分布 (生物) 分布 (生物)の概要

分布 (生物)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/05 08:21 UTC 版)

この項では生物種などの分類群の分布について説明する。これがなぜ特別なのかと言えば、それがその分類群自体の歴史と深い関係があったり、環境とのかかわりがあったりと研究対象とされるからである。生物の分布に関する研究分野を生物地理学と言う。生物の分布には地理分布と生態分布があり、単に分布といえば前者を指す場合が多い。この項でも主としてこれを扱う。

概説

生物にとっては、その分布は重要な特徴のひとつと考えられる。それぞれの種の分布は、その生物の生理的、生態的な性質に依存するとともに、その種の歴史にも直結するものと考えられる。ある種の生物がある地に生息する場合、その種の生物がその地に分布すると言う。その種の分布する範囲を分布域と言うが、その意味で分布という場合もある。亜種や変種など、種以下のレベルの群に関しても、分布は重要な特徴である。より高次の分類群の場合も分布が重要な問題として取り上げられることもある。これらは、いずれにせよ生物が歴史的存在であり、種分化や変異、絶滅などの歴史を引きずっているからである。ただしより高次な群ほどその分化が古いことになるから、分布は地史に縛られにくくなるであろう。

分布の判断

ある生物が有る場所で発見された場合、それを以てその生物がその地に分布している、あるいはその地がその生物の分布域であると言うことは可能である。しかし、その地で発見されることとその地で生活を全うしていることは同じではない。普通は後者の場合をさして分布と言う。しかし実際にそのどちらであるかの判断は簡単ではない。

情報があまり豊かでない生物群の場合、そのような判断は難しいため、発見を以て分布と言わざるを得ない。それに対して、多くの研究者やマニアがいる分野、例えばチョウの場合、発見されたものが偶然にそこにいたことが判断できることが多い。それは例えばこれまでの採集記録や、発見された種の本来の分布域が知られていることによる。たとえば蝶類であれば、それ以外の地域に生息しているものが希にやってきて短期間のみ採集される例があり、これを迷蝶という。

分布の重なり

ある地域を中心に見て、そこに分布する生物の全体を指して生物相、あるいは分類群で分けて動物相植物相などという。この場合、同一地域に生息する生物すべてをまとめるのであるが、個々に見た場合、その地域を北限とするものや南限とするものが含まれ、その意味合いは同じではない。全体として捉える場合、どのような分布域を持つ種がそこに含まれるか、例えば固有種が多いか、より南に分布域を持つものが多いか、と言ったことをまとめてその地域の生物相の特徴と見なす。

地理分布と生態分布

種の分布を考える場合、まず大きく二つの面に分けられる。一つは地理的な広がりの面から把握するものである。これを地理分布と言い、説明する場合には地理的な固有名詞を使う。例えばタヌキの分布は北海道・本州・四国・九州とその周辺の小島を含む範囲の島嶼である。南西諸島や中国には生息しない、つまり分布していない。これを行政区分名を用いて日本(琉球列島などを除く)に分布すると言ってもよい。単に分布といえば地理分布の意味で使われることが多い。この項も主としてこれを扱っている。

もう一つは同一地域であっても細かな環境条件によって生息するかしないかが区別できる場合に、その生息する環境だけを分布域として見なすやりかたである。これを生態分布と言う。例えば渓流植物のように渓流とその周辺の狭い範囲だけに見られる生物の場合にははっきりと規定することができる。そうでない場合にも、各地点で実際に生息するかどうかを区別して行けば、実際に生息している範囲を確認できるから、これを生態分布ということもある。もっとも、実際にこれを行うのは困難な場合もあれば、大型動物のように大きく移動するものでは範囲を決めるのが難しい例もある。なお、生態分布の範囲内で、そこに含まれる個体の分布の状態のことを分布様式と言う。

水平分布と垂直分布

生物の分布域を地図上に示した場合の広がりを水平分布と言う。これに対して地上では標高、水中では水深と分布とのかかわりを考えた場合、これを垂直分布と言う。この二つは、巨視的にはそれぞれの方向に気候が変化することが分布の違いに結び付く。具体的には、陸上では水平には極側、垂直には標高の高い側でより寒冷になるから、気候に結び付いてはっきりした帯状分布がある。特に植物群落の種と結び付いて論じられることが多い。

水中でも垂直方向の分布の違いは明確である。たとえば海中での深度も生物群集の型を大きく分ける。水中で水深と関連させた分布のことは深度分布ということも多い。ただし水中の場合、深さの影響は陸上の場合より複雑で、水圧、水温、酸素濃度、物質生産などさまざまな要素がからんでくる。酸素の供給において水面が重要なこと、物質生産に関してはが水深に応じて極めて大きく減衰することなどの影響が大きい。

また、垂直分布という語は、より細かい部分での垂直方向の分布パターンについて使われることもある(土壌の深さと土壌動物の分布など)。







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