法言語学 法言語学の概要

法言語学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/16 05:40 UTC 版)

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用語

法科学(Forensic sciences)の諸分野において頭に付けられる「フォレンジック(“Forensic”)」(形容詞)は、ラテン語の“forēnsis”つまり「フォーラム(広場)の」に由来している[1]。ローマ帝国時代、「起訴」とは、ローマ市街の中心にあるフォロ・ロマーノで聴衆を前に訴状を公開することであった。被告と原告はともに自らの主張を行い、よりよい主張をしてより広く受け入れられたものが裁判において判決を下すことができた。この起源は、現代における“forensic”という語の2つの用法のもとになっている。一つ目は「法的に有効な」という意味、そして2つ目が「公開発表の」という意味の形容詞である。

概要

法科学の文脈・分野で働く言語学者にとっては、法言語学は主に3つの分野に分けられる[2]

  • 法律の条文解釈
  • 法科学と司法手続きの文脈における言語解釈
  • 言語学的証拠による立証

法言語学者とは多様であり、幅広い分野の専門家や研究者たちが関係している。

歴史

「法言語学(forensic linguistics)」という言葉が最初に使われたのは、1968年、言語学者のスヴァートヴィック(Jan Svartvik)教授がイギリスエヴァンス事件における自白調書に対し、コーパス分析を行った際に使用したのが初めとされる[3]。これは、1949年、殺人事件の犯人と疑われたでティモシー・ジョン・エヴァンスが、ノッティングヒル警察署における取り調べにおいて「自白供述」したとされる内容を再分析したものである。

エヴァンスは妻と子供を殺害した容疑で裁判にかけられ、絞首刑にされていた。しかし、スヴァートヴィック教授がエバンスの供述内容を研究した際、彼はその内容に異なる様式的な言語マーカーがあることを発見した。これはつまり、実際には裁判で述べられたような供述をエバンスが警察に対して行っていなかったことを示す[4]。この事件を契機にイギリスでは、初期の法言語学者たちによって、主に警察の尋問の有効性についての研究が進んだ。当時、数多くの有名な事件で見られたように、主要な懸念は警察官による供述調書に関するものであった。取り調べにおける供述を書き起こす際、警察官によって使用される言語スタイルと語彙については、その後幾度となく問題として挙げられることとなった[4]

米国においては、法言語学の分野の始まりはアーネスト・ミランダの1963年の事件と裁判(ミランダ対アリゾナ州事件)からとされる。この判決は「ミランダ警告」の創設につながり、法言語学者の対象は、警察における供述よりも、法廷における証人尋問の内容により焦点を当てるようになっていった。このミランダ警告創設の後、様々な事件によって、被疑者が自分の(ミランダ権利)とは何を意味しているのか真に理解した上で、自主的に取り調べに同意したのか、または取り調べに同意せず、強制的に尋問されたものなのか、という区別に繋がった[4]

イギリスでの法言語学の始まりは、主に刑事事件の弁護で、警察の自白調書に対し信憑性に疑問を呈する、というものだった。当時、警察では容疑者の発言を記録するための慣習的な手続きとして、容疑者自身の言葉ではなく、特定の形式に沿ったもので記録されるべき、とされていた。というのも、目撃者などによる発言は、推測交じりで、首尾一貫せず、秩序正しい様式で行われる訳でもないからである。また、そのような取り調べの供述においては、大抵そのペースが速すぎ、重要な詳細が省略されることもあった。

「法言語学」自体は、1927年という早い年代、ニューヨーク州での身代金事件で残されたメモにまで遡ることが出来る。「誘拐犯」から送られてきた身代金要求とされる文章には、被害者の名前のスペルが 「'McClure'」ではなく「'McLure'」となっており、正式な名前との違いを知っているもの、という分析が行われた[5]

