騎士道 武士道と騎士道

騎士道

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/12 04:43 UTC 版)

武士道と騎士道

騎士道とは西洋一般の行動規範であるが、日本にも武士道と呼ばれる規範が存在し、騎士道と対比されることがある。武田による対比を以下に示す。

騎士道と武士道の時代的変遷の比較(武田による[2]
騎士道 武士道
ゲルマン 戦場での武勲が第一、決して引いてはならない 戦国 勝利が第一、戦うべき時に戦う = 戦場における行動原理
(キリスト教の影響) (儒教思想の影響)
中世盛期 神への献身、異教徒との戦い、弱者の守護 江戸 主君への忠誠、誠実である、世のため行動する = 道義論的価値観
(国家主義、中世騎士物語の影響) (国家主義の影響)
近世 主君への忠誠、名誉と礼節、貴婦人への愛 明治 主君への忠義、名誉と敬意、フェア・プレイ精神 = 民の上に立つ者としての規範

表に示された通り、ゲルマン民族の価値観と戦国武士道は、戦闘者の心得として相通じる規律であった。それが時代とともに教化され、両者ともに道義論的価値観への変容を見る。最後に、この道徳観に国家主義を背景とした公の精神が吹き込まれることで、民の上に立つ者としての規範が完成した。即ち、騎士道と武士道は源を同じくしながらも、その道徳観を形成した価値観の違い(キリスト教と儒教)と、ロマンス要素の有無という二点において、徐々にその道を分かったとされる[2]。特に顕著な例として、近世騎士道では貴婦人への愛が重要な要素である一方、武士道にそうした教えは見られない。

武士は主人に対して主従を結ぶのに対して、騎士の誓いは神との契約であり、帰依するのはあくまでも神の教えである。したがって主が神の教えに背く理不尽な命令をした場合、自分の心の中に聞こえる声を聞くことでそれを拒否しても良いとされる[2]

総じて、武士道は自身の名誉や意地を、騎士道は正しさを重んじるという差がある。戦争において武士道では敵への降伏を拒否しての自殺があるが騎士道にはこれがなく、代わりに死ぬまで抗戦することを選ぶ。言うまでもなく、キリスト教は自殺を禁じているためである[注釈 3]

なお、その理念の成立時期は、両者で大きく差があるように思えるが、騎士道が成立した中世盛期は、日本においては武家政権が本格始動した鎌倉時代である。この時代に「弓馬の道」なる武士道の起源が成立しており、その意味では多少共通点があると言えよう。また山岡鉄舟によれば、武士道なる概念は、中世より存在していたが、自分が名付けるまでは「武士道」とは呼ばれていなかったとしている[6]


注釈

  1. ^ ただし『ダ・ヴィンチ・コード』著者ダン・ブラウンレディーファーストが道徳心の発露では無く、「魔女狩りや迫害から、救世主の末裔を擁護することを存在意義とする騎士団の行動規範より始まったと推論している。
  2. ^ 「気前良さ」と「清貧」は一見相反する教えに見えるが、どちらも財産を蓄えればそれを守るという欲が出るため「蓄財をするな」という教えである。一例としてテンプル騎士団員は私有財産の所持を禁じられ、2人で馬一頭を共有するほど質素倹約に努めた。
  3. ^ リュイはこの点に関連して、「騎士に自刃は許されていない。ゆえに盗みや強盗を働いた騎士は、他の騎士の下に出頭し、処刑されねばならない」と記している。

出典

  1. ^ Francis Warre-Cornish (1908). Chivalry. Swan Sonnenschein & Co., Lim. 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n レオン・ゴーティエ (2020年1月). 武田秀太郎. ed. 騎士道. 中央公論新社 
  3. ^ From Sarmatia to Alania to Ossetia: The Land of the Iron People | GeoCurrents
  4. ^ トマス・ブルフィンチ 野上弥生子訳 『中世騎士道物語』岩波書店
  5. ^ アンドレア・ホプキンズ. 西洋騎士道大全. 東洋書林 
  6. ^ 「神道にあらず儒道にあらず仏道にあらず、神儒仏三道融和の道念にして、中古以降専ら武門に於て其著しきを見る。鉄太郎(鉄舟)これを名付けて武士道と云ふ」山岡鉄舟・勝海舟『武士道』(慶応四年)


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