隠れた変数理論 隠れた変数理論の概要

隠れた変数理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/14 13:20 UTC 版)

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ベルの不等式の破れが1982年アラン・アスペらにより検証されたことなどにより、局所性を仮定した隠れた変数理論では量子論は記述できないことが明らかになっている。非局所的な隠れた変数理論を主張する物理学者も存在するが相対論との相性は極めて悪い。

確率的な性質を理由に量子力学が不完全だと主張する少数派の決定論物理学者に支持されていたが、ベルの不等式の破れの検証後は支持するものがさらに少数となった。

隠れた変数理論の有名な支持者アルベルト・アインシュタインの言葉に、「神はサイコロを振らない[1]」というものがある。これはアインシュタインの、完全な物理学理論は決定論的であるべきとの信念の表れである。

動機

現状の量子力学は非決定論的である。すなわち一般には測定の結果を一通りに予言することはなく、代わりに結果の確率分布を予言する。このことから、全く同一の二つの物理系に対してある物理量の測定を行ったときですら、得られる結果が一致しない状況が有り得る。このことに対し、実は量子力学の裏により深い真実が隠れており、それを記述する根源的な理論では測定の結果を決定論的に予言できるのではないか、という疑問が生じる。

言い換えると、現状の量子力学による世界の記述は不完全かもしれないと考えられる。一部の物理学者は、世界の確率的な振る舞いの裏に、確固たる存在または性質すなわち「隠れた変数」が実在すると主張する。しかし物理学者の大半は、量子力学より根源的な理論は存在しないと考えている。実際、隠れた変数理論のうち大半はこれまで行われた実験の結果と両立しないことが示されている。

なお、初期には決定論的な信念が隠れた変数理論の支持者の主な動機だったが、量子力学の形式化の根底をなすはずの現実を説明しようとする非決定論的な理論も隠れた変数理論に含まれるようになった。例えばエドワード・ネルソン英語版の確率力学(stochastic mechanics)等。

EPRパラドックスとベルの定理

1935年アルベルト・アインシュタインボリス・ポドルスキーおよびネイサン・ローゼンらは、「物理的実在の量子力学的記述は完全とみなすことができるか?」という4ページの論文を書き、ある種の実在論的な観点から量子力学は不満足であるとした[2]。 この議論はEPRパラドックスと呼ばれ、隠れた変数理論を探す動機となった。

1964年にはジョン・スチュワート・ベルが有名なベルの定理により、実験と合う局所的な隠れた変数理論が存在するなら、ある種の実験で結果は必ずベルの不等式を満たすことを示した。一方、量子もつれが正しければベルの不等式は破られる。隠れた変数を否定する(no-go)定理には他にもコッヘン・シュペッカーの定理英語版がある。

アラン・アスペやポール・クヴィアト(Paul Kwiat)等の物理学者がベルの定理の検証実験を行っており、242シグマ信頼水準(極めて高い)で不等式の破れを報告している[3]。この結果は局所的な隠れた変数理論を否定したが、非局所的なものは否定されていない。また理論的には、実験結果の正当性に影響する抜け穴があった可能性もある(→en:Bell test loopholes)。

コッヘン=シュペッカーの定理

数学者のコッヘンとシュペッカーは、3以上の任意のヒルベルト空間において、相互に直交する一次元射影作用素からなる任意の集合について、その中の一つだけに射影作用素に1を与え、残りすべてに0を与える付与は存在しないことを数学的に証明し、量子力学の標準理論と一致する数式では全ての物理量に同時に確定した値を付与できないと論じた[4]

東克明は、コッヘンとシュペッカーの議論には説得力があるが抜け道がないわけではないとしている[4]


  1. ^ マックス・ボルンへの私信(1926年12月4日Albert Einstein Archives reel 8, item 180)
  2. ^ Einstein, A., Podolsky, B. and Rosen, N. (1935) Can Quantum-Mechanical Description of Physical Reality Be Considered Complete?, Phys. Rev. 47, 777-780
  3. ^ Kwiat, P. G.,et al. (1999) Ultrabright source of polarization-entangled photons, Physical Review A 60, R773-R776 (arXiv:quant-ph/9810003)
  4. ^ a b 白井仁人, 東克明,森田邦久,渡部鉄兵『量子という謎 量子力学の哲学入門』勁草書房2012年 ISBN 978-4-326-70075-2 p65-91
  5. ^ 「ド・ブロイ=ボーム理論が、大半の物理学者(少なくとも、それを聞いたことがある物理学者)に、そのはっきりとした非局所性ゆえに否定されることは、ある意味で皮肉だ。」("There is a certain irony here associated with the fact that most physicists (at least, among those who have even heard of it)reject the de Broglie - Bohm theory because it is explicitly non-local.")Travis Norsen, Comment on Experimental realization of Wheeler’s delayed-choice GedankenExperiment, arXiv:quant-ph/0611034
  6. ^ 't Hooft, G. (1999)Quantum Gravity as a Dissipative Deterministic System,Class. Quant. Grav. 16, 3263-3279 (arXiv:gr-qc/9903084)


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