隠れた変数理論 隠れた変数理論

隠れた変数理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/14 13:20 UTC 版)

隠れた変数理論

量子力学と矛盾しない隠れた変数理論は非局所的でなければならない。すなわち物理的に隔離された物体間の因果関係が瞬時にもしくは光速を超えて伝わるものとする。最初の隠れた変数理論は1920年代後半にルイ・ド・ブロイが提唱した。現在、隠れた変数理論うち最も有名なものは、非局所的なボーム力学で、物理学者・哲学者のデヴィッド・ボーム1952年に提唱したものだ。

ボームの理論は、ド・ブロイのアイデアに基づいており、電子などの量子力学的な粒子と、その動きを支配する隠れた「導波」の両方の存在を仮定する。よって電子は二重性を持たない純粋な粒子とされる。例えば二重スリット実験(→波と粒子の二重性)を行うと、電子は片方のスリットだけを通過する。しかしどちらのスリットを通過するかはランダムでなく導波に従って決められるために干渉パターンが観測される。

そのような観点は、古典的な原子論と相対性理論で共に使われている現象の局所性という概念とは反対に位置し、全体論的な観点(→en:Holism in science)、相互に絡み合い、影響し合う世界を描く観点を志向している。実際、晩年のボーム自身もジッドゥ・クリシュナムルティの影響の下、量子力学の全体論的な側面を強調した。ボームの解釈は物理学を東洋神秘主義意識と結び付けようとする議論の基礎にもなっている。

相対論との矛盾(単なる非局所性でなく、より重要なローレンツ不変性に関わるもの)は、多くの物理学者によりボーム力学の最大の欠点とみなされている[5]

またボーム力学の構成は作為的とも評されている。ボーム力学は意図的にあらゆる細部にわたって通常の量子力学と同じ予言をするように作られているためだ。ボームは通常の量子力学に取って代わる理論を真剣に目指していた訳ではなく、単に隠れた変数理論が不可能でないことを示そうとしただけだった。そしてそれが、現在の量子力学を超える新しい発想や実験につながることを期待していた。

最近になってゲラルド・トフーフトにより、さらに別種の決定論的な理論が提唱された[6]。この理論は、量子重力の統一理論を定式化するときに明らかになる問題が発端となっている。

しかし大半の物理学者は、宇宙の真の理論は隠れた変数理論ではなく、また粒子は量子力学的記述に現れる以外の情報は持っていないと信じている。前述したような量子力学の解釈も、それぞれ哲学的な問題点を抱えている。局所実在主義こそが正しく、そして量子力学は究極的には誤りだと考えている物理学者は極めて少ない。


  1. ^ マックス・ボルンへの私信(1926年12月4日Albert Einstein Archives reel 8, item 180)
  2. ^ Einstein, A., Podolsky, B. and Rosen, N. (1935) Can Quantum-Mechanical Description of Physical Reality Be Considered Complete?, Phys. Rev. 47, 777-780
  3. ^ Kwiat, P. G.,et al. (1999) Ultrabright source of polarization-entangled photons, Physical Review A 60, R773-R776 (arXiv:quant-ph/9810003)
  4. ^ a b 白井仁人, 東克明,森田邦久,渡部鉄兵『量子という謎 量子力学の哲学入門』勁草書房2012年 ISBN 978-4-326-70075-2 p65-91
  5. ^ 「ド・ブロイ=ボーム理論が、大半の物理学者(少なくとも、それを聞いたことがある物理学者)に、そのはっきりとした非局所性ゆえに否定されることは、ある意味で皮肉だ。」("There is a certain irony here associated with the fact that most physicists (at least, among those who have even heard of it)reject the de Broglie - Bohm theory because it is explicitly non-local.")Travis Norsen, Comment on Experimental realization of Wheeler’s delayed-choice GedankenExperiment, arXiv:quant-ph/0611034
  6. ^ 't Hooft, G. (1999)Quantum Gravity as a Dissipative Deterministic System,Class. Quant. Grav. 16, 3263-3279 (arXiv:gr-qc/9903084)


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