庶民院 (イギリス)
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議院組織
役員
議長
議長は「スピーカー」(Speaker of the House)と呼ばれる。議事運営のほとんどを司り、金銭法案の認定権を握るなど、権限は大きいが、中立公平を貫き先例に従って慎重に行使するべきとされている。
政府と野党の中立公平を守るために、大臣経験者ではなくあまり政府に関わりの無かった重鎮議員が好まれる。任期は庶民院解散までであるが、総選挙後の新議会でも希望する限りは全会一致で再度選出される習わしである。したがって政権が交代したとしても議長は交代せず、また政府与党と議長の出身政党は必ずしも一致しない。総選挙の際には議長の選挙区には対立党(主に保守、労働、自由民主の主要政党)は候補を出さないなどの配慮がなされる。地域政党やミニ政党が議長の選挙区に対抗馬を立てることはあり、選挙戦が行われる事はある。
議長の引退や死去によって新たな議長を選出する際には、従来は二大政党からそれぞれ一人ずつ候補が出され、両名のうちから記名投票で選出していた。しかし2000年の選挙では与野党とも党内での候補者の絞り込みが行われず、13名の候補者(そのうち1名辞退)が出馬した。その際、従来の方法に習ったため、2名の候補者から1名を選ぶ投票を11度繰り返し、他のすべての候補に勝利したマイケル・マーティンが最終的に選出された。翌年に制度が改正され、2009年の選挙は、全候補者を対象とする無記名投票を行い、過半数を獲得する候補が現れるまで、得票最少の候補と得票率5%未満の候補を除いて投票を繰り返す方法で行われた。出馬には12名以上の議員の推薦が必要であるが、そのうち3名以上は候補者と異なる政党に属していなければならない。また複数候補への推薦かけもちは認められない。
かつては法服とかつらをまとう慣行があったが、1992年に女性として初の議長となったベティ・ブースロイドがかつらの使用をとりやめ、後継の男性議長らもかつらを着用していない。またマーティン以降は服装も簡略化されている。
新しい議長が選出された際には、複数の議員に強引に手を引かれて壇上の議長席へ向かう慣例がある[11]。これはかつて、国王を恐れず議会の意思を述べた議長が投獄されたり、国王に配慮を見せた議長が怒った議員に拉致されたりするなど、受難の歴史が多々あり、新議長は身を守るため辞退を申し出て、それでも無理やり議長席に連れていった時代があったからである。議長の身の危険がなくなってからも、慣例として当時の様子が演じられる[12]。
副議長
副議長の定員は3名で、歳入委員長と歳入副委員長を兼務する。副議長は、本会議の議事宰領を議長と交代で担当する。また本会議場で行われる全院委員会は副議長のみが担当する。議長同様に不偏不党の立場で職務に臨むが、議長と異なり議会選挙の際は政党公認候補として出馬し、対抗候補も立てられる。
議員6人以上10人以下の推薦が必要で、単記移譲式投票で選出する。ただし議長を含めた4人のうち、全員を同じ性別とせず、かつ出身政党を与野党同数とする当選枠が適用される[13]。
院内総務
与党の院内総務は内閣閣僚の一員で、首相により任命される。
議事運営
法案は三読会制。伝統的に本会議(ないし全院委員会)審議を重視してきたが、最近は案件別(日本や米国のような所轄省庁別ではなく)常任委員会の設置など、委員会制度化へ向けての取り組みも見られる。金曜日を除き8時間を超えるロングラン本会議である。しかも会期中平日は毎日開会されている。
その上、終了間際に延会動議が提出され、それの審議のためと称してさらに30分ほど審議を続行する。この30分間は毎日一人ずつの議員が、自分の選挙区の問題や社会の関心を集めている問題について政府に質問し対応を求める時間として使われており、特に無名の平議員にとっては活躍のチャンスとなる。
議事日程
一般的な議事日程は以下の通りである(11:30開始の場合)
- 11:30 -
- 祈祷(Prayers) - 司祭により行われ、議長が着席する
- 諸手続
- 11:35
- 口頭質問(Oral Questions) - 大臣に対する質問
- 12:00
- 首相への口頭質問 - いわゆるクエスチョンタイム。水曜のみ
- 12:30 以降は討論(Debate)の時間となる。
- 政府報告 - 政府の方針や重要事項などがあれば大臣が発表
- 政府提出法案(Public Bill)の討論と採決
- 緊急討論(Emergency Debate)
