時間周波数解析 用途

時間周波数解析

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/01 07:42 UTC 版)

用途

以下の用途のためには時間周波数分布関数だけでなく、信号に対するなんらかの処理が必要となる。線形正準変換英語版(LCT)は実に有用で、これにより時間周波数平面上の信号形を望みのとおりのどんな形状にも変換することが可能である。たとえば、任意の位置へ移動したり、時間周波数平面上の面積を保ったまま縦もしくは横に伸ばしたり、傾けたり[訳語疑問点]、回転したり(分数次フーリエ変換)することができる。

瞬時周波数推定

瞬時周波数英語版とは位相の時間変化率であり、定義式は以下のように書ける。

このようなフィルタリング手法は時間ドメインおよび周波数ドメインで重なり合う信号に対してはうまくいかない。時間周波数分布関数を用いることにより、ユークリッド的時間周波数ドメインについて、もしくは分数次フーリエ変換により分数次ドメインについてフィルタを適用することができる。以下に例を示す。

時間周波数解析におけるフィルタの設計は常に複数成分からなる複数の信号を扱うことになる。したがって、交叉項のあるウィグナー関数を用いることはできず、ガボール変換、ガボール・ウィグナー分布関数もしくはCohenクラス分布関数などを使うことができる。

信号分解の概念はある信号の1成分を他の成分から分離する必要性と関連し、これは適切に設計されたフィルタを適用することにより達成できる。このようなフィルタとして、時間ドメインもしくは周波数ドメインのどちらかに対して作用するものは従来から用いられてきた。しかし、このようなフィルタは時間ドメインと周波数ドメインの両方で重なり合う複数の成分からなる非定常信号の場合には適用できず、時間周波数フィルタを用いる必要がある。

標本化定理

ナイキスト・シャノンの標本化定理により、エイリアスを生じさせないために必要な標本点の数は、信号の時間周波数分布の面積と等しいことが言える(これは実際には近似である。任意の信号の時間周波数面積は実際には無限大である)。標本化定理を時間周波数分布と組み合わせる前と後についての例を以下に示す。

時間周波数分布を適用すると標本点の数が減ることは特筆に価する。

ウィグナー分布関数を用いた場合、交叉項(干渉とも)の問題がありうる。一方、ガボール変換を用いた場合表現の鮮明さと可読性が向上し、したがって信号の解釈および実践的問題への応用可能性も向上する。

結果として、単一成分から成る信号を標本化する場合にはウィグナー分布関数が用いられ、複数の成分から成る信号に対してはガボール変換やガボール・ウィグナー分布関数などの干渉が抑えられる時間周波数分布が用いられる。

バリアン・ロウの定理英語版はこのことを定式化しており、必要最低限の時間周波数標本数を与える。

変調および多重化

従来的には、変調および多重化の操作は時間もしくは周波数それぞれに集中していた。時間周波数分布を活用し、時間周波数平面の隙間を埋めることにより変調および多重化をより効率的に行うことができる。以下に例を示す。

上の例のとおり、ウィグナー分布関数は交叉項の問題が著しく、この用途には適さない。

電磁波の伝播

電磁波は2×1行列の形に表わすことができる。

これは時間周波数平面と似ている。自由空間を伝播する電磁波にはフレネル回折が起こる。これは2×1行列

にパラメータ行列

(ここで z は伝播距離を、λ は波長を表わす)のLCTを作用させることで表現できる。電磁波が球面レンズ通過もしくは円盤により反射されるとき、パラメータ行列はそれぞれ以下のようになる。

ここで f はレンズの焦点距離を、R は円盤の半径を表わす。その結果は以下のような形式で得られる。

光学・音響学・生体医学

は電磁波の一種であり、電磁波の伝播と同じように光学にも時間周波数解析を適用することができる。同様に、時間によって非常に大きく周波数を変える音響信号にもよく時間周波数解析が用いられる。音響信号には通常たくさんのデータが含まれており、その解析には計算複雑度の低いガボール変換などの比較的単純な時間周波数分布が適している。速度が求められない場合は時間周波数分布を選ぶ前に基準を確立する必要がある。別のアプローチとして、そのデータに適合する信号依存の時間周波数分布を定義する方法もある[6]。生体医学の分野では、筋電計信号、脳波心電図耳音響放射の解析に時間周波数分布を用いることができる。


  1. ^ Cohen, Leon (1995). Time-frequency analysis. Englewood Cliffs, N.J: Prentice Hall PTR. ISBN 0-13-594532-1. OCLC 31516509. https://www.worldcat.org/oclc/31516509 
  2. ^ Sejdić, Ervin; Djurović, Igor; Jiang, Jin (2009-01-01). “Time–frequency feature representation using energy concentration: An overview of recent advances” (英語). Digital Signal Processing 19 (1): 153–183. doi:10.1016/j.dsp.2007.12.004. ISSN 1051-2004. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S105120040800002X. 
  3. ^ Flandrin, Patrick (1999). Time-frequency/time scale analysis. San Diego: Academic Press. ISBN 978-0-12-259870-8. OCLC 162128796. https://www.worldcat.org/oclc/162128796 
  4. ^ Shafi, Imran; Ahmad, Jamil; Shah, Syed Ismail; Kashif, F. M. (2009-06-09). “Techniques to Obtain Good Resolution and Concentrated Time-Frequency Distributions: A Review” (英語). EURASIP Journal on Advances in Signal Processing 2009 (1): 673539. doi:10.1155/2009/673539. ISSN 1687-6180. 
  5. ^ Applications in Time-Frequency Signal Processing | Taylor & Francis Group” (英語). Taylor & Francis. doi:10.1201/9781315220017. 2021年2月23日閲覧。
  6. ^ Baraniuk, R. G.; Jones, D. L. (1993-04). “A signal-dependent time-frequency representation: optimal kernel design”. IEEE Transactions on Signal Processing 41 (4): 1589–1602. doi:10.1109/78.212733. ISSN 1941-0476. https://ieeexplore.ieee.org/document/212733/. 


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