必須脂肪酸 必要摂取量

必須脂肪酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/25 03:33 UTC 版)

必要摂取量

必須脂肪酸 1日摂取量 [6]
脂肪酸 ISSFAL 2004 日本 2015 [7] USA 2005 [8]
ω-6脂肪酸 ♂合計 8-11 g
♀合計 7-9 g
リノール酸 4-5 g ♂ 14-17 g
♀ 11-12 g
ω-3脂肪酸 ♂合計 2.0-2.4 g
♀合計 1.6-1.9 g
α-リノレン酸 2 g ♂ 1.6 g
♀ 1.1 g
EPA / DHA 0.5 g
以上推奨

必要とされる必須脂肪酸は、以下のように全カロリーの3~4%程度と非常に少ない。2004年の国際的に脂質を評価しているISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)[9][要検証]によれば、必須脂肪酸の1日あたりの摂取量は、リノール酸の適正な摂取量は全カロリーの2%(4-5g)、α-リノレン酸の健康的な摂取量は0.7%(2g)、冠動脈の健康のためにEPAとDHAを合計で最低500mgとしている[10]

同じように1999年の日本の摂取基準中の説明でも言及があり、必要量はリノール酸は2.4%、α-リノレン酸は0.5~1.0%であり、DHAとEPAは必要量は決められないが0.5%をすすめISSFALの報告より少し多い[11]。まったく同じ量で理由に言及しており、2000年の『脂質研究の最新情報』では、動物実験から欠乏症を予防するにはリノール酸を総エネルギーの2.4%、最大組織レベルが維持されるためのαリノレン酸の量は0.5-1%としており、EPAとDHAに関しては菜食主義者もいるため必要量は決められないがαリノレン酸からの変換が十分でない場合を考えると、併せて0.5%程度の摂取が推奨される[12]

2003年の世界保健機関の目標とする範囲は、ω-6脂肪酸を5-8%、ω-3脂肪酸を1-2%である[13]

ヒトではαリノレン酸からEPAやDHAへの変換量には、まず性差があり女性の方が明らかに多い[2]。EPAへの変換率は8-20%で女性の方が2.5倍大きく、DHAでは男性0.5%-4%、女性約9%である[2]。妊娠期にはより簡単に合成できるという仮説も存在する[2]。完全な菜食主義者はαリノレン酸から体内で合成されるEPA、DHAは血清中の濃度が低いが、よりきわめて重要なDHA量を反映する赤血球中では比較的多く、想定よりもリスクが低いことが報告されている[14]

バランス

ω-6系の摂取が増えるとアラキドン酸の合成が増加するが、これは炎症作用と血液凝固作用などがあり、ω-3系ではαリノレン酸の摂取が増えるとDHAが増加し、この系統の脂肪酸には抗炎症作用などがある[2]。α-リノレン酸とリノール酸の変換は同じ酵素によって代謝されるために競合する[2]。従って、ω-3に対するω-6の比率が増加すると、心血管系疾患、骨粗しょう症、炎症、自己免疫疾患などの様々な病気の発症率が上がる[2]

日本人のリノール酸摂取量は平均して13-15g/日で過剰にω-6脂肪酸を摂取しており、ω-6脂肪酸由来の過剰な生理活性物質の産生を防ぐために、代表的なω-6脂肪酸であるリノール酸摂取量を7-8g/日に制限すべきとの意見もある[5]

バランスに対する食事要因

21世紀初頭のアメリカの平均的な食事では、ω-6対ω-3の比率は10:1であり、ω-6が高い傾向が悪化してきた[15]。これは20世紀よりの植物油の普及とω-3脂肪酸の少ない種類の植物油の消費や、19世紀に畜産産業の技術が進展した結果、放牧は減り餌はトウモロコシへと変わって、家畜の肥満も促され飽和脂肪酸が多くω-3脂肪酸の少ない家畜動物が飼育され、これを人々が食してきたことによる[15]。日本ではω-3脂肪酸の豊富な海産物が多く消費されているため、海外諸国に比べれば日本の食品中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は高いと推定される。

