シルヴェスターの慣性法則
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/06 02:13 UTC 版)
具体的に二次形式を定義する対称行列 A と D = SAS⊤ が対角行列となる正則行列 S に対して、D の主対角線に並ぶ正の成分の数および負の成分の数は S に依らず同じである。
名称は、(Sylvester 1852) においてこの性質を証明したジェームス・ジョセフ・シルベスターに因む[1]。
定理の主張
n次正方行列 A は実成分を持つ対称行列とする。同じサイズの正則行列 S は A を別の n次対称行列 B = SAS⊤ へ変換するものとする。ここに S⊤ は S の転置行列である。即ち、行列 A と B は合同とする。A が Rn の適当な二次形式の係数行列ならば B は同じ二次形式に S の定める基底変換を行って得られる二次形式の係数行列である。
対称行列 A はこの仕方で必ず対角成分が 0, +1, −1 の何れかであるような対角行列 D に変換することができる。シルヴェスターの慣性法則はこのような各種の対角成分の数が(行列 S の取り方に依らない)A の不変量であることを述べる。
+1 の数 n+ を A の正の慣性指数 (positive index of inertia) と言い、−1 の数 n−1 を負の慣性指数 (negative index of inertia) と呼ぶ。0 の数 n0 は A の核の次元であり、A の余階数(退化次数)である。これらは明らかに
なる関係を持つ。差 sgn(A) = n− − n+ を普通は符号数と呼ぶ(が、A の正負の慣性指数と退化次数の三つ組 (n0, n+, n−) を符号数と呼ぶ文献もある。与えられた次数の非退化形式に対しては、どちらで書いても同じ情報を与えるが、一般には三つ組のほうが情報が多い)。
行列 A が、左上からの k次主小行列式 Δk が何れも非零であるという性質を持つならば、負の慣性指数は列
の符号変化の数に等しい。
固有値を用いた主張の言い換え
対称行列 A の正負の慣性指数は A の正負の固有値の数でもある。任意の実対称行列 A は A の固有値からなる対角行列 E と固有ベクトルからなる正規直交行列 Q を用いた A = QEQ⊤ なる形の固有分解を持つ。さらに行列 E = (eij) は E = WDW⊤ で D が 0, +1, −1 を成分とする対角行列、W が wii = √|eii|}} を成分とする対角行列となるようにできる。行列 S = QW は D を A に変換する。
- ^ Norman, C.W. (1986). Undergraduate algebra. Oxford University Press. pp. 360–361. ISBN 0-19-853248-2
- 1 シルヴェスターの慣性法則とは
- 2 シルヴェスターの慣性法則の概要
- 3 二次形式の慣性法則
- 4 一般化
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