クモ膜下出血
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/25 13:26 UTC 版)
治療
クモ膜下出血の予後決定要因は再出血と脳血管攣縮、そして血腫や脳浮腫によって脳血流が妨げられることにある。この3つに焦点を絞った治療を行う。脳神経外科の専門病院に搬送し緊急に原因治療を行い、合併症の出現を防ぐ。
一般に、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血が起った場合の治療は重症度によって異なる。重症度の分類としてはHuntとKonsnikの重症度分類が有名である。
- 脳動脈瘤破裂の場合は発症直後(特に24時間以内)に再出血が多く、安静を保ち、侵襲的処置や検査を避ける。重症でなければ、Grade1-3ならば降圧、鎮静、鎮痛を十分に行い、年齢、全身合併症にて不可能でない限り72時間以内に外科的手術を行う(全身状態が安定すれば早い方がよい)。痙攣対策として早期から抗痙攣薬を投与することもある。動脈瘤破裂の場合はクモ膜下出血の合併症である再出血(14日以内)、遅発性脳血管攣縮(4-14日後)、正常圧水頭症(数か月後)といった合併症の管理も必要となる。
- 開頭手術の場合は遅発性脳血管攣縮予防のため脳槽ドレナージにて脳槽内血腫を早期除去や、塩酸ファスジルやカルシウム拮抗薬(nimodipine)の全身投与を行う。他にもtriple H療法、塩酸パパベリン選択動注療法、PTAなど各種治療がある。
- 比較的重症例Grade4ならば脳循環動態の改善が重要であり、頭蓋内圧降下の薬投与、心合併症に注意した全身循環動態の管理が必要である。急性水頭症、脳内出血などを同時に治療することによって状態の改善が見込める場合には積極的に外科的な治療を行う。
- 最重症例Grade5では原則として再出血予防の適応は乏しい。しかし比較的重症例と同様に症状の改善が見込める特殊な例には再出血予防手術を行う。数か月後におこる正常圧水頭症 (NPH) はVPシャントで治療可能であるため重要である。
感覚遮断
最初の24時間は再出血の危険が極めて高いため、鎮静剤と羞明防止(暗室化)により血圧上昇を防ぐ。
開頭動脈瘤クリッピング術
- 利点
- 直視下に動脈瘤が確認できる。
- 長年にわたる成績が出ており、再破裂のリスクが低い。
- 血腫が存在する場合一緒に除去できる。
- 欠点
- 動脈瘤が嚢状でないと困難。
- 脳・血管の損傷。
48時間以内に行うのが理想である。ただ出血直後は動脈瘤からの出血が止血していない可能性があるため、最低でも発症から6時間経過した上で開頭する。
この手術で使用されるクリップはチタン製のものが多い。鉄を使用しないのは、MRIが使用できなくなることを避けるためである。また、血管攣縮を防ぐために同時に血腫の除去も行われる。
なお、未治療で発症から1週間程度経った場合は手術を施行することで血管攣縮を発症させる可能性があるため、血管攣縮の可能性が少なくなる時期までは治療しない。
血管内治療
造影下において動脈瘤内にプラチナ製のコイルを詰めて閉塞するコイル塞栓術(脳動脈瘤コイリング術)、血管攣縮に対する血管拡張薬(塩酸パパベリンなど)の動注療法が行われる。近年、治療成績が開頭術を凌駕しつつある[24]が、脳血管疾患の救急搬送体制・集中治療体制の整備による要素もあり、どちらの治療が適しているかは専門医が判断しなければならない。
3H療法
血管攣縮の予防、ならびに脳浮腫の状態でも動脈灌流を維持するため、高血圧(Hypertension)・高循環血液量(Hypervolemic)・血液希釈(Hemodilusion)療法が行われる。具体的には高張輸液の大量投与、時にはアルギン酸やアルブミンの投与も行われる。高カロリー輸液などもかつては行われたが、高血糖は予後を低下させる[25](脳の酸素消費亢進、それによるCO2産生の増多→血管原性浮腫の増悪など)ことから下火になりつつある。
その他の治療法
血糖コントロール[26][27]、硫酸マグネシウム静注などがあるが、エビデンスを提示するまでには至っていない。
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