食事中の比率は、日本の成人では1:4、アメリカでは1:8の比率[16]、日本の妊婦では1:3となっている[17]


  1. ^ a b c d e f g h i j k l Knauf PA, Proverbio F, Hoffman JF (1974). “Chemical characterization and pronase susceptibility of the Na:K pump-associated phosphoprotein of human red blood cells”. J. Gen. Physiol. 63 (3): 305–23. doi:10.1194/jlr.R055095. PMC 2203555. PMID 4274059. http://www.jlr.org/content/56/1/11.full. 
  2. ^ a b c d e f g Stark AH, Crawford MA, Reifen R (2008). “Update on alpha-linolenic acid”. Nutr. Rev. 66 (6): 326–32. doi:10.1111/j.1753-4887.2008.00040.x. PMID 18522621. 
  3. ^ World Health Organization, Food and Agriculture Organization of the United Nations, "Fats and oils in human nutrition", 1994.
  4. ^ 木村修一、「脂肪酸の不飽和化と鎖長延長」『油化学』 1971年 20巻 10号 p.670-677, doi:10.5650/jos1956.20.670, NAID 130001020785, 日本油化学会
  5. ^ a b I章 最新の脂質栄養を理解するための基礎 ― ω(オメガ)バランスとは?脂質栄養学の新方向とトピックス
  6. ^ その他にはLabelling reference intake values for n-3 and n-6 polyunsaturated fatty acids, EFSAにも欧州各国団体の推奨値が記載されている。
  7. ^ 日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要
  8. ^ DIETARY REFERENCE INTAKESFOREnergy, Carbohydrate, Fiber, Fat, Fatty Acids, Cholesterol, Protein, and Amino Acids
  9. ^ ISSFAL (英語) (ISSFAL: International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)
  10. ^ Cunnane S, Drevon CA, Harris W, et al. "Recommendations for intakes of polyunsaturated fatty acids in healthy adults" ISSFAL Newsletter 11(2), 2004, pp12-25
  11. ^ 『第六次改定 日本人の栄養所要量―食事摂取基準』健康・栄養情報研究会編、第一出版、1999年。ISBN 9784804108940。53-54頁。
  12. ^ 板倉弘重、石川俊次、近藤和雄、菅野道広、池田郁男『脂質研究の最新情報』第一出版、2000年、12-13頁。ISBN 4-8041-0923-4 
  13. ^ Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases, 2003
  14. ^ 代表研究者香川靖雄 ベジタリアンの脂肪酸不飽和化酵素遺伝子多型による脂質栄養の解析(科学研究費助成データベース)
  15. ^ a b Cordain L, Eaton SB, Sebastian A, et al. (2005). “Origins and evolution of the Western diet: health implications for the 21st century”. Am. J. Clin. Nutr. 81 (2): 341–54. PMID 15699220. http://ajcn.nutrition.org/content/81/2/341.long. 
  16. ^ 奥山治美「食物が脳の働きに影響を与えるか?:必須脂肪酸の驚くべき役割」『蛋白質核酸酵素』第35巻第3号、東京 : 共立出版、1990年3月、275-279頁、CRID 1523669555058289408ISSN 00399450国立国会図書館書誌ID:3658388 
  17. ^ 前田隆子, 高山美佐子, 三瓶まり, 笠置綱清, 田中俊行, 岩井伸夫, 能勢隆之, KasagiTsunakiyo「妊産婦の血清中脂肪酸と母乳中脂肪酸組成に関する研究 : とくに、エイコサペンタエン酸に関する検討」『鳥取大学医療技術短期大学部紀要』第25巻、鳥取大学医療技術短期大学部、1996年7月、15-24頁、CRID 1050015354551432704ISSN 09168761 
  18. ^ USDA National Nutrient Database
  19. ^ Chapman, David J.; De-Felice, John and Barber, James (May 1983). “Growth Temperature Effects on Thylakoid Membrane Lipid and Protein Content of Pea Chloroplasts 1”. Plant Physiol 72(1): 225–228. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?artid=1066200 2007年1月15日閲覧。. 






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