戦史叢書 問題点

戦史叢書

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/18 04:52 UTC 版)

問題点

叢書の問題点としては『歴史学研究』1977年12月号での藤原彰による書評や、「戦史部における戦史研究のあり方」などで下記が指摘されている[21]

ただし、外国語訳やデジタル化については別項で詳述する。

内容にかかわるもの

「戦史部における戦史研究のあり方」では下記が指摘された。

  1. 学術的研究ではなく、概説史に近い。
  2. 旧軍関係者による執筆であり、身内による作成と言う性格を免れない。
  3. 執筆者の位階は参謀職にあった者が多く、「参謀史観」「参謀の視点でしか戦争を見ていない」という批判がある。
  4. 旧陸海軍の対立を戦史部まで引きずり、2軍を統一した戦史として刊行できなかった[22]。特に「開戦経緯」にはその影響が大きい。
  5. 対抗戦史の研究が作戦に偏重しており、戦略レベルの分析が不足している。
  6. 名目上は上述のように、自衛隊の教育に資する旨が謳われているが、実際には上記の欠陥により機能不全となっている点がある。

ただし、原剛は戦後の研究蓄積が無いところで克服するだけの能力は無く、戦史叢書のようなものを作成する以外、当時の情勢では不可能だった旨の反論も行っている[7]。また、戦前も含めて日本では軍以外の部門で戦史研究の蓄積がある組織はさほど無く、執筆元である防衛研究所が唯一のナショナルセンターにならざるを得ないという事情も指摘されている[8]

藤原彰は刊行が続いていた当時から上述の作戦本位の点などを指摘していたが、更に下記の点を指摘している。

  1. 作戦本位となった結果として後方・補給の記述が少ない[23]
  2. 作戦を担った司令部内の記述に偏重している上、司令部内でも参謀部に脚光を当てている[24]
  3. 戦争が国民生活に与えた影響や意味について記述されていない[25]
  4. 形式的には旧軍と関係の無い機関が編纂したにもかかわらず、旧軍戦史に見られた「勝利をたたえ戦功をほこっている」書き方を踏襲している[26]
  5. 住民を巻き込んだ戦闘について言及が殆ど無い[27]

編纂技術にかかわるもの

他に、編纂技術上の問題点として藤原は下記を挙げている[28]

  1. 構成上の問題として、作戦単位の記述でかつ、陸海軍別立てで記述した結果、同じ中央の作戦計画や陸海軍協定に関する記述が繰り返し表れる。
  2. 脚注が巻末に一括して史料名を列記する方式となっており、資料の性格、引用箇所を明記していない(91巻は例外と明記)[29]
  3. 出典も「○○のメモ」、「○○の回想」或いは単なる書名、といった表現で列挙されているため、本書を手がかりに文献調査をする際不便である
  4. 引用史料に対して史料批判をしていない
  5. 引用が要約形式となっており、本来の形式が不明なものがある

  1. ^ 宗像和広『戦記が語る日本陸軍』 p15
  2. ^ 『歴史学研究』1977年12月号P52、57
  3. ^ 「戦史部における戦史研究のあり方」P93
  4. ^ 福重博「「戦史叢書」編さん当時の思い出」P83-84
  5. ^ 「戦史部における戦史研究のあり方」P92
  6. ^ a b 福重博「「戦史叢書」編さん当時の思い出」P84
  7. ^ a b c 「戦史部における戦史研究のあり方」P75
  8. ^ a b 「戦史部における戦史研究のあり方」P78
  9. ^ a b 加賀谷貞司「「戦史叢書」刊行30 周年に寄せて」
  10. ^ 近藤新治(土門周平)「戦史部の回想」
  11. ^ 4 プロジェクト検討について(1)国際紛争史プロジェクト。『戦史研究年報 第13号(2010年3月)』P137-138
  12. ^ 「戦史部における戦史研究のあり方」P73
    ただし自衛隊幹部の教育および研究の基礎資料に役立てるため、朝鮮戦争ベトナム戦争中東戦争は戦史が作成されている旨も座談会で指摘されている。
  13. ^ 「戦史部における戦史研究のあり方」P65
  14. ^ 波多野澄雄「市ヶ谷台の戦史部と戦史叢書」
  15. ^ a b 「「戦史叢書」全面改訂へ、新事実盛り電子版も」『読売新聞』2003年8月12日15時31分配信
  16. ^ 「3 平成21年度戦史史料編さんについて(3)戦史叢書のデジタル化」『戦史研究年報 第13号』(2010年3月)P137
  17. ^ 戸部良一 「「戦史叢書」との出会い」『戦史研究年報 第13号』(2010年3月)P102
  18. ^ 戸部良一 「「戦史叢書」との出会い」『戦史研究年報 第13号』(2010年3月)P101-102
  19. ^ Japanese army operations in the South Pacific Area 豪日研究プロジェクトウェブサイト
  20. ^ http://www.cortsstichtingen.nl/en/projects/senshi-sosho
  21. ^ 「戦史部における戦史研究のあり方」P74-75、82
  22. ^ 福重博も審議過程で事実の削除訂正があり、執筆者として納得できない点があった旨を指摘している
    福重博「「戦史叢書」編さん当時の思い出」P84
  23. ^ 藤原は『海上護衛戦』を例に同名の大井篤の書籍の方が記述が「詳しく取り上げている」と述べている。
    『歴史学研究』1977年12月P52
  24. ^ 藤原は兵器、経理、軍医の各部は「その存在すら忘れられているほど記述されていない」としている
  25. ^ 藤原は具体的例として、総力戦へ向かう各過程での動員数や、兵役法、その施行規則への言及、徴集の実態などが取り上げられていないことを挙げている
    『歴史学研究』1977年12月P53
  26. ^ 藤原は具体例として「壮烈」「果敢」「白刃」「肉弾」等の表現を「戦時中の報告か新聞記事と見間違えるほど」と述べている。ただし、執筆者が原資料の記述に引きずられた可能性や、自衛隊教育と言う性格にも言及しており、また、藤原は書評の冒頭で旧軍の戦史に比べて無味乾燥さや形式主義が後退し、多面的で具体的な事実を記述している旨を評価していることを付記しておく。
    『歴史学研究』1977年12月P51-P52
  27. ^ 藤原は『沖縄方面陸軍作戦』について、「一般島民の軍への協力」という項に8行しか充てておらず、被害数字には何ら言及がないことや、『本土防空作戦』でも空襲被害を経済安定本部内務省の統計を挙げただけで済ませたことを例示している。
  28. ^ 『歴史学研究』1977年12月P53
  29. ^ 『歴史学研究』1977年12月号刊行当時に刊行されていた分が対象であり、当時刊行準備中であった補備6巻は含まれていない。記事中には96巻だけが列挙されている。


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