当時のアメリカ合衆国における法言語学の仕事は、やはり尋問プロセスにおける、ミランダ権利を理解しているのか、という個人の権利に関係するものだった[4]。他には、言語における単語または句としての商標の地位に関連したものもあった。大きな事件の1つは、ファーストフード大手のマクドナルド(McDonald's)が「Mc」接頭辞(McWordsと呼ばれる)を普通の単語に添付するプロセスを生み出した、と主張し、エコノミーホテルチェーンが「McSleep」を出した際に[6]、それを争った事件がある。

1980年代には、オーストラリアの言語学者たちの間で、言語学と社会言語学を法的な問題へ応用する必要性を議論された[4]。というのも「同じ言語 」自体に解釈の開きがあるからである。例えば、アボリジニの人々は彼ら自身の「英語」の理解と使用方法を持つ。アボリジニの人々は、自身の文化に基づいた人間関係のスタイルをその内容にも適用するのである。

2000年代は、法言語学の分野でかなりの変化が起きた年代である。1993年には、国際法医学言語学会(IAFL)、2017年には、オーストリアの法的言語学協会(AALL)のような専門家協会が設立され[7]、今やそれらの学会や協会から科学界に向けて、Coulthard and Johnson(2007)、Gibbons(2003)、Olsson(2008)などのこの分野における 標準的なテキストが提供されることになった [8]

研究分野

法言語学のトピックは多様なの範囲に及ぶ。研究が行われている主な分野は次の通り。

法的文書の言語

法的文書における言語の研究は、広範囲の法医学的テキストを網羅しています[3]。例えば、国会や議会における立法行為、私的な遺言状、裁判所の判決および召喚状、ならびに州や政府部門などの他の機関の法令、ミランダ警告など、多様な文書の言語学の分析が含まれる[9]

法的手続きにおける言語

この分野では、特に法廷での反対尋問、証拠の提示、裁判官の指示、警察による警告、法廷での警察の証言、陪審員への要約、面接のテクニック、警察や法廷での尋問プロセスなどで話される言葉を扱う。


  1. ^ Shorter Oxford English Dictionary英語版 (6th ed.), Oxford University Press, (2007), ISBN 978-0-19-920687-2 
  2. ^ Centre for Forensic Linguistics”. Aston University. 2010年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年9月27日閲覧。
  3. ^ a b c d e John Olsson (2008), Forensic Linguistics, Second Edition.
  4. ^ a b c d e Olsson, John.
  5. ^ Associated Press.
  6. ^ Ayres, Jr, B. Drummond (22 July 1988). McDonald's, to Court: 'Mc' Is Ours. New York: The New York Times. https://www.nytimes.com/1988/07/22/us/mcdonald-s-to-court-mc-is-ours.html 2012年3月19日閲覧。. 
  7. ^ Austrian Association for Legal Linguistics. 2017.
  8. ^ Alison Johnson, Malcolm Coulthard. 2010.
  9. ^ PAVLENKO, ANETA (March 2008). “"I'm Very Not About the Law Part": Nonnative Speakers of English and the Miranda Warnings”. TESOL Quarterly 42 (1): 1-30. doi:10.1002/j.1545-7249.2008.tb00205.x. ISSN 0039-8322. https://doi.org/10.1002/j.1545-7249.2008.tb00205.x. 
  10. ^ ‘The Case Of: JonBenét Ramsey’: Investigator Says He and His Colleagues Will Name a Suspect”. Yahoo Entertainment. 2019年6月2日閲覧。
  11. ^ a b John Olsson (2004).
  12. ^ Investigating the use of forensic stylistic and stylometric techniques in the analysis of authorship on a publicly accessible social networking site (Facebook) (Thesis). http://uir.unisa.ac.za/bitstream/handle/10500/13324/dissertation_michell_cs.pdf?sequence=1 
  13. ^ C. Hardaker (2015).
  14. ^ tiersma. “forensic linguistics”. www.languageandlaw.org. 2019年6月2日閲覧。
  15. ^ Martin Fido (1994), The Chronicle of Crime: The infamous felons of modern history and their hideous crimes





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