AppleScript 特徴

AppleScript

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/13 07:49 UTC 版)

特徴

カバーエリアの広さ

アプリケーション操作の自動化、シェルコマンドの呼び出し、画面上の部品の強制操作にWebコンテンツの強制コントロール、Cocoaフレームワークの呼び出しにiCloud経由のコンテンツ更新など、マクロ言語としてはカバーできる範囲がとても広い。そのうえ、GUIベースのアプリケーション開発まで行えるため、いったん覚えるとMacを用いた作業の生産性が向上する。ただし、他のアプリケーションを他のコンピュータからも操作できるため、セキュリティを考慮しさまざまな抑止機能がオペレーティングシステム (OS) に用意されつつある(詳細は#制限機能を参照)。

Classic Mac OSからmacOSを通じて継承された唯一のテクノロジーであり[2]、海外を中心に古くから開発者コミュニティが形成され[3]、GUIベースのアプリケーションのコントロールについての知見が蓄積されている。

仕組み

AppleScriptはOSAに準拠したスクリプト言語の一つであり、アプリケーション等のプロセスApple eventを送ることにより自動操作を実現する。通常はコンパイル済みのバイトコードが保存され実行される。このため、基本的にはOSのバージョンやCPUの形式 (68000, PowerPC, x86, x64, Apple Silicon) 、記述した言語(AppleScript英語、AppleScriptフランス語、AppleScript日本語)などに依存しないコードが生成される。

AppleScriptの言語そのものが定義している予約語(複数の単語による連語から構成される)は数十程度と少なく[4]、標準では絶対値を求める機能や三角関数の機能すら持たないが、Scripting Additions/OSAX(Open Scripting Architecture eXtension)[5]と呼ばれる機能拡張書類、あるいはAppleScriptそのもので記述したAppleScript Librariesによって命令を増やすことが可能となっている(サードパーティのOSAXはmacOS 10.14で廃止になった[6])。

AppleScriptはMac OS上のアプリケーション間通信を基礎技術として用いているため、アプリケーションがApple eventに対応していればそのアプリケーションに処理を委ね、その処理結果を別のアプリケーションに対して用いることも可能である。また、現在のバージョンではUser Interface Scripting[7]あるいはGUI Scripting[8][9]あるいはUI Element Scripting[10]と呼ばれる機能を用いて、スクリプトからアプリケーションにメニュー操作やキー入力を伝達することも可能になっている。アプリケーションは、システム経由で送られてきたApple eventメッセージを解釈して対応した処理を行い、処理結果を再びシステムを経由してApple eventメッセージとして返す。

バイトコードインタプリタ型の逐次実行で処理されるため[要出典]、ネイティブコードに比べると実行速度は劣るものの、アプリケーションの機能呼び出しを行わない場合にはスクリプト言語としては十分な速度で実行される[要出典]。ただし、アプリケーションの機能呼び出しはコストも高く、前述のGUI Scriptingを用いたメニューなどの強制操作を行うと、さらに処理コストが増加し、時間がかかる。

ユーザインタフェース

AppleScriptは、簡素なダイアログ (display dialog、display alert)、ノーティフィケーションセンターへのノーティファイ (display notification)、ポップアップメニューからの項目選択ダイアログ (choose from list)、ファイル選択 (choose file)、フォルダ選択 (choose folder)、新規ファイル保存先パス選択 (choose file name) 、プログレスバー表示(Mac OS X v10.10以降。アプレット動作時のみ)などの、目的に特化した簡単なユーザインタフェースを提供している。

これら以外のユーザインタフェースを利用するために、現在利用できる手段で一番簡単なやり方は、Mac OS X標準搭載の「スイッチコントロール」でパネルを作成し、パネル内のボタンに対してアクション「AppleScript」を割り当てておくというものである。

Adobe InDesignなどの一部のアプリケーションでは、簡易的なユーザーインタフェースをAppleScriptのプログラムから動的に生成する機能を備えている。

本格的な、自由度の高い自作のインタフェースを持たせるには、Xcode上で「AppleScript App」プロジェクトを作成し、その中にAppleScriptコード(AppleScriptObjC)を記述する。Xcode上で一般のアプリケーション開発と同様にユーザインタフェースを作成できる。コントロール(GUIの部品)が操作されると、AppleScriptコード中の対応するイベントハンドラが呼び出される。

