赤外線写真 フィルムカメラでの撮影

赤外線写真

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/15 00:54 UTC 版)

フィルムカメラでの撮影

ミノルタMaxxum 4のフレームカウンタに現れた近赤外による黒い靄

近赤外線は可視光よりわずかに波長が長いだけなので、ほとんどのフィルムカメラで赤外線写真を撮影することができる。遠赤外線写真を撮影する場合には、サーモグラフィーという特殊な装置が必要となる。

工夫と努力を重ねれば、普通のフィルムカメラで赤外線写真を撮ることも可能である。ただし、1990年代に流行った135フィルム用のカメラにはパーフォレーションを赤外線センサで感知するものが多く、そのようなカメラで撮影するとフィルムの縁の部分が感光してしまうため赤外線撮影には不向きである。大抵は説明書でその旨が説明されている。パーフォレーションを歯車などで数えるカメラであれば、大抵は撮影が可能である。

白黒赤外フィルム

赤外線写真用の白黒ネガフィルムは、波長700〜900nmの近赤外領域の光への感度が高く、波長の短い青い光への感度も高い。コダックの高感度赤外白黒ネガフィルムであるハイスピードインフラレッド(HIE)などを用いた撮影では高輝度部でのハレーションが起こりやすいが、それは赤外線のみによるものではなく、HIEがアンチハレーション層をもたないために起こる。通常のフィルムにはアンチハレーション層が設けられており、高輝度部でのフィルム内散乱はその層に吸収されるためハレーションは起こりにくい。

フランク・ロイド・ライトのルーディンハウス(Rudin House) 左:パンクロマチック(全色感光)フィルム写真、右:赤外線写真

多くの白黒赤外線芸術写真は、青い可視光の露出を抑えるため、レンズの上にオレンジ(ラッテン番号 Wratten number) 15か21)、赤(23か25か29)、可視光遮蔽(72)のレンズフィルターを付けて、青色波長の光をさえぎって撮影されている。白黒赤外線写真を撮るときにフィルターを付けるのは、短い波長を遮って、赤外線だけを通すためである。

赤外線写真用白黒フィルムを使ってフィルターなしで撮影すると、画像のコントラストが青い光で付くため、通常の白黒フィルムで撮った画像とほとんど変わらなくなる。写真家の中には、オレンジや赤のフィルターを使うことでわずかに青い光を通過させて、写真に陰影を付けることもある。えんじ色(29)のフィルターを使うと青い光のほとんどを遮ることができ、不透明のフィルター(70, 89b, 87c, 72)を使うと青い光を完全に遮断して更には赤い光の一部も遮る。それらのフィルターを使うと、赤外線写真としてのコントラストがより鮮明になる。

コダック白黒用ハイスピードインフラレッドフィルム(HIE)のように赤外線に高感度のフィルムは、セーフライトによっても感光するものが多く、カメラへの装填・現像といった作業は全暗黒中で行う必要がある。[4]。赤外白黒フィルムは現像時間は異なるものの一般的な白黒フィルム用現像液(例えばD-76)で現像できる。コダックHIEはポリエステルフィルムベースなので、傷つきにくいけれども割れやすく、撮影時や現像時の取り扱いに注意が必要である。赤外線フィルムは一般に化学的にデリケートであるため、冷凍・冷蔵保存が推奨されている。

赤外線フィルム写真が難しい理由の一つは、赤外線に高感度のフィルムの入手が難しいことである。現在、コダックは売上不振を理由に、HIE赤外線35mmフィルムを販売中止している[5]。コダック以外では、エフケローライイルフォードといったメーカーから赤外線写真用白黒フィルムが販売されている。サイズも35mmだけでなく、120mmなどがある。ただし、コダックHIEとは感度を始めとする仕様が異なる。コダックHIEの販売停止により、750nm以上の波長に対する感度が良いフィルムは「エフケIR820」だけとなった。

カラー赤外フィルム

カラー赤外線写真の例

カラー赤外線写真用リバーサルフィルムは一般のカラーフィルム同様に感光層が3層に分かれているものの、近赤外線を赤として、赤を緑として、緑を青として表す。また、全ての層が青で感光してしまうので、撮影時には青い光を除くフィルター(つまり黄色いフィルター)を使用する。植物を写すと、葉が反射する光で健康度合いが分かる。波長変換により、不健康な葉はマゼンタ(桃色)に、健康な葉は赤く写る。初期のカラー赤外線フィルムは、従来のE4プロセス (E-4 process) で現像されていた。その後コダックは現在標準のE-6プロセス (E-6 process) が使えるフィルムを開発した(より綺麗に発色させるためにはAR-5プロセスで現像する必要がある[6])。ほとんどのカラー赤外線フィルムの取り扱いは完全な暗闇で行う必要は無く、赤外インデックスマークにあわせてピント再調整をする必要も無い。

2007年、コダックは需要の低迷を理由に、35mmカラー赤外線フィルム(エクタクロームプロフェッショナルインフラレッドフィルムEIR)の生産終了を発表した[7]。70mm航空写真用フィルムの生産は続けるとしている。

現在はデジタルカメラで赤外線写真を撮影することができるが、コダックカラー赤外線フィルムとは色の変換が異なるため、似た写真を撮影することはできない。


注釈

  1. ^ レンズに赤外線カットフィルターを装着することにより、この問題はほぼ解決が可能である。
  2. ^ 同社のデジタル一眼レフカメラ「Finepix S3 PRO」の派生モデルである。
  3. ^ 灰色に見える。
  4. ^ 特に一般的なものはフッ化カルシウム(蛍石レンズ)やフッ化リチウムの結晶など。これらは複屈折性を持たないために光学系の設計が比較的容易である。赤外線分析機器では塩化ナトリウムヨウ化カリウムなどの窓材を使うこともある。さらに、可視光線をカットする光学ローパスフィルターとして金薄膜などを用いることがある。

出典

  1. ^ Chemistry of Photography”. 2006年11月28日閲覧。
  2. ^ Pioneers of Invisible Radiation Photography - Professor Robert Williams Wood”. 2006年11月28日閲覧。
  3. ^ Annual Report of the Director Bureau of Standards to the Secretary of Commerce for the Fiscal Year Ended June 30, 1919 U. S. Govt. Print. Off., United States National Bureau of Standards, 1919.
  4. ^ http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/service/film/index.shtml#3
  5. ^ http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/professional/products/films/film_list/blackWhitelist.shtml
  6. ^ http://wwwjp.kodak.com/JP/plugins/acrobat/ja/professional/products/films/eir/EIR.pdf
  7. ^ http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/professional/products/films/eir/index.shtml
  8. ^ a b "Ultra-Personal Sony Handycam" (Press release). Reuters wire service. 12 August 1998. 2007年2月9日閲覧
  9. ^ Digital Infrared at Jim Chen Photography
  10. ^ https://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/08/10/4403.html?ref=rss
  11. ^ Phase One P45+ IR”. 2008年7月2日閲覧。


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