ビジネスモデル特許 ビジネスモデル特許の概要

ビジネスモデル特許

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/05 07:11 UTC 版)

名称

米国では1980年代から"Business method patent"が存在しており、これが日本では「ビジネスモデル特許」と呼ばれるようになった[3]

ビジネス方法に係る発明は「ビジネス関連発明」または「ビジネスモデルに関する発明」等と呼ばれ、それに与えられる特許は、「ビジネスモデル特許」、「ビジネス方法特許」または「ビジネスの方法に関する特許」等とも呼ばれる。以下、本項においてはそれぞれを「ビジネス関連発明」、「ビジネス方法特許」という。

日本の特許庁では本対象を表すのに便宜上「ビジネス方法の特許」という固有の名称を用いているが、他と区別して特別に扱われる特許が存在する訳ではなく、ビジネス関連発明に与えられる通常の特許と何ら変わらないものであり、ビジネス方法に特別な種類の保護を与える法制度も存在しない[1]

ビジネス関連発明は、国際特許分類 (IPC) でG06Q、米国特許分類(USC)で705に分類されることが多い。

歴史

1998年7月の米国でのステートストリートバンク事件の判決において「ビジネス方法であるからといって直ちに特許にならないとは言えない」ことが判示された。これにより、ビジネス方法であっても特許となりうることが明確になり、さらには純粋なビジネス方法でも特許になるとの誤解が生まれたことから、米国でビジネス関連発明の出願が急増した。日本においても、この事件の動向に関する報道により、米国に若干遅れて、1999年には約4,100件だったこの分野の出願が2000年には約5倍の約19,600件になるほどの出願の急増を招いた[4]。当時は、ビジネス関連発明に対する各国特許庁の体制が充分に整えられておらず、ビジネス方法発明の特許出願に対する審査基準が明確に示されなかったことや、特に米国でありふれたビジネス方法に特許が付与された例があったこと等が、無制限な出願に拍車をかけた。

新規申請ではなく、過去に出願した特許を、多少、強引に解釈して、特許を使っていると主張する試みも行われ(サブマリン特許)、ハイパーリンク、JPEGフォーマット、ダイアログメッセージ等に関して特許主張が行われた[要出典]

余波として

  • トヨタのカンバン方式の特許のように「他社の使用を制限する意思は無いが他社に出願される前に特許を取った」と、とりあえず特許を取る
  • ユニシスの特許主張で、それまで自由に使用できたGIFフォーマットが使えなくなった。
  • コナミのように商標を闇雲に申請する会社
  • ドメインネームを使う意思も無いのに押さえる

など、特許、商標といった早い者勝ちの世界で混乱を招いた。

2000年以降になると、各国特許庁における審査体制が徐々に整備されるとともに、一般にも純粋なビジネス方法が特許になるわけではないことが認識されるようになった。日本の特許庁の統計によると、ブーム期のビジネス関連発明の拒絶査定率は約92%に達し、出願の多くは特許として成立しなかった。また、米国特許庁においても、審査の厳格化により、ビジネス関連発明の特許率は20%弱にまで低下してきている[5]

日本の特許庁は、「ビジネス関連発明に対する審査状況をみると、特許になる割合が他の分野に比べて極めて低い状況が続いており、2003年-2005年では8%前後に留まっています。・・・これらのとおり、ビジネス関連発明においては、審査・審判を通じて権利化される出願の比率がきわめて低い状況が続いていることから、今後は審査請求の必要性を慎重に吟味することが望まれます。」とコメントしている[6]

このような状況の変化を受け、ビジネス関連発明の大量出願のブームは沈静化しているが、現在でも、一定量の出願が行われている。特に、デジタルコンテンツ取引、広告、マーケティングに関連する分野の出願の割合は伸びている[7]

年表 [8]

  • 1908年:米国でホテル・セキュリティー事件が起きた[9][10]
  • 1983年:米メリルリンチ判決によって、ビジネスメソッドが特許になることが示された。
  • 1994年:米国特許庁が審査ガイドラインを改訂し、ビジネスメソッド特許を加えた。
  • 1995年:日本で、富士銀行第一勧業銀行等の金融機関が、シティバンク銀行の「電子マネー特許」広告に異議申し立てを行い、特許庁が異議を認めて特許としない「拒絶審査」を下した。
  • 1996年:米国特許庁が審査ガイドラインを改訂し、ビジネスメソッド特許に特別の基準を設けないと明記した。
  • 1998年7月:ステートストリート事件判決によって、米国で「ビジネス方法を除外する原則」が崩壊し、ビジネスメソッド特許が法的に認められた。
  • 1998年8月:プライスラインドットコム社の「逆オークション特許」が成立した。
  • 1999年1月:シティバンク、エヌ・エイ社が日本の特許庁に対して「電子マネー特許」に関する拒絶査定不服審判を申し立てた。
  • 1999年4月:米国特許庁が、AT&T社の長距離電話サービスシステムに関するビジネスメソッド特許を認めた。
  • 1999年10月:逆オークション特許を侵害しているとして、プライスラインドットコム社がマイクロソフト社とエクスペディア社を訴えた。
  • 1999年10月:ワンクリック特許を侵害しているとして、Amazon.com社がバーンズ・アンド・ノーブル社を訴えた。(1999年12月、シアトル地裁判決によりAmazon社が勝訴)
  • 1999年11月:ショッピングカート特許を侵害しているとして、ジュリエット・ハリントンがYahoo!社を訴えた。
  • 1999年11月:ユーザーターゲッティング方式のバナー広告に関する特許を侵害しているとして、ダブルクリック社がL90社を訴えた。
  • 1999年11月:米国特許法を改正し、ビジネスメソッドに対する先発明者権を認めた。
  • 1999年12月:日本の特許庁がシティバンク、エヌ・エイ社の「電子マネー特許」を特許として認めた。
  • 1999年12月:日本の特許庁が「ビジネス関連発明における審査の取り扱いについて」を発表した。
  • 2000年1月:ビジネスメソッド特許を侵害しているとして、米国でアラン・コンラッドが製造業など計39社を相手に提訴した。
  • 2000年1月:住友銀行が仮想口座を使った決済サービスで、日本での日本企業による最初のビジネスモデル特許を取得した。
  • 2000年4月:米国でIS社がプロバイダ50社に対して、電子メールに関する特許侵害に関する警告を発した。
  • 2000年10月:日本の特許庁が「ビジネス方法の特許について」を発表した。

