負の所得税 モデル

負の所得税

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/13 16:03 UTC 版)

モデル

負の所得税システムにおいて、ある所得レベルの人々は課税されない。また、そのレベルを上回る所得のある者は、そのレベルを超える所得の一定割を支払う。そして、そのレベルを下回る者は、不足分すなわち所得がそのレベルを下回っている額の一定割の給付を受ける(全額ではない)[2]

これを施行する提案として典型的なのは、定額給付金と(固定税率)の組み合わせである。納税額の計算式は「所得額 × 負の所得税率 - 基礎控除額」となる。たとえば、負の所得税率が25%で、政府の基礎控除額が1万ドルであるとする。

  • 年間所得が4万ドルの人は、納税額と給付額が同額となるため、納税しない。
  • 年間所得が100万ドルの人は、24万ドルを納税する。
  • 年間所得が4,000ドルの人は、9,000ドルが給付される。

動機

こうした税制は、政府の財政と、社会的目標である最低レベル所得保証を同時に達成する単一のシステムを施行することを動機とする。NITが施行されていれば、上記の社会目標が達成されているため、行政的には大した努力なしに最低賃金フードスタンプ公的扶助、社会保障プログラムといったものの必要性を排除できるかもしれず、しかも重複する援助プログラムのあるシステムに存在する落とし穴や逆インセンティブを避けられる。

最低賃金が、ある種の仕事を市場価格外に追いやる危険があるのに対し、NITは低賃金市場を混乱させない。

援助プログラムの蔓延(NITが置き換えようとするもの)は、逆インセンティブを提供しうる。所得レベルが増えれば援助が減って純所得上の損失を招くため、低賃金労働者が高い報酬の仕事を探す気がくじかれるということだ。これを(福祉の罠)という。NIT下における労働者は、少しでも稼げば常に一定の割合で儲かるので[3]、労働へのインセンティブが常に一定となる。

負の所得税は、課税と福祉のシステムを担う膨大な公務員を排除するため、行政上のオーバーヘッドを削減する[4]。こうした公務員の削減により節約されたリソースは、より生産的な活動に費やすことができる。

負の所得税はまた、自動安定化装置としての役割を直接的に果たすため、経済の(にわか景気と不景気の交代/バブルの生成と崩壊)サイクルに対して良い影響をもたらすことが期待されている。

批判

批判者が引き合いに出すような主な欠点は、ほぼ全ての所得ベース税制に見られるものだ。すなわち、不正行為を防止するにはそれなりの報告と監視が必要である、ということだ。他の懸念としては、納税者にとって不正行為の金銭的見返りが課せられる税の総額を上回りうるため、不正行為に手を染めるインセンティブがNITにおいては高まりうる、というものがある。批判者の主張によれば、不正取り締まりによる支出の増加が、現在の福祉サービスの解消による行政縮小分を上回ってしまうというのだ。

他の批判として、NITにおける受納者は失業時政府給付に等しい最低賃金を保証されるため、NITは労働へのインセンティブを減じうる、というものがある。1968年の合衆国で、労働のインセンティブへの影響を検証するための一連の研究が開始された。これらの研究が示したのは、最小限のディスインセンティブ(抑止力)が存在するが、給付金が伝統的福祉システムにより既に得られているのと同程度になるため、分析が困難ということである。こうした結果からは、既存のプログラムの強みをNITにより保持しつつ有意の抑止力は創造せず、しかも適用範囲を管理可能な人数に抑える、という明らかなジレンマが導かれる。[5]

  1. 「刺激誘引付所得保障」計画と呼ばれ、労働意欲・労働能力を欠いた状況下では刺激誘引の政策は有効的に作用するとはいえない。
  2. 所得申告を正確に把握することは酷く困難であり支給の前提となる環境構築は難しい。⇒公的扶助における差額支給は稼得所得に100%課税を行い最低保障水準を全額保証するというもので、これでは稼得所得を高めようという経済的誘因が消滅し、勤労意欲に決定的な悪影響を与る。(経済非効率の原因になる)さらに資力調査に行政の恣意性が関与し低所得者の福祉が損なわれる。
  3. 負の所得税は所得不足に基づく貧困だけに有効で他には効果がない。

以上3点はサムエルソンの経済学講義から抜粋した。


  1. ^ ミルトン・フリードマン 2008.
  2. ^ ミルトン・フリードマン 2008, p. 347.
  3. ^ ミルトン・フリードマン 2008, p. 348.
  4. ^ ミルトン・フリードマン 2008, p. 349.
  5. ^ Jodie T. Allen (2008年10月6日). “Negative Income Tax”. The Concise Encyclopedia of Economics. Library of Economics and Liberty. 2008年12月31日閲覧。
  6. ^ Friedman, Milton & Rose (1980). Free to Choose: A Personal Statement. Harcourt Trade Publishers. ISBN 9780156334600 
  7. ^ 池田信夫 (2009-10). 希望を捨てる勇気-停滞と成長の経済学. ダイヤモンド社. p. 180. ISBN 978-4-478-01192-8. OCLC 675481998. https://www.worldcat.org/oclc/675481998 






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