分布 (生物)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/05 08:21 UTC 版)
分布域は何で決まるか
分布を決める要因は様々であるが、普遍的な要素としてよく取り上げられるのは温度である。特にその種の耐寒性の強さは分布の高緯度側の限界(あるいは垂直分布の上限)を決める重要な要素であると見なされる。そのため、水平分布においては北限や南限はその種の重要な特徴と考えられる。どの温度が問題になるかも場合によってさまざまである。耐寒性が問われる場合には最低温度が問題になることがあり、例えば凍結や霜があるかどうかが問題となることもある。また、植物が生育できる量を計るものとして、温量指数が使われる。
この温度を含め、塩分濃度、水圧、降水量など、環境を構成する物理化学的な条件は、生物の生理的能力に直接に結び付くものである。それぞれの生物は自分の能力内でしか生存できないから、物理化学的条件はその生物の潜在的な分布域の最大限を示すものである。
ただし、これらはさまざまな要因で変化することがある。例えば、暖地の植物は耐寒性に欠ける例が多いから、冬の寒さによってその分布が決まる。地球上では気温はほぼ緯度によって決まるから、その北限はほぼ一定の緯度の場所になる。しかし、実際には海流などによってこれは大きく変わり得る。さらに、気候データからは生存不可能な寒さの場所で生育している例がある。これは微気候が必ずしも気候データと同じでない事による。たとえば降雪が多い地域では、雪に覆われることで、地表付近がかえって空気の温度低下から守られる例がある。
また、生理的限界に関しては、種の分布を論ずる場合には重要だが、高次分類群を対象とする場合、その進化の歴史の中での適応があり得るから、あまり問題にはなりがたい。例えばゾウは現生種はすべて熱帯産だが、かつてはマンモスのように寒帯まで進出していた。
実際の分布域は、この限界の範囲内において、それ以外の要因によって決定される。それはたとえばえさとなる種の生存であったり、致命的な天敵の存在であったり、自身の移動能力の限界であったりと言った、生態学的な性質に依存するものと、陸橋や水系の変遷など、地史的なものに依存するものである。特に、近縁な、あるいは競争関係にある別種が互いに分布域を接していながら重複しないでいるのを住み分けと言う。これは生態分布で使われることが多い。
- 分布 (生物)のページへのリンク