赤外線写真 デジタルカメラ

赤外線写真

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/15 00:54 UTC 版)

デジタルカメラ

デジタルカメラで撮影した赤外線写真

デジタルカメラは、赤外線センサを利用してさまざまな調整を行っている。そのため赤外線写真を撮ろうとすると、ピントがずれたり(赤外線は可視光と合焦位置が違うため)、色を自動補正しようとしたりと、障害が多い。また、衣類によっては赤外線を通過するため、ビデオカメラでは赤外線撮影可能な機種が出荷中止になった例がある[8]。また、機種と撮影目的によっては、露光時間が30秒程度必要な場合もあるので、ノイズやぶれ無しで撮影することは非常に難しい(これを逆用して、被写体ブレを演出として使う場合もある)。

オリオン座の星雲「バーナードループ」・輝線スペクトルである656.3nmの赤色光が主であるが、通常の撮影ではこの波長は感度が低く、殆ど写らない。赤外線撮影では鮮明に撮影可能

以上のような問題の他、一般にデジタルカメラの固体撮像素子の前には、カラー撮影のためのカラーフィルタと、偽解像を防止するためのローパスフィルタがある。いずれも赤外線を阻止することは目的ではないが(波長的には、赤外線をカットするためのフィルタはハイパスフィルタになる)、実際のところかなり赤外線を減衰するため、これらを取り除くことが必要である。それらを取り除き、かわりに可視光を遮るフィルターを設けることで、赤外撮影用のカメラとなる。ライブビューモニタではなくビューファインダーの場合、あるいは一眼レフの場合には、そのように改造した後でも、ファインダー光学系には変更がないことから、通常どおりファインダーを使用し、普通のシャッター速度で三脚を使わないで撮影することも可能である。ただし赤外線と可視光線とに対する特性の違いにより、輝度などは不正確になることもある[9]し、一般に撮影された画像は「赤かぶり」を起こすようになる[注釈 1]。また、赤外線カットフィルターを取り除くとオートフォーカス機能が正常に働かなくなることもある。そもそもマニュアルフォーカスでも、一眼レフで可視光でフォーカシングして赤外撮影すればフォーカスは合わない。

他には、撮像素子がFoveon X3センサーのカメラを使う、という手もある。株式会社シグマSD10は赤外線カットフィルターとダストプロテクターを取り外して、濃赤または可視光線を完全に遮断するフィルターと交換可能である。Sigma SD14は、特殊なツールを使わずに赤外・紫外カットフィルターを着脱可能である。そのため、非常に高感度のデジタル赤外線カメラとして使用可能である。

晴天を背景としたニカウパーム (Nikau)、ヤシの木の一種)
屋外赤外線写真に特徴的なハイコントラストを示している。

ソニーのデジタルカメラの多くはナイトショット機能を備えており、赤外線ブロッキングフィルターを光路から外し、赤外線に対して高感度にすることができる。しかしナイトショット機能発表から間もなく、この機能は一部の衣類を透かして撮影してしまうことが分かり、ソニーによって機能が大きく制限されることになった[8]。このモードでは絞りは完全に開かれ、露出時間が1/30秒以上にしか設定ができない。この機能は減光フィルター(NDフィルター)を使用しているため、感度が下がり、露出時間が長いためブレやすくなる。

富士フイルムは、科学捜査医療用の赤外線デジタルカメラを生産している。デジタル一眼レフカメラとして最初のモデル「S3 PRO UVIR」[10][注釈 2]は赤外線だけでなく、紫外線に対する感度も高い(紫外線に高感度のセンサーを作る方が難しい)。紫外感度を最大限に生かすには専用のレンズが必要である。赤外線写真撮影であれば、普通のレンズでも可能である。2007年、富士フイルムはNikon D200とFujiFilm S5をベースにした新型の赤外線デジタルカメラ「IS Pro」を発表した。このカメラにはニコンの一眼レフカメラ用レンズ(Fマウントレンズ)を使用することが可能である。また、FujiFilm FinePix S9100の改良版として、非一眼レフの赤外線カメラ「IS-1」がある。IS-1には紫外線撮影機能は無い。他に、近赤外光の天体撮影を主な用途としてキヤノンから発売されたデジタル一眼レフカメラ、"EOS 20Da"が存在する。

人工衛星のセンサーやサーモグラフィーは、遠赤外線に対する感度が高く、前述の赤外線カメラとは目的が異なるが、似たような技術が利用されている。放射熱が映像に写るため、カメラやセンサー自身の温度を極低温に下げないと、これら機器自体からの放熱が熱雑音として写りこんでしまう。その為寒剤ペルチェ素子を用いて能動的に冷却を行っているものが多い。(→冷却CCDカメラ

デンマークフェーズワン社製のデジタルバックは、オプションで、赤外線写真撮影可能な仕様で注文できる。「P45+ IR model」は、39メガピクセルコントラスト16ビットであり、その能力は8x10赤外線フィルムに相当する[11]


注釈

  1. ^ レンズに赤外線カットフィルターを装着することにより、この問題はほぼ解決が可能である。
  2. ^ 同社のデジタル一眼レフカメラ「Finepix S3 PRO」の派生モデルである。
  3. ^ 灰色に見える。
  4. ^ 特に一般的なものはフッ化カルシウム(蛍石レンズ)やフッ化リチウムの結晶など。これらは複屈折性を持たないために光学系の設計が比較的容易である。赤外線分析機器では塩化ナトリウムヨウ化カリウムなどの窓材を使うこともある。さらに、可視光線をカットする光学ローパスフィルターとして金薄膜などを用いることがある。

出典

  1. ^ Chemistry of Photography”. 2006年11月28日閲覧。
  2. ^ Pioneers of Invisible Radiation Photography - Professor Robert Williams Wood”. 2006年11月28日閲覧。
  3. ^ Annual Report of the Director Bureau of Standards to the Secretary of Commerce for the Fiscal Year Ended June 30, 1919 U. S. Govt. Print. Off., United States National Bureau of Standards, 1919.
  4. ^ http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/service/film/index.shtml#3
  5. ^ http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/professional/products/films/film_list/blackWhitelist.shtml
  6. ^ http://wwwjp.kodak.com/JP/plugins/acrobat/ja/professional/products/films/eir/EIR.pdf
  7. ^ http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/professional/products/films/eir/index.shtml
  8. ^ a b "Ultra-Personal Sony Handycam" (Press release). Reuters wire service. 12 August 1998. 2007年2月9日閲覧
  9. ^ Digital Infrared at Jim Chen Photography
  10. ^ https://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/08/10/4403.html?ref=rss
  11. ^ Phase One P45+ IR”. 2008年7月2日閲覧。


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