開発環境

macOSにはスクリプトの編集・実行ツールであるスクリプトエディタMac OS X v10.0v10.4スクリプトエディタMac OS X v10.5v10.9はAppleScriptエディタ(スクリプトエディタの名称が変更されたもの)、Mac OSでは『スクリプト編集プログラム』)が付属する。

スクリプトエディタにAppleScript対応アプリケーションのアイコンドラッグ・アンド・ドロップするとAppleScript用語辞書が表示され、これを参照しつつアプリケーションのコントロールを行う処理を記述する[11]

スクリプトエディタにはブレークポイント設定や変数内容のモニタリングなどの機能はないため、これらの機能を利用したいユーザーはLate Night Software社の「Script Debugger」を用いる必要がある。また、Cocoaオブジェクトのログ表示やAppleScript Librariesに添付するAppleScript用語辞書の編集についても「Script Debugger」で行える。

AppleScriptへのコードサインはApple純正のスクリプトエディタおよびScript Debuggerで行うことができる。Mac App StoreにAppleScriptで作成したアプリケーションを提出するには、Xcode上で記述・コードサインする必要がある。

その他、テキストで書いたスクリプトをコマンドラインからosascriptコマンドでコンパイル・実行することも可能である。

Apple純正の統合開発環境Xcode(旧Project Builder)上でAppleScriptによるアプリケーション開発を行うこともできる。AppleScriptから直接Cocoaの機能を呼び出せる「AppleScriptObjC」[12]が提供されている(Mac OS X v10.1〜v10.5ではAppleScript Studio)。ユーザーインタフェース作成についてInterface Builderを用いる点は以前のAppleScript Studio(Mac OS X v10.6で廃止)とかわりないが、AppleScript用語辞書を用いて各種GUI部品にアクセスするのではなく、Interface Builder上でバインディングによりAppleScriptプログラム中のプロパティ値にひもづけしたり、Cocoaの各種フレームワーク内のメソッドを呼び出す方式に変更された。

異なるOSバージョン間の互換性

AppleScript書類のフォーマットは維持されているため、基本的には互換性が確保されている。これまでMac OS X v10.4のインテルCPUへの移行や、Mac OS X v10.764ビットへの移行、macOS 11.0のApple Silicon(ARM)移行などOSの基盤の大変革期があったが、AppleScriptそのものについてはほぼ影響はなかった。AppleScriptの処理系そのものの変更が小刻みであったため、15年前に作られたソートルーチンがそのまま使えたりもする。

ただし、AppleScriptだけでなくOSAXや外部のアプリケーションの機能を利用していた場合には、部品ごとに確認が必要となる。

まず、macOS標準添付のアプリケーションの機能がOSバージョンごとに異なる。これらを呼び出す処理を行っている場合にはチェックが必要である。とくに、AppleScriptにOSの機能を提供するために用意されている補助アプリケーションはOSバージョンによって変更されることがあるため、その存在および代替機能を確認する必要がある。一般的に、古いバージョンから新バージョンへの移行は、それなりに手間はかかるものの確認作業レベルで済む。

逆に、新しいバージョンのOSから古いバージョンのOSにScriptを移植する場合には大幅に作業量が増える。古いOSには固有のバグもあるため(Mac OS X v10.5以前は日本語のパスの扱いに問題があった)、それらを考慮した処理に変更する必要も生じる。古いmacOSが動作する実機と関連アプリケーションを用意し、きちんと動作検証や書き換え作業が必要になる。

GUI Scriptingを利用している場合には、メニュー構成やボタンの文字を変えただけで動かなくなる可能性があるため、そもそも異なるOSバージョン間でそのまま動く可能性は低い(ただし単純な修正で対応できる)。

OS X v10.10以降ではAppleScript側が想定するAppleScript処理系のバージョン(≒ macOSそのもののバージョン)をuseコマンドを使って表記できるようになった。

AppleScript version macOS version useコマンド記述
2.4 10.10 use AppleScript version "2.4"
2.5 10.11, 10.12 use AppleScript version "2.5"
2.7 10.13, 10.14 , 10.15, 11.0 use AppleScript version "2.7"
2.8 12.0, 13.0, 14.0 use AppleScript version "2.8"

