リハビリテーション 安全対策

リハビリテーション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/05 09:45 UTC 版)

安全対策

リハビリテーションを受ける患者というのは、いわゆる健常者ではないために、リハビリテーション実施時に、転倒などに伴う負傷や、全身状態の悪化などが起こる場合もあるということは考慮しておかねばならない。そもそも、元々血行動態が安定していない患者、安静時においても酸素飽和度が90 %以下である患者、体温が38 ℃を超えている患者などに対しては、リハビリテーションの実施を見合わせることが検討される。さらに、リハビリテーション実施中においても、脈拍の異常な増加、血圧の急上昇、不整脈の発現、激しい息切れなどが現れた場合には、リハビリテーションの中止がなされたり、休憩を入れて患者のバイタルの回復を待ってから再開するといったこともあり得る[5]。また、精神安定剤高血圧治療薬などを服用している患者の場合は、転倒などの事故のリスクが上がると考えられるため注意を要する。この他、あってはならないことではあるものの、患者を取り違えて全く関係の無いリハビリテーションメニューを実施するという事故が起こり得ることも忘れてはならない。

リハビリテーションのチームアプローチ

脳卒中や脳外傷による障害は運動・感覚麻痺に加えて、言語の障害、知的な障害、家屋と地域の環境、家族関係、復学・復職の問題、経済的問題、地域社会資源活用など、本人・家族だけでは解決が困難な課題が山積していることが多いので、これらの解決を支援するために複数の専門職種がチームを組んで連携・協力して評価と治療を行う。

医学的リハビリテーションは医師の指示のもとに行われる。したがって医師は障害の状況を総合的に診察・評価して、リハビリテーションの目指す目標を設定し、目的と方法を提示し、これに伴う生命管理上のリスク限界を担当者に伝え、進行を管理する責任を負う。看護師は病棟生活での活動能力を把握して、家庭復帰後の生活を想定して他の専門職と協力し、日常生活の自立を技術指導し、本人と家族への心理的支援を行う。

  • 理学療法士(PT)は運動療法によって身体機能の改善を図る。運動療法には関節可動域の増大、筋力の増強、麻痺を回復させる神経生理学的運動練習などの他に、寝返り・起き上がり・起立・歩行などの練習・指導を含む。以上の補助手段としてホットパック・渦流浴・電磁波・低周波・牽引・マッサージなどの物理療法を用いる。
  • 作業療法士(OT)は作業活動を通じて心・身機能の回復を図り、日常生活の諸動作の自立を指導し、各種作業を応用して職業前評価・指導と趣味娯楽の開発・指導を行い、さらに精神疾患に対して各種作業を用いて精神的作業療法を行う。近年は教育分野での役割も大きく小学校などで教員と共に学習、学校生活全般に関わる作業療法士が増えてきている。特に広汎性発達障害、注意欠陥・多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害分野では重要な役割を持っている。
  • 言語聴覚士(ST)は言語概念の障害である失語症と言語発達遅滞、麻痺性構音障害、吃音、難聴の言語障害などに言語治療を行う。また咀嚼・嚥下障害に対する治療も言語聴覚士を中心に、医師、看護師、栄養士と連携して行う。
  • 臨床心理士は認知機能(知的機能・失認・失行・注意障害など)と性格(情緒障害を含む)の評価と治療・支援活動を行う。脳卒中・脳外傷・脳性麻痺などの中枢神経系の障害や自閉症、多動には不可欠な専門職だが、他の職種のような国家資格がなく、診療活動の有償化も課題である。
  • 柔道整復師
  • 医療ソーシャルワーカー(MSW)は本人の環境要因を調査して、ニーズと解決方法を把握し、社会資源の活用を含む環境調整的な側面から支援する。本人・家族への心理・社会的カウンセリングも重要である。身分制度の確立と、活動の有償化が今後の課題である。

生活機能分類(ICF)

