結縄 西南アジア

結縄

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/13 15:51 UTC 版)

西南アジア

英領インドで1872年に国勢調査が行われた際、ジャールカンド州サンタル・パルガナ地区英語版サンタル英語版の首長は、男女と成人・子供の別に4色の糸を用いて人口を報告した[32]。南インドのコンド英語版の婚姻儀礼では、求婚者の手に結び目の付いた紐が与えられ、同様の紐が花嫁の家族のもとに保管される。結婚式の日取りは、毎朝この結び目をほどいていくことで調整される[33]

このことは、旧約聖書のエレミヤ書の次の記述とも関連するかもしれない。ヘブライ語で帯を意味するקִשֻּׁרִים‎(qishshurim)は、文字通り「結び目」や「結縄」も意味する[34]

おとめはその飾り物を忘れることができようか。花嫁はその帯を忘れることができようか。ところが、わたしの民の、わたしを忘れた日は数えがたい。[35]

ヨーロッパ

ラトビア、およびリトアニアのラトビア人コミュニティには、20世紀まで、暦や呪術的治療、招待状、そしてとりわけ民謡を記録する目的でメズグル・ラクスティmezglu raksti;「結び目の文字」)という結縄が用いられていた歴史がある[36]。民謡を記録した糸はヅィエスム・カムオルス(dziesmu kamols;「歌の毛糸玉」)と呼ばれ、500曲以上のラトビア民謡の中に登場する。結び目はラトビア語アルファベット英語版に対応しており、アルファベットとの対応関係や紐の組み合わせを異にする3種類の表記法が知られている[37]。また、ドイツでは19世紀末に、製粉業者がパン屋と取引する際に結縄を使用していた例がある[20]

アフリカ

租税や貸借に結縄を用いる習慣は、西アフリカ一帯、とくにナイジェリアラゴスの後背地に住むイェブ英語版の社会に認められる。ジャン=バティスト・ラバ英語版が1720年に黄金海岸(ガーナ)を訪れた記録では、上流階級の黒人はポルトガル語の読み書きができたが、大多数の下層階級は結縄を用いていた[38]

コンゴ周辺にも商取引や暦のための結縄を用いる部族が多い。コンゴ共和国テンボフランス語版社会にはラフィアヤシの繊維から編んだ縄を用いて求婚のメッセージをかわす習慣がある。アフリカ南部のモノモタパ王国では王が即位するごとに宮廷歴史家が結び目を1つ作る習わしがあり、1929年時点で35個の結び目があって、15世紀中葉にさかのぼる全ての王を区別することができた。ラーゲルクランツが1960年代に、アフリカにおける結縄文化の分布図を残している[39]


  1. ^ 壇辻 2001, p. 394.
  2. ^ 壇辻 2001, pp. 394–396.
  3. ^ 『易経』繫辞下伝
  4. ^ 『周易集解』巻15
  5. ^ 『老子』第80章
  6. ^ 布目 1996, pp. 90–93.
  7. ^ a b 布目 1996, p. 92.
  8. ^ 松平訳 1972, p. 68.
  9. ^ Gandz 1930, pp. 213–214.
  10. ^ Naveh & Shaked 2003, p. 111-112.
  11. ^ 宮田 2018, pp. 74–75.
  12. ^ 『民数記』15:37-39
  13. ^ 溝田 2008.
  14. ^ 壇辻 2001, pp. 394–395.
  15. ^ 池田 1952, p. 98.
  16. ^ 池田 1952, p. 101.
  17. ^ Wilford 2003.
  18. ^ Cossins 2018.
  19. ^ a b Radicati di Primeglio & Urton 2006, pp. 97–99.
  20. ^ a b c 宮田 2018, p. 74.
  21. ^ 壇辻 2001, p. 395.
  22. ^ 坂倉 1739, p. 410.
  23. ^ 最上 1808, p. 528.
  24. ^ a b 坪井 1891, p. 405.
  25. ^ 額田 1983, pp. 116–117.
  26. ^ 額田 1983, p. 13.
  27. ^ 高橋 2001, pp. 1122–1123.
  28. ^ 宮田 2018, pp. 19–21.
  29. ^ 中野 1981, pp. 2–5.
  30. ^ 長浜 1977, pp. 2–3.
  31. ^ 林 1986.
  32. ^ 長浜 1971, p. 2.
  33. ^ Gandz 1930, p. 204.
  34. ^ Gandz 1930, pp. 204–205.
  35. ^ 『エレミヤ書』2:32
  36. ^ Nastevičs 2016, p. 79.
  37. ^ Nastevičs 2016, p. 83.
  38. ^ Day 1957, p. 24.
  39. ^ Huylebrouk 2006, p. 149.
  40. ^ Jacobsen 1983, p. 55.
  41. ^ Jacobsen 1983, p. 56.
  42. ^ Day 1957, p. 14.
  43. ^ a b Brown 1924, p. 83.
  44. ^ Jacobsen 1983, pp. 54–55.
  45. ^ Day 1957, pp. 11–12.
  46. ^ Day 1957, pp. 12–13.
  47. ^ Knight 1835, pp. 517–518.
  48. ^ 筑波大学附属盲学校 2006.
  49. ^ Zarrelli 2017.





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