実例

オープン・マーケット・ショッピングカート

特許概要
  • 「ネットワーク販売システム」
  • 1998年2月3日、米国で登録
  • オープン・マーケット・インコーポレーテッド

消費者は、インターネット・サイト上の仮想スーパーマーケット、または仮想商店街において、購入希望の物品を必要なだけショッピングカートに入れていく。購入のための手続きは、個別の商品ごとではなく総額として最後に1度だけ行う。インターネットが広がりを見せ始めた黎明期には個人の特定にリスクが伴い、認証などに工夫が求められた。2012年現在では、インターネット上のほぼ全てのショッピングモールで同様の方式が採用されている[11]

逆オークション

特許概要
  • 「買い手主導の条件付き購入の申し出を促進するために設計された、暗号により援助された商業ネットワークシステムのための装置および方法」
  • 1998年8月11日、米国で登録
  • ウォーカー・アセット・マネジメント・アセット・リミテッド・パートナーズ

元々は航空会社が空席を減らすために考案された。消費者は、プライスラインドットコム社が運営するインターネットの仲介サイトで航空チケットの購入希望条件(ルート・日時・クラスなど)を入力し、各航空会社はプライスラインドットコム社から受けた条件に応じて価格を提示する。プライスラインドットコム社はサイト上で、消費者へ最も安い航空チケットの販売を仲介する。消費者は、航空チケットの価格問い合わせ時にクレジットカード情報が求められるため、購入意思の高い者であり、その後の購入手続きも迅速・確実が期待できる。

プライスラインドットコム社の本方式による航空チケット販売サイトには、全米のほとんどの航空会社が参加している。また、プライスラインドットコム社は、航空チケットだけにとどまらず、ホテル、レンタカー、生活雑貨の販売仲介まで広く採用している[12]

ワンクリック

特許概要
  • 「通信ネットワークを介した購入注文を申し込むための方法およびシステム」
  • 1999年9月28日、米国で登録
  • Amazon.com

消費者がインターネット上で購買取引を行う場合に、住所や電話番号といった連絡先やクレジットカード番号などを1度ユーザー登録すれば、2度目の購買時からはユーザーIDの入力だけで煩雑な再入力が省ける。

Amazon社が本ビジネスメソッド登録を申請した当時は、インターネット画面を通じた電子情報だけで購入申込みと支払い手続きを済ませる手法に、多くの企業が信頼性に不安を持っていた。また、顧客に対して必要な情報を毎回繰り返し入力を求めることで、顧客も安心すると考えていた。 Amazon社は書籍などの比較的安価な物品を顧客に何度も継続して購入してもらうことが良いと考え、必要な登録手続きを最初の1度だけで済ませることにした。インターネットを用いた購買が普及すると、このような簡便な方法が標準となった[13]


  1. ^ a b 岩崎(2001年)、9-11頁
  2. ^ ただし、コンピュータ等の明示をせず、特定のシールを「出力する計量機」を使用することを特徴とする方法が認められた例はある。平成29年(行ケ)第10232号[1]、特許取消決定取消請求事件:特許第5946491号「ステーキの提供システム」に関する判決。ここでいう「システム」とはコンピュータシステムの事ではない。
  3. ^ 1990年代後半に日本のメディアが「ITを用いた新しいビジネスのやり方」を指す名称として「ビジネスモデル特許」を用いるようになった。(岩崎(2001年)、10頁)
  4. ^ ビジネス方法の特許について
  5. ^ The USPTO’s Spring 2006 Business Methods Partnership Meeting
  6. ^ ビジネス関連発明の最近の動向について
  7. ^ 特許庁・特許出願技術動向調査報告(電子商取引) (PDF)
  8. ^ 岩崎(2001年)、25頁
  9. ^ 米国のホテルにおいて、請求書の重複管理することで従業員による不正行為を防止するため会計方法を特許としてとして認めるよう争われた。
  10. ^ 米国知財事情 - PATENT LAW GUIDE(2012年5月16日閲覧)
  11. ^ 岩崎(2001年)、132-133頁
  12. ^ 岩崎(2001年)、130-131頁
  13. ^ 岩崎(2001年)、128-129頁
  14. ^ ビジネス方法関連発明の三極共同サーチ・プロジェクト報告書の概要
  15. ^ 米電子フロンティア財団、“ワンクリック特許”などの無効キャンペーン
  16. ^ a b 無効な知的財産権が増加する懸念と制度的対応の重要性
  17. ^ 特許は高い確率で事後的に無効になる
  18. ^ 新たな分野における特許と競争政策に関する研究会報告書について(公正取引委員会) (PDF)
  19. ^ IEEE





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