母親 心理学上の母親

母親

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 00:20 UTC 版)

心理学上の母親

心理学者の河合隼雄は子育てにおける伝統的な父母の役割の違いを、それぞれを父性的、母性的と呼び、父性は善と悪を区別して指導する傾向、母性は善悪の分け隔てなくすべてを包み込む傾向のことと説明している。なお、これは、父親が父性のみを、母親が母性のみを有しているというものではなく、たとえば母親が激しく子を叱るときに父親が子を擁護する側に回るというような場合がよくあるが、この時、一時的に父親が母性的な役割を果たしているとみなすことができるとしている。

「働く女性」にとっての母親

に手をひいてもらいつつお祭りを楽しむ子供たち。(日本・2009年)

「女性 = 母性」ととらえ、経営者としての女性から「母性」を「万人に降り注ぐの力」だと積極的に認識することで仕事に活かそうという経営思想がある。男女の性差を、むしろ自然から与えられた素晴らしいものと考えることで、かえって社会で女性(=母性)の力を発揮できる、ということである。また家庭においては女性が自ら「子育ては100パーセント母親の責任」と考えることで、かえって父親のサポートの一つ一つを心から感謝することが出来、その結果として、結局「半分・半分の育児」を口で主張するよりも多くの父親のサポートを得られ、子供からの尊敬も受けられる、ということである。母性の重視は「働く女性」を否定するものでないのと同時に、また「働く女性」を家庭の家事や育児に専念する専業主婦よりも価値を高いと考えるものでもないのである[5]

母性の個人差

近年、少子化の影響もあり「女性は自らの生物学的『性』をもっと大切にせよ」というメッセージを積極的に発する著作も見られる[6]。一方、医学・動物学の観点からも、母性には他の本能と同様に個人差があり[7]、普遍的な母性の強調は、「『身体が発する声』に耳を傾けようと試みても、そんな声などいっこうに聞こえてこないという授乳経験の無いタイプの女性」や「妊娠・出産がさまざまな要因でかなわない女性」たちへの配慮に欠けるとする意見もある[8]

社会学上の議論

児童中心主義を唱えたスウェーデンの教育学者エレン・ケイに影響を受けた戦前世代のフェミニストの代表格である平塚らいてう山田わからは母性を重視し、国家による保護を主張。これに対し与謝野晶子は反発、母性保護論争が起こる。

1979年に採択され日本も1985年に批准した女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約は、「母性の保護」は差別とみなされず[9]、かつ妊娠又は母性休暇を理由とする解雇を制裁を科して禁止することを明記している[10]

母性には、字義どおりの意味のほかに、社会の中での女性の位置づけ(ジェンダー)や役割(ジェンダーロール)と密接に関連して、多岐にわたる文化的側面が付随する。例えば、三歳児神話などが根強く信じられており、働く女性に影響を与えている。子連れ出勤の是非が争われたアグネス論争がある。

なお、アメリカヨーロッパにおける母性観と、日本その他の国における母性観の文化的・歴史的な差異もあるので、一概に「母性」をひとくくりにして議論するのは極端な結果を招く恐れがあり、医学的・客観的な事実に基づいた議論を進めるために、医学と連携した研究の必要性が高まっているとしている[11]


  1. ^ デジタル大辞泉
  2. ^ 日本生理学会
  3. ^ 岡山大学医学部
  4. ^ 妊娠・育児大百科
  5. ^ 欠野アズ紗著『21世紀は母性の時代』(学習研究社
  6. ^ 例えば、三砂ちづるは『オニババ化する女たち』で「女性が仕事だなんだと独身のまま、出産もせずに子宮を"空き家"にしたままでいると、将来はホルモンのバランスが崩れてオニババになりますよ」と記述している。
  7. ^ 私たちの行動を決めるもの』第11章 学会出版センター
  8. ^ 香山リカ「いまどきの『常識』」
  9. ^ 女子差別撤廃条約、第4条第2項
  10. ^ 女子差別撤廃条約、第11条第2項(a)
  11. ^ 『ジェンダーを科学する』松本伊瑳子・金井篤子編)
  12. ^ 予算案から「母親」が消え「出産する人」と書き換え 米の“言葉狩り””. FNN (2021年6月14日). 2021年6月14日閲覧。






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