疾病や外傷で起きる障害を把握する指標としてWHO は国際疾病分類(ICD)を補完するものとして1980年に国際障害分類(ICIDH)を発表した。しかしICIDH は医学モデル(疾病や外傷が身体の機能障害を招き、これが日常生活の能力を障害し、社会生活上の不利を招くとする思想で、障害は疾病と同様に個人の問題だとする立場)による分類であることから、これを改訂して社会モデル(障害は社会の様々な障壁に制約されて作られたものだから、完全参加が可能な環境の変更を社会全体の共同責任で取り組むべきだとする立場)による概念を含んで、両者を統合したモデルである国際生活機能分類(ICF)を2001年に作成した。

ICFの目的は①健康状況を研究する科学的基盤の提供、②健康状態を表現する共通言語の提供、③国家・職種・時根の相異に影響されないデータの比較、④健康情報システムに用いるコードの提供だとされている。

ICFの最大の特徴は、個人の生活機能はその人の健康状態だけで決まるものではなく、社会と個人の背景因子との双方向的な相互作用によって決まるものであるとしたことである。さらに大きな特徴は分類を(1)生活機能と障害、(2)背景因子の2部門に大別し、(1)生活機能を ①心身機能と構造、②活動と参加の2構成要素に分け、(2)背景因子として、環境因子と個人因子の2構成要素を掲げたことである。ICFのもう一つの特徴は、表現を心身機能と身体構造、活動と参加という中立的用語を用い、その障害を機能障害、活動制限、参加制約としたことである。中立的な表現を用いた根底には障害を否定的なものと捉えるべきでないとする立場が窺える。

心身機能には①精神機能、②感覚機能と痛み、③音声と発話の機能、④心血管系・血液系・免疫系・呼吸器系機能、⑤消化器系・代謝系・内分泌系機能、⑥尿路・性・生殖機能、⑦神経筋骨格と運動に関連する機能、⑧皮膚および関連する構造の機能があり、身体構造も同様に8項目に分類されている。

活動と参加は①学習と知識の応用、②一般的な課題と要求、③コミュニケーション、④運動・移動、⑤セルフケア、⑥家庭生活、⑦対人関係、⑧主要な生活領域、⑨コミュニティライフ・社会生活・市民生活がある。

環境因子は5項目で、①生産品と用具(採集・創作・生産・製造された自然あるいは人工的な生産品・装置・器具)、②自然環境と人間がもたらした環境変化(地理、人口、動植物、気候、災害、光、時間、音、振動、空気など)、③支援と関係(日常活動で提供される家族・友人・地域・上司・ボランティア・専門職などの人的支援)、④態度(家族・友人・地域・上司・ボランティア・専門職などの態度)、⑤サービス・制度・政策(消費財・建築・土地・住宅・公共事業・コミュニケーション・交通・保護・司法・団体・メディア・経済・社会保障・社会支援・保険・教育・労働・政治などに関わる)で構成される。

これらの分類は階層的に5段階に細分化される。結果は生活機能が9段階に評価して、小数点以下1桁目を実行状況、2桁目は能力(現時点で発揮できる最高のレベル)をもって評価する。環境因子は阻害因子5段階、促進因子5段階に評価し、小数点以下1桁目を阻害因子、促進因子があれば1桁目に+記号をつけて記述する。 個人因子の分類項目はまだ完成されていない。


  1. ^ 国連障害者に関する世界行動計画、1982年。
  2. ^ 「介護職員初任者研修テキスト 第2巻 人間と社会・介護 2」 初版第4刷 p.347 一般財団法人 長寿社会開発センター 発行 介護職員関係養成研修テキスト作成委員会 編集
  3. ^ a b c 「介護職員初任者研修テキスト 第1巻 人間と社会・介護 1」 初版第4刷 p.298 一般財団法人 長寿社会開発センター 発行 介護職員関係養成研修テキスト作成委員会 編集
  4. ^ 地域リハビリテーション支援活動マニュアル作成に関する研究班(班長:澤村誠志)
  5. ^ 前田真治、「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」 『The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine』 2007年 44巻 7号 p.384-390, doi:10.2490/jjrmc.44.384, 日本リハビリテーション医学会






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