには時間がかかるため、短期的な対策であるIPv4の延命として、1994年のプライベートアドレス (RFC 1918) の導入と前後して、CIDR (RFC 4632)・NAT (RFC 2663) ・Proxy(プロキシ)など、プライベートアドレスを使用するLANとグローバルアドレスを使用するWANとを使い分けることでIPv4アドレスを節約し有効活用する取り組みが行われた[3]。
一部には、IPv4アドレス枯渇には、既存の回避策で対応可能であるとIPv6の必要性を疑問視する声もあった。しかし、国際的なインターネットの爆発的な普及と、携帯電話やスマートフォンなどのインターネット利用機器が急速に増加したことにより、新たなIPアドレスの需要が、運用の改善や新たな回避策によるIPアドレスの供給を上回っており、限界に達しようとしている。また、回避策による弊害も顕著になってきており、インターネットの新たな利用形態の普及を阻害している。
現在は、IPv6は運用に目途が立って徐々に普及しつつあり、IPv4とIPv6を併用しつつIPv6へ移行することが課題になっている。
IPv6開発の推移
- 1981年9月 RFC 791 としてIPv4の基本仕様が公開される。
- 1991年7月 「IPv4アドレスが不足する」という研究を受けてIETFが調査を開始した[4]。
- 1992年11月 RFC 1380 という形で調査結果をまとめ、次世代ネットワークの議論が始まる。
- 1993年12月 RFC 1550 としてIPngの名称で機能要求をまとめる。
- 1995年1月 RFC 1752 としてSIPPをベースにアドレスを128bit化、同時に名称をIPngからIPv6に正式に改名。
- 1995年12月 RFC 1883 Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specificationや RFC 1884 IPv6 Addressing ArchitectureとしてIPv6の最初の仕様を決定。
- 1998年7月 RFC 2373 にてIPv6のアドレスに関する仕様を大幅に改訂した。
- 1998年12月 RFC 2460 Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specificationとして主な仕様が確定する。
- 1999年07月 IANAによるIPv6アドレスの割り振りが開始される。
- 1998年以降、TAHI Project、WIDE Project、KAME project、USAGI Projectなどにより、UNIX系OSへの実装とテスト運用が行われ、2006年頃までに主要部分の実装が完了した。Windowsに関しては、1998年3月Windows NT 4.0用にMSRIPv6を、2000年3月Windows 2000用に技術プレビューを、2001年10月にWindows XP用に評価版を提供したのち、Windows XP SP1およびWindows Server 2003からサポートが行われるようになった。
- 2011年2月3日にIANAにプールされていたIPv4アドレスは枯渇した。
- 2011年4月15日にAPNICのIPv4アドレスの在庫は、/8ブロック換算で1ブロック未満になり、アジア太平洋地域では、事実上IPv4アドレスは枯渇した。各RIRの最後の1ブロックについては、自由に取得することはできず、IPv4の安定運用とIPv6への移行のために限定的な割り振りが行われる。
- 2011年6月8日にWorld IPv6 Dayとして、主要なインターネットサービスのDNSのAAAAレコードを1日だけ有効にすることで、インターネット環境でIPv6を並行運用した場合の問題点を見つけ出すテストを行うイベントが実施された。
- 日本国内については、NTTのフレッツ 光ネクストにおいて、IPv6 PPPoE接続が2011年6月1日に、IPv6 IPoE 接続が2011年7月21日に提供され、他社のサービスを含めると、IPv6が一般に普及するための基盤が整った状態になった。
- 2012年6月6日にWorld IPv6 Launchとして、主要なインターネットサービスをIPv6に対応させるイベントが実施された。1日限りのトライアルであった2011年のWorld IPv6 Dayとは異なり、この日以降も継続的にIPv6でサービスできる状態にすることを目的として開催された。
- 2017年7月 RFC 2460 を廃止して、RFC 8200 Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specificationに更新[5]。 RFC 2460 に対する追加/修正として存在していた多くのRFCをまとめて再編成した。
注釈
- ^ ミドルウェアやサービスコンポーネントを含む
- ^ Windows 2000にも実験的なIPv6の実装が提供されたことがあるが、その後のサービスパックとの整合性が考慮されていないため、不具合が出る可能性がある[9]
- ^ 石の定義は「2mm以上の岩石」であり、地球表面から人類が到達した最大深度約6000 mまでの体積は約31億 km3なので、人類が地球上で観測しうる石の数は最大でも1.988×1027個程度となり、IPv6アドレスの総数約3.40×1038個よりも遥かに少ない。
- ^ ユリウス年(1年は正確に365.25日 = 3155万7600秒)で計算した場合。