また、macOS 10.14以降でサードパーティ製のOSAXが使用できなくなったため、それらを使用しているScriptをmacOS 10.14以降で動かす場合には代替機能を探す必要もある(Cocoaの機能を呼び出したり、shellコマンドの機能を呼び出したりするのが一般的)。

構文

HyperCard用のスクリプト言語であるHyperTalkに似た、英語に近い構文が採用されており、基本的には習得しやすい。機能の異なるアプリケーションを操作するためには、それぞれアプリケーションごとに異なる命令やオブジェクト構造を知る必要があり、AppleScript対応アプリケーションのアイコンをスクリプトエディタでオープンすることで表示される「AppleScript用語辞書」を参照しつつ記述することになる。

初期は日本語表現形式を含む英語以外の言語による記述も可能だったが、Mac OS 8.5以降は英語表現形式のみが採用されている。英語表現形式の場合も変数名は | で囲むことで日本語などを使用できる。

Mac OS X v10.10でAppleScriptObjCがXcode上のみならず、スクリプトエディタ上でも利用できるようになったため、Objective-C風の表記も標準採用された。

スクリプトの例(変数「持ち物=myItem」の中身が0だったらダイアログを表示する)

英語

if myItem = 0 then
    display dialog "持ち物がありません" buttons {"OK"} default button "OK"
end if

通常は上記のように記述するが、より英文に近い以下のようなコードも記述できる。ただし複数の処理を一行のif文に組み込むことはできないので、先ほどの構文を使用することになる。下記のコードでは比較演算子の“等価”を表す = が is に置き換えられている(is は is equal to と書くこともできる。このような同義語が数多く存在するのもAppleScriptの特徴のひとつ)。

if myItem is 0 then display dialog "持ち物がありません" buttons {"OK"} default button "OK"

変数名に日本語を用いた例

if |持ち物| is 0 then display dialog "持ち物がありません" buttons {"OK"} default button "OK"

日本語(現在は利用できない)

もし「持ち物」が0ならば
    “持ち物がありません”をボタンリスト:{“OK”}、デフォルトボタン:“OK”で表示する
以上

AppleScriptObjC構文

Mac OS X v10.6で部分的に導入され(Xcode上のみ)、Mac OS X v10.10でスクリプトエディタでもCocoaの機能を利用するAppleScriptObjCが導入された。このため、現行のmacOS上ではどのマシンでも、どのAppleScriptランタイム環境上でもCocoaの機能を利用できる状態になっている。

AppleScriptObjCは従来のAppleScriptと比べて10倍以上の高速処理が可能である[13]。ただし、それはAppleScriptのオブジェクト(string、list、recordなど)をCocoaのオブジェクト(NSString、NSArray、NSDictionaryなど)に変換したうえでCocoaのメソッドを呼び出した場合であり、従来型のAppleScriptをAppleScriptObjC環境で記述しても速度は変わらない。AppleScriptとCocoaの間でのオブジェクト変換は暗黙で行われる場合もあるが、多くの場合は明示的に変換する必要がある。

また、AppleScriptObjCではObjective-CのBlocks構文やprotocolをサポートしていないため、Cocoaのフレームワークすべてが利用できるわけではない。Cocoaのクラス名やメソッド名でAppleScriptの予約語とコンフリクトするものについては「|」で囲う必要がある(例:NSURL、URL、document、count、propertiesなど)。ドットシンタックスもサポートしていないため、現行のObjective-C 2.0にくらべるとやや冗長な表記になる。

Cocoaオブジェクトの結果表示やログ表示については、macOS標準添付のスクリプトエディタではサポートしていない。Cocoaオブジェクトのログ表示などを利用するためにはサードパーティーの開発ツール「Script Debugger」の利用が必要である。


スクリプトの例(変数「aString」のアルファベット大文字を小文字に変換する)

Objective-C

NSString *aString = @"123/abc/ABC.txt";
[aString lowercaseString];

AppleScriptObjC

use AppleScript version "2.4"
use scripting additions
use framework "Foundation"

set aString to current application's NSString's stringWithString:"123/abc/ABC.txt"
(aString's lowercaseString()) as string

AppleScript対応アプリケーションへのtellブロック内でAppleScriptObjCの命令を呼び出すとエラーになる。このため、たとえばAdobe InDesignの書類から得られたデータをAppleScriptObjCを用いて高速にソートしたい場合などは、AppleScriptObjCの機能部分をサブルーチンとして分離し、InDesignへの命令ブロックと明示的に分ける必要がある。

