日本共産党幹部宅盗聴事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/27 07:30 UTC 版)
公務員職権濫用罪への該当性
1987年8月緒方は、東京地検が上記の行為について不起訴に対し東京地裁に付審判請求を行ったが東京地裁、東京高裁も緒方の請求を棄却した。これを受けて、緒方は最高裁に特別抗告したが、本件における警察官の盗聴行為が公務員職権濫用罪にあたらないとして抗告を棄却した。
職権濫用罪でいう「職権」は公務員の一般的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限をいい、同罪が成立するためには公務員の不法な行為が右の性質をもつ職務権限を濫用して行われたことを要するものというべきである。すなわち、公務員の不法な行為が職務としてなされたとしても、職権を濫用して行われていないときは同罪が成立する余地はなく、その反面、公務員の不法な行為が職務とかかわりなくなされたとしても、職権を濫用して行われたときには同罪が成立することがあるのである。
本件では、警察官の職務としては行われているが、被疑者らは盗聴行為の全般を通じて終始何人に対しても警察官による行為でないことを装う行動をとっていたというのであるから、そこに、警察官に認められている職権の濫用があったとみることはできないとして、警察官の行為が職権濫用罪に該当しないとして、緒方の付審判請求を退けた。
なお、現在では、同様の行為を行った場合、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律30条1項(当時は未制定)に違反する行為であり、同項に違反する行為は3項により付審判請求の対象なので、本件のような事例の場合は付審判請求が認容される可能性がある。
影響
- それまで秘密とされていた公安警察の活動が世間の注目を浴びた。
- 捜査を担当した横浜地方検察庁は神奈川県警察から逆恨みされて捜査から撤退せざるを得ず、目付役としての力を完全に失った。東京地方検察庁は不起訴処分の決定で世論の厳しい批判を受けた。地検は同時期行っていた福岡県京都郡苅田町における住民税流用事件の捜査も頓挫し、“検察も警察には勝てない”と蔑まれ信頼は地に落ちた。この点については、時の検事総長伊藤栄樹が、回想録『秋霜烈日』の中で、おとぎ話としながらも、「検察は警察に勝てるか。どうも必ず勝てるとはいえなさそうだ。勝てたとしても、双方に大きなしこりが残り、治安維持上困った事態になるおそれがある。それでは、警察のトップに説いてみよう。目的のいかんを問わず、警察活動に違法な手段をとることは、すべきではないと思わないか。どうしてもそういう手段をとる必要があるのなら、それを可能にする法律をつくったらよかろう、と。」と述懐している。
- 刑法の公務員職権濫用罪の解釈が論議を呼ぶことになった。最高裁は盗聴者が「何人に対しても警察官による行為でないことを装う行動をとっていた」として同罪は成立しないとしたが、これに対しては「警察官である事をわざわざ名乗っての不法な諜報活動など誰もしないであろう、そんな事をしたらスパイ活動など成り立たない」と反論も多い。
- 緒方らの代理人弁護士は横浜法律事務所から派遣された。オウム真理教が引き起こした坂本堤弁護士一家殺害事件(当初は失踪事件)で神奈川県警察は事件性を否定する立場をとり続けたのは、坂本堤が横浜法律事務所に属していたためとされた。
- 1999年に「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」が成立した。
脚注
- ^ 東京地方裁判所 昭和63年(ワ)12066号 判決
- ^
- 日本共産党幹部宅盗聴事件の事実認定と責任所在などに関する質問主意書
- 日本共産党幹部宅盗聴事件の事実認定と責任所在などに関する再質問主意書
- 日本共産党幹部宅盗聴事件の事実認定と責任所在などに関する第三回質問主意書
- 1 日本共産党幹部宅盗聴事件とは
- 2 日本共産党幹部宅盗聴事件の概要
- 3 公務員職権濫用罪への該当性
- 4 関連項目
固有名詞の分類
- 日本共産党幹部宅盗聴事件のページへのリンク