- ^ a b Modified EUI-64の使用はセキュリティの観点からは非推奨とされるが、RFCで公式に非推奨(deprecated)とはなっていない。モバイル・IoT機器では依然として多数採用されている。[1]
- ^ NICを交換するか、あるいは利用端末を廃棄するまでの間
- ^ 接続ネットワークを変えたとしても(なお、固定利用とモバイル利用で状況が相異なる)、インターフェイスIDが不変のため、追跡可能
- ^ セキュリティについてはファイアウォール、IPS、UTMなどで確保すべきであり、匿名性に頼るべきではないとの主張もある。[要出典]
- ^ 匿名アドレスとも言う。生成した一時アドレスは数時間 - 数日程度の有効期限を定め、超過した場合は廃棄し新しいアドレスを生成する。使い捨ての一時的なアドレスと言う主旨である。
- ^ 携帯電話ネットワーク(LTEなど)に接続した場合を言う。スマートフォンからWi-Fiアクセスポイントに接続した場合は、固定利用の場合に準ずる。
- ^ 古い携帯端末では一時アドレスに対応していない場合がある。
- ^ フレッツ光ネクスト (NGN) 経由、各種トンネル経由、フレッツ以外のネイティブ事業者、その他によって相異なる
- ^ 固定利用の場合には、プレフィックスが半固定となるため、ユーザーCPEを概ね識別、特定可能となる。プレフィックスが変動するタイミングは不定であり、周期的に変更される事もあれば、ISPを全面的に乗り換えするまで同一と言う事も有り得る。
- ^ ただし、IPv4においても半固定のIPアドレスをユーザーに割り当てるISPにおいては同様の問題が生ずる。
- ^ 2019年9月まで有効
- ^ IPv6のパケットを解釈せず単に通過させるだけの機能を言う
出典
- ^ 小川 2018, pp. iii, 3–4.
- ^ 小川 2018, p. 3.
- ^ 小川 2018, pp. 3–4.
- ^ “The IP Addressing Issue”. 2013年12月14日閲覧。
- ^ 小川 2018, p. 32.
- ^ a b “IPv6利用統計”. 2014年11月19日閲覧。
- ^ 小川 2018, pp. 40–43.
- ^ 安力川幸司,伊藤孝史,泉川晴紀 (2017年11月13日). “スマートフォンへのIPv6導入に向けた取り組み”. 2021年6月12日閲覧。
- ^ “MSRIPv6 1.0”. 2012年1月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年1月4日閲覧。
- ^ “Windows 8 で IPv6 を使って接続する”. 2012年8月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年8月18日閲覧。
- ^ a b c “Windows Vistaでのドメインネームシステムクライアントの動作”. 2011年2月26日閲覧。
- ^ a b 小川 2018, p. 39.
- ^ a b 小川 2018, p. 87.
- ^ 小川 2018, p. 260.
- ^ “CIDR REPORT”. 2014年10月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年10月28日閲覧。
- ^ a b https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No54/0800.html
- ^ “国内スマホユーザーを“IPv6デフォルト化”する計画が明らかに、携帯キャリア大手3社が2017年夏ごろ対応開始”. 2017年4月11日閲覧。
- ^ “IIJ: IIJ「フレッツ・シリーズ」対応サービス”. 2017年4月11日閲覧。
- ^ 小川 2018, p. 37.
- ^ 小川 2018, p. 38.
- ^ 小川 2018, pp. 153–156.
- ^ 小川 2018, p. 56.
- ^ 小川 2018, p. 57.
- ^ 小川 2018, pp. 57–58.
- ^ a b 小川 2018, p. 58.
- ^ 小川 2018, p. 59.
- ^ 小川 2018, pp. 59–60.
- ^ a b c 小川 2018, p. 60.
- ^ 小川 2018, p. 66.
- ^ 小川 2018, p. 70.
- ^ a b 小川 2018, p. 63.
- ^ 小川 2018, p. 64.
- ^ “Internet Protocol Version 6 Address Space”. 2017年5月4日閲覧。
- ^ “IANA IPv6 Special-Purpose Address Registry”. 2017年5月4日閲覧。
- ^ (RFC 7526)
- ^ 小川 2018, p. 94.
- ^ 小川 2018, p. 95.
- ^ a b 小川 2018, pp. 101, 122.
- ^ 小川 2018, p. 114-116.
- ^ 小川 2018, p. 47.
- ^ “IPv6/IPv4トランスレータとは”. 2011年2月18日閲覧。
- ^ “FTTHの上期純増数は41.6万件、2003年度以降で過去最低 ≪ プレスリリース”. 株式会社MM総研. 2024年5月9日閲覧。
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