負の所得税 実施

負の所得税

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/13 16:03 UTC 版)

実施

この概念は、一部の人々の間では長くポピュラーだったが、その実施が政治的に可能なことはこれまでなかった。理由のひとつは、たいていの国における現行税法が非常に複雑でゆるぎない性質を持っているためである。どのようなNITシステムでも、これらを書き換える必要がある。とはいえ、一部の国では還付可能な(無駄にならないrefundable/non-wastable)、相殺すべき税負担がない場合にも支払われるタックスクレジットを導入しており、この例としては合衆国の勤労所得税額控除(ETIC)や、イギリスの勤労者タックスクレジットがある。

リチャード・ニクソン大統領治政下では、あるNITの案が議会を通過しそうになったことがある。当初フリードマンはこれに向けたロビー活動を精力的に行っていたが、このNIT案が現行システムを置き換えず、その追加となることになったため、フリードマンはそのために戦うことをやめた。

また、負の所得税は、公的扶助に比べ優れているとする声も多い。なぜなら公的扶助のように役所で給付を受けることに伴う恥じらいが無くなり、かつミーンズテストにかかるコストの大半が抑えられるからである。加えて負の所得税の場合、収入の低い人々にのみ給付を行うため、財源確保の観点ではベーシックインカムより実現の可能性が高い。しかしながら大きなデメリットが存在する。それは、負の所得税が労働意欲の減退につながる政策であるということだ。なぜなら、負の所得税はベーシックインカムと同様、一切就労しなくとも金銭を得ることが出来る制度であるためだ。上記の例の場合、勤労収入がゼロでも年90万の手取りがあるため、工夫すれば不自由なく生活を送ることができる。これにより、健康な人であっても、就労という選択肢を選ばない人が続出するかもしれない。この点を改善したのが次に述べる給付付き税額控除と呼ばれるものである。 池田信夫は「負の所得税は、その効率性が原因でどの国でも実施されていない。大量の官僚が職を失うからである」と指摘している[7]

1968年から1979年にかけて、負の所得税の最大の社会実験が合衆国で実施された。実験は次の4つである:

  1. ニュージャージーペンシルベニア両州の都市部、1968-1972(1300世帯)。
  2. アイオワノースカロライナ両州の農村部、1969-1973(800世帯)。
  3. インディアナ州ゲーリー、1971-1974(1800世帯)。
  4. シアトルおよびデンバー、1970-1978(4800世帯)。

  1. ^ ミルトン・フリードマン 2008.
  2. ^ ミルトン・フリードマン 2008, p. 347.
  3. ^ ミルトン・フリードマン 2008, p. 348.
  4. ^ ミルトン・フリードマン 2008, p. 349.
  5. ^ Jodie T. Allen (2008年10月6日). “Negative Income Tax”. The Concise Encyclopedia of Economics. Library of Economics and Liberty. 2008年12月31日閲覧。
  6. ^ Friedman, Milton & Rose (1980). Free to Choose: A Personal Statement. Harcourt Trade Publishers. ISBN 9780156334600 
  7. ^ 池田信夫 (2009-10). 希望を捨てる勇気-停滞と成長の経済学. ダイヤモンド社. p. 180. ISBN 978-4-478-01192-8. OCLC 675481998. https://www.worldcat.org/oclc/675481998 






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