なお、AppleScriptObjCで実行されるCocoa機能呼び出しはARC環境下で実行されるため、releaseなどのメソッドを呼び出すと実行環境ごとクラッシュする。

独特な挙動

スクリプトエディタ上でのコンパイル(構文確認)時に演算の優先順位を指定するため、AppleScript処理系がソースコード内にカッコ(「(」「)」)を自動的に補う動作を行う。ユーザーはこのカッコが自分の意図に合うかどうかを判断し、適宜カッコを補ったり移動させる必要がある。

カッコが自動で付加されるのは、主に四則演算や文字列の連結演算、Cocoaオブジェクトへのメソッド実行などの記述時である。

独特な要素

英文風に記述するため、「無意味句」を入れることができる。無意味句の代表的なものに「the」がある。theはプログラム内で何もプログラム的な動作を行わない。実行時に無視される。

set end of aList to 1

のような配列変数の末尾に数値を追加する記述を行なった場合、英文風に読みやすくするため、

set the end of aList to 1

のように無意味句を補うことができる。

無意味句はプログラム的な動作を何も行わないが、それら自体が存在し、無意味句同士は別物として識別される。そのため、無意味句を補助的に用いてサブルーチン(ハンドラ)の宣言を行うことも可能。

AppleScriptが定義している無意味句には、

about, above, against, apart from, around, aside from, at, below, beneath, beside, between, by, for, from, instead of, into, on, onto, out of, over, since, thru (throughも可), under

などがあり、サブルーチンのパラメータを指定する装飾子としてこれらの無意味句を利用できる。

set a to aSub for 10 at 20
--> 30

on aSub for aInt at bInt
      return (aInt + bInt)
end aSub

  1. ^ JavaScript for Automation Release Note
  2. ^ 林信行の「Leopard」に続く道 第5回:System 7で幕をあけた激動の1990年代(後編)
  3. ^ AppleScript Users ML
  4. ^ AppleScript Language Guide Keywords
  5. ^ Scripting Additions for Mac OS X
  6. ^ macOS Mojave 10.14 Release Notes
  7. ^ Mac Automation Scripting Guide - Automating the User Interface”. 2016年5月29日閲覧。
  8. ^ AppleScript Overview - AppleScript Utilities and Applications - System Events and GUI Scripting”. 2016年5月29日閲覧。
  9. ^ OS X: Using AppleScript with Accessibility and Security features in Mavericks”. 2016年5月29日閲覧。
  10. ^ “GUI Scripting”と”UI element Scripting”
  11. ^ 【基礎】アプリケーションの操作は、用語辞書に書いてあるとおり記述しないと動かない
  12. ^ AppleScriptObjC Release Notes
  13. ^ AppleScript sorting performance comparison
  14. ^ Technical Note TN2065: do shell script in AppleScript. Mac Developer Library. Apple, 2006-03-23.
  15. ^ ParallelesにゲストOSとしてインストールしたOS XをAppleScriptで制御
  16. ^ 郵便専門ネットでバージョン番号を取得
  17. ^ 郵便専門ネットでXML-RPC経由でJISコード(5桁、6桁どちらでも)から、その市区町村に属している郵便番号のリストを取得
  18. ^ 郵便専門ネットで道府県のコード(地方公共団体コードの先頭2文字)から都道府県名を返す
  19. ^ 郵便専門ネットで引数に指定した郵便番号で何件ヒットするのかをint型で返す
  20. ^ 郵便専門ネットでXML-RPC経由で郵便番号を6桁(チェックデジット付き)の全国地方公共団体コード/JISコード/市町村コードに変換
  21. ^ REST APIに対してGET、POST、PUT、DELETEのmethodを呼び出す
  22. ^ AppleScriptから電話にアクセスする
  23. ^ ZipZap frameworkを使ってZipアーカイブ内の情報を取得
  24. ^ Contactsに登録してある自分の写真をPNGでデスクトップに保存する
  25. ^ AppleScript Release Notes 10.11 Changes Folder Actions
  26. ^ OS X 10.11.5+Safari 9.1.1以降で、新たなAS制限機能が増える
  27. ^ tccKitで指定Bundle IDのアプリケーションの「オートメーション」認証状況を取得






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