重力ポテンシャル 重力ポテンシャルの概要

重力ポテンシャル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/03 14:12 UTC 版)

均一な球体の周りの重力ポテンシャルの 2次元でスライスしプロットした図、変曲点は、球体の表面にある。

通常は無限遠を重力ポテンシャルの基準点(重力ポテンシャルが 0 となる点)として選ぶ。このとき、重力は常に引力として作用するため、有限の距離では重力ポテンシャルは負の値をとる。重力ポテンシャルは単位質量あたりのエネルギー(つまり速度の二乗)の次元を持ち、MKSA単位系では [J/kg] または [m2/s2] という単位の物理量として表される.

数学では、重力ポテンシャルはニュートンポテンシャル英語版とも呼ばれ、ポテンシャル論の研究において基本的である。

位置エネルギーと重力ポテンシャル

重力ポテンシャルとは単位質量あたりの位置エネルギーに等しいから、位置

xr とする。r は質量分布(灰色)の中に含まれ、微分された質量 dm(r) は点 r に位置するとする。

質量分布が3次元ユークリッド空間 上の連続的な分布 である場合には、上式の和は体積積分へと置き換えられる[3]

この関係式は、重力ポテンシャル は密度分布 ポアソン方程式

により結びついていることを意味する[9]。ここに ラプラシアンである。実際、上の の積分表示は、無限遠でポテンシャルが 0 であるという境界条件のもとでのこのポアソン方程式の解の グリーン関数を用いた積分表示に等しい[10]

球対称系

球対称な質量分布 のもとでは、重力ポテンシャル もやはり球対称性を持ち動径 だけの関数となる。このとき重力ポテンシャルに関するポアソン方程式は、ラプラシアンの球座標表示の公式により

と書き直せる。これはただちに積分できて、重力加速度 および重力ポテンシャル

と求まる[7]。ここに は動径 以内の質量

である。特に、この重力加速度 の表式は、原点 に質量 の質点が存在するときに生じる重力加速度に等しい[11]

半径 の一様密度 を持つ球の場合、重力ポテンシャル に関する積分を実行することができ

が得られる[12]

多重極展開

質量分布が有界な領域に限られるとき、その外部の真空領域での重力ポテンシャルは、球座標 を用いると多重極展開

という形に表すことができる[13][14]。ここに 球面調和関数であり、 は質量分布の多重極モーメント (ストークス係数)

である。0 次の多重極モーメント は系の全質量 に等しく、質量分布の重心を座標原点に選ぶとき である[13]から、多重極展開はニュートンポテンシャル に四重極モーメント などの高次モーメントによる補正を加えたものと解釈できる。実際、-重極モーメント ( は質量分布の典型的な半径) 程度の量であり、従って -重極モーメント によるニュートンポテンシャルに対する補正は 程度の量となる[14]

特に地球のように軸対称な系の場合、多重極モーメント のときゼロになり、重力ポテンシャルはルジャンドル多項式 を用いて

と書ける[15]


  1. ^ 重力ポテンシャル』 - 天文学辞典(日本天文学会
  2. ^ 「シリーズ現代の天文学13 天体の位置と運動」日本評論社, 2009. ISBN 978-4-535-60733-0. pp.100-102.
  3. ^ a b Binney & Tremaine, (2008). Galactic Dynamics (Second ed.). Princeton University Press. ISBN 978-0-691-13027-9. pp. 56-60.
  4. ^ 戸田 盛和, 「力学 (物理入門コース1)」, 岩波書店, 1982. ISBN 4-00-007641-8. pp. 71-74.
  5. ^ 戸田 盛和, 「力学 (物理入門コース1)」, 岩波書店, 1982. ISBN 4-00-007641-8. pp. 46.
  6. ^ 宇宙速度』 - 天文学辞典(日本天文学会
  7. ^ a b c Binney & Tremaine, (2008). Galactic Dynamics (Second ed.). Princeton University Press. ISBN 978-0-691-13027-9. pp. 62-63.
  8. ^ 篠本滋, 坂口英継「力学 (基幹講座物理学)」東京図書, 2013. ISBN 978-4-489-02163-3. pp. 77-79
  9. ^ 「シリーズ現代の天文学13 天体の位置と運動」日本評論社, 2009. ISBN 978-4-535-60733-0. pp.111-115.
  10. ^ 「シリーズ現代の天文学13 天体の位置と運動」日本評論社, 2009. ISBN 978-4-535-60733-0. pp.115-117.
  11. ^ 「シリーズ現代の天文学13 天体の位置と運動」日本評論社, 2009. ISBN 978-4-535-60733-0. pp.108-111.
  12. ^ Binney & Tremaine, (2008). Galactic Dynamics (Second ed.). Princeton University Press. ISBN 978-0-691-13027-9. pp. 63-65.
  13. ^ a b Binney & Tremaine, (2008). Galactic Dynamics (Second ed.). Princeton University Press. ISBN 978-0-691-13027-9. pp. 78-83.
  14. ^ a b 「シリーズ現代の天文学13 天体の位置と運動」日本評論社, 2009. ISBN 978-4-535-60733-0. pp.117-119.
  15. ^ 木下 宙「天体と軌道の力学」東京大学出版会, 1998. ISBN 978-4-13-060721-6. pp. 181-182.
  16. ^ 田中貴浩『深化する一般相対論 ブラックホール・重力波・宇宙論』丸善出版, 2017年. ISBN 978-4621302316. p. 40.
  17. ^ L.D.ランダウ, E.M.リフシッツ『場の古典論』東京図書〈理論物理学教程〉, 1978年. ISBN 4-489-01161-X. p.276-279,
  18. ^ Peter Schneider, Juergen Ehlers, Emilio E. Falco, Gravitational Lenses (Astronomy and Astrophysics Library), Springer, 2009. ISBN 978-3-540-66506-9. pp. 123.


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