- 19:00
- 延会討論(Adjournment Debate)
- 19:30 延会
基本的な開会時間は以下のとおり。ただし、開会時間は基本的なもので、自由に変更できる。
- 月曜 - 14:30-22:30
- 火曜 - 14:30-22:30
- 水曜 - 11:30-19:30
- 木曜 - 10:30-18:30
- 金曜 - 9:30-15:30(ただし金曜に開会することは少ない)
注釈
出典
- ^ “英国・公的機関改革の最近の動向”. 内閣官房. 2020年7月2日閲覧。
- ^ 間柴泰治「「2000年政党、選挙及び国民投票法」の制定とイギリスにおける政党助成制度(資料)」『レファレンス』第54巻第8号、国立国会図書館、2004年8月、70-79頁、CRID 1522262180332576384、doi:10.11501/999930、ISSN 00342912“国立国会図書館デジタルコレクション”
- ^ “Can Nick Clegg survive another meltdown for the Lib Dems?”. ガーディアン. (2014年5月11日) 2014年11月24日閲覧。
- ^ “Nigel Farage: after Ukip’s Rochester win general election is unpredictable”. ガーディアン. (2014年11月21日) 2014年11月24日閲覧。
- ^ “英国民投票:下院の選挙制度改革を否決、連立政権内で緊張の兆し”. ブルームバーグ. (2011年5月7日) 2011年5月7日閲覧。
- ^ “英下院の選挙制度変更、国民投票で大差の否決”. 読売新聞. (2011年5月7日) 2011年5月7日閲覧。
- ^ 古賀豪; 奥村牧人; 那須俊貴『主要国の議会制度』(PDF)(レポート)国立国会図書館調査及び立法考査局〈調査資料〉、2010年3月、13頁。全国書誌番号:21726805 。
- ^ 小松浩「イギリス連立政権と解散権制限立法の成立」『立命館法学』第341巻、立命館大学法学会、2012年1月、1-19頁、CRID 1390009224877656320、doi:10.34382/00006785、hdl:10367/3573、ISSN 0483-1330、NAID 110009523714。
- ^ 上綱秀治「2022年議会解散及び召集法の制定 : イギリス」『外国の立法. 月刊版 : 立法情報・翻訳・解説』第292-1号、国立国会図書館、2022年7月、16-17頁、doi:10.11501/12302071、ISSN 0433096X“国立国会図書館デジタルコレクション”
- ^ “Manor of Northstead: David Cameron - GOV.UK”. 2020年5月9日閲覧。
- ^ “ホイル新下院議長、引きずられて議長席に イギリス”. BBC (2019年11月5日). 2019年11月6日閲覧。
- ^ 前田英昭『世界の議会1イギリス』ぎょうせい、1983年。
- ^ 河島太朗「【イギリス】下院議事規則の改正」『外国の立法』第245-2号、国立国会図書館、2010年11月、NAID 40017388223。
- ^ 上田涼「イギリスにおける庶民院の優越の歴史的変遷」『憲法研究』第52巻、2020年、1-22頁、doi:10.34519/constitution.52.0_1。
- ^ Jory, Rex. (June 4, 2003). The Advertiser. Delight of a city not yet shackled by security. Section: Opinion. Pg. 18 (writing, "Entering the House of Commons to listen, from the public gallery, to Question Time is to be treated like a felon being sent to prison. I was stripped of anything larger than a fountain pen. Even a folded newspaper was viewed as a potential weapon of mass destruction.")
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