分布 (生物) 分布の拡大

分布 (生物)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/05 08:21 UTC 版)

分布の拡大

個々の生物の分布域は、常に一定なものではなく、変わり続けていると考えるべきである。上記のように、分布は歴史的に変化を続けており、それは現在も続いている。生物は基本的にはその個体群の維持と拡大に向けて競い合っていると考えられるから、どちらかと言えば分布域を拡大する方向の方策が探られていると考えるべきだろう。そのため、生活史のある段階で各々の個体が移動する、あるいは移動させられる過程がある。個体が能動的に移動する場合、これを分散と言い、種子のように受動的な場合には散布という。

たとえば縄張りを持つ動物の場合、縄張り個体の子が成長すると、縄張りから追い出され、子供は他の個体が縄張りを作っていない場所を探さなければならない。これは、他方ではその動物の分布域を拡大する役に立つかもしれないと言われる。種子植物では、その種子が散布体として機能し、さまざまな散布の手段が進化している。

このような分布拡大の手段は、必ずしも成功するものではなく、恐らく大多数が生き延びられないと思われる。さらに、必ず生き延びられないような移動が行われる例もある。例えば、ウスバキトンボのように、暖かい季節に熱帯から温帯に進出し、あちこちで繁殖しつつ、寒くなると全滅してしまう生物がある。これを死滅回遊というが、いつかは分布拡大の役に立つかもしれない。

なお、人の活動は多くの生物の分布拡大に影響しており、特に近世でそれが著しい。それらは自然な分布拡大とは区別して考えるのが普通であるが、古いものでは判断がつかない場合も多い。明確に人為的なものは移入種と言われ、そのような分布域は人為分布といわれる。

分布の連続性

上記のように生物はある場所で生まれ、そこから分布を広げつつ現在に至るものと考えられる。したがって、分布域はある程度連続した範囲をもつのが普通と考えられる。しかし、分布域が飛び離れて見えるものもある。そのような場合、それを不連続分布と言う。それに対して連続した分布域のものを連続分布と言う。

不連続分布であるものは、それなりの理由を考える余地がある。例えば、ある列島に分布する陸上生物は、当然分布域の間に海を挟む。これを不連続分布と見なす場合もあるが、すべての島に住んでいるなら連続しているとも取れる。特にそれが海浜植物であれば、海流分散によって分布するのだろうと想像され、連続と見るのがむしろ素直であろう。しかし、跳び石的に分布しない島がある場合は、その理由をどこかに求めるべきであろう。

極端に不連続な分布域をもつものを隔離分布と言う。

分布域の大きさ

分布域の大きさは分類群によって様々である。その違いは生物ごとの性質の違いによってもたらされるであろう。例えば寒帯に分布域のあるものは耐寒性が強いのであろうし、熱帯から温帯まで生育するものはその対応できる温度の範囲が広いであろう。しかし、分布域の広さを決める要素は、往々にして移動能力である。動物なら、飛べるものは分布域が広い例が多い。鳥類や昆虫のトンボ類は広域分布種を含む。クモ類も幼虫がバルーニングするものは広い分布域をもつものがある。また、大型動物の方が広いことが多い。植物系の生物は、自力では移動できないから、その分布拡大は種子などの散布体による。広く散布されるものの方がよい理屈である。熱帯の海岸植物には海流分散する種子を作り、それらには日本南部から東南アジアを経てオーストラリアまで、といった広い分布をもつものがよくある。

逆に移動能力の低いものは、分布拡大ができないだけでなく、内部での移動性も乏しいから、地域によって種分化を起こしがちで、時に各地方の固有種が乱立する状況が見られる。日本ではカタツムリサンショウウオカンアオイ等にそのような例がある。

思い切り小型の散布体をもつものにも広域分布のものがある。むしろ胞子のような小さいものの方が広域に広がれるのだろう。たとえばシダには日本からアフリカまでといった分布をもつものが幾つかある(タマシダウチワゴケなど)。人家には出現せず、野外の自然でしか見つからないようなカビにも世界的な分布域をもつものがある(スポロディニエラなど)。







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