ミスラ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/16 19:28 UTC 版)
インドのミトラ
インド神話では、契約によって結ばれた「盟友」をも意味し、友情・友愛の守護神とされるようになった。また、インドラ神など他の神格の役割も併せ持った。『リグ・ヴェーダ』ではアディティの産んだ十二柱の太陽神(アーディティヤ神群)の一柱で、毎年6月の一カ月間、太陽戦車に乗って天空を駆けるという。また、同じくアーディティヤ神群の一柱であるヴァルナとは表裏一体を成すとされる。この場合、ミトラが契約を祝福し、ヴァルナが契約の履行を監視し、契約に背いた者には罰を与えるという。
ミタンニ文書でもミトラはヴァルナ、インドラ、ナーサティヤとともに現れる[1]。
後世のインド神話ではあまり活躍しない。
イランのミスラ
「ミスラ」という語形はインドのミトラに対応するアヴェスター語形で、パフラヴィー語ではミフル(Mihr)、ソグド語ではミシ(Miši)[2]、バクトリア語でミイロ(Miiro)という。古くは、インドと同じく契約・約束の神だったが、中世以降は友愛の神、太陽の神という性格を強めた。民間での信仰は盛んで、ミスラを主神とする動きもあったとされる。
ゾロアスター教のミスラ
ミスラは司法神であり、光明神であり、闇を打ち払う戦士・軍神であり、牧畜の守護神としても崇められた。古くはアフラ・マズダーと表裏一体を成す天則の神だったが、後のゾロアスター教においてアフラ・マズダーが絶対神とされるようになったことに伴って、ミスラはヤザタ(中級神)の筆頭格に格下げされた。このような変化があったものの、「ミトラはアフラ・マズダーと同等」であることが経典の中に記され、元々あった両神の一体性は完全に消滅してはいなかったと見られる。中世ペルシアの神学では特に司法神としての性格が強調されるようになり、千の耳と万の目を以て世界を監視するとされる。また、死後の審判をも司るという。
マニ教のミスラ
マニ教におけるミスラ(ミフル神)の役割は、言語によって異なる。パルティア語ではミフル神は「第三の使者」と同一視され、中世ペルシア語では「生ける霊」と同一視される[3][2]。
曜日名
ミスラ神の光明神としての性格が強調され、太陽と同一視された結果、中世ペルシア語では日曜日のこともミフルと呼ぶようになった。これがソグド語に借用されてミールになり[4](バクトリア語からの借用とも[5])、「蜜」と音写された[6]。
宿曜道とともに平安時代の日本にも伝えられ、当時の具註暦では、日曜日に「密」「みつ」「みち」などと朱書きされていた。
- ^ Paul Thieme (1960). “The 'Aryan' Gods of the Mitanni Treaties”. Journal of the American Oriental Society 80 (4): 301-317. JSTOR 595878.
- ^ a b Werner Sundermann (2002). “MITHRA iii. IN MANICHEISM”. イラン百科事典
- ^ ミシェル・タルデュー 著、大貫隆; 中野千恵美 訳『マニ教』白水社、2002年、157,159頁。
- ^ Yutaka Yoshida (2013). “Sogdian”. In Gernot Windfuhr. Iranian Languages. Routledge. p. 329
- ^ Badri Gharib (2012). “HAFTA”. イラン百科事典. XI Fasc. 5. p. 530
- ^ 『宿曜経』下:日曜、太陽。胡名「蜜」、波斯名「曜森勿」、天竺名「阿你(泥以反)底耶(二合)」。
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