ヘーパイストス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 10:04 UTC 版)
概説
ゼウスとヘーラーの息子で第1子。生まれたヘーパイストスは両足の曲がった醜い奇形児であった。これに怒ったヘーラーは、生まれたばかりのわが子を天から海に投げ落とした。その後、ヘーパイストスは海の女神テティスとエウリュノメーに拾われ、9年の間育てられた後、天に帰ったという[3]。ヘーパイストスはその礼として、テティスとエウリュノメーに自作の宝石を送っている。
他の説では、ヘーラクレースの航海を妨害するために、嵐で船を漂流させたヘーラーが、ゼウスから罰せられるのを、ヘーパイストスがかばおうとしたことから、ゼウスによって地上へ投げ落され、1日かかってレームノス島に落ち、シンティエス人に助けられた。この時に足が不自由になったとされる[4]。
一般にはゼウスとヘーラーの息子とされるが、ヘーラーが1人で生んだという伝承もある[5]。それによればヘーラーはゼウスと対立し、ゼウスと交わらずに1人で生んだという[6]。またゼウスは男性ながら、美貌と才気を兼ね備えた女神アテーナーを生んだが、ヘーラーの生んだヘーパイストスは醜い子供だったので、これにより正妻としての面目を失ったヘーラーは、対抗してティーターンの力を借り、自分も1人で子テューポーンをもうけたという[7]。
ヘーパイストスはオリュンポスの神々に加えられたが、ヘーラーの彼への冷遇は続き、彼は母への不信感を募らせていった。そんなある日、ヘーパイストスからヘーラーに豪華な椅子が届けられた。宝石をちりばめ、黄金でつくられ、大変美しい椅子で、その出来に感激した上機嫌のヘーラーが椅子に座ったとたん体を拘束され身動きが取れなくなってしまった[8]。その後ディオニューソスがヘーパイストスを酔わせて天上に連れてきて解放させたといわれる[9]。
神々の武具を作ることで有名なヘーパイストスだが、自ら戦うこともある。『イーリアス』ではヘーラーに命じられて、アキレウスを襲う河神スカマンドロスと対決し、決して弱まらぬ炎を放って巨大な河そのものを瞬時に沸騰・蒸発させ、河の神を屈服させた[10]。また軍神アテーナーは、頭痛に悩むゼウスが痛みに耐えかね、ヘーパイストスに命じて斧(ラブリュス)で頭を叩き割らせることで、ゼウスの頭から生まれたという[11]。
なお、ヘーラーが一人で生んだのはアレースとする伝承もある。詳しくはフローラを参照。
ヘーパイストスの妻はアプロディーテーとも[12]、カリスの[3]アグライアーともいわれる[13]。一説には天上の妻はアプロディーテーであり、地上の妻はカリスであるという[14]。
ヘーパイストスの子供にはアテーナイの王エリクトニオス[15]、テーセウスに退治されたペリペーテース[16]、アルゴナウタイの1人であるパライモーンなどがいる[17]。
- ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』。
- ^ “(2212) Hephaistos = 1978 SB”. MPC. 2021年9月25日閲覧。
- ^ a b 『イーリアス』18巻。
- ^ 『イーリアス』1巻。アポロドーロス、1巻3・5。
- ^ アポロドーロス、1巻3・5。
- ^ ヘーシオドス『神統記』927〜928。
- ^ 『ホメーロス風讃歌』第3歌(「アポローン讃歌」)。
- ^ ヒュギーヌス、166。パウサニアス、1巻20・3。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』231頁。
- ^ 『イーリアス』21巻。
- ^ アポロドーロス、1巻3・6。ピンダロス『オリンピア祝勝歌』第7歌35〜37。ルキアーノス『神々の対話』。
- ^ 『オデュッセイア』8巻ほか
- ^ ヘーシオドス『神統記』945〜946。
- ^ ルキアーノス『神々の対話』。
- ^ アポロドーロス、3巻14・6。ヒュギーヌス、166ほか。
- ^ アポロドーロス、3巻16・1。パウサニアス、2巻1・4。
- ^ アポロドーロス、1巻9・16。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』232頁。
- ^ 『オデュッセイア』8巻。
- ^ ルキアーノス『にわとり』3。
- ^ アポロドーロス、3巻14・6。
- ^ ヘーシオドス『仕事と日』。
- ^ ヒュギーヌス、140。
- ^ 『イーリアス』18巻ほか。
- ^ アポロドーロス、1巻9・26。
- ^ アポロドーロス、2巻5・6。
固有